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SiCトランジスタ向け感光性耐熱レジストを開発【東レ】
2014年9月17日
-製造工程を大幅に簡略化、「フルSiC」パワー半導体モジュールへの対応が可能に-
東レ㈱(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣、以下「東レ」)はこのたび、次世代パワーエレクトロニクス(インバータなどの電力機器)に用いられるシリコンカーバイド(Silicon Carbide、以下「SiC」)トランジスタ向けに、製造工程であるイオン注入プロセスを大幅に簡略化できる感光性耐熱レジストを開発しました。これまでに、つくばイノベーションアリーナ(TIA-nano)におけるパワーエレクトロニクス共同研究体「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション」(以下「TPEC」、所在地:茨城県つくば市)において、本開発品を適用したデバイス製作の実証を行い、従来の無機酸化膜を用いたプロセスと同等レベルの電気特性が得られることを確認しています。
東レは昨年、SiCダイオード向けに開発した感光性耐熱レジストについて、TPECでのデバイス製作の実証に成功しました。今回、新たに開発した感光性耐熱レジストを用いたSiCトランジスタ製造プロセスを確立したことにより、SiCダイオードとSiCトランジスタによる「フルSiC」パワー半導体モジュールに対応した材料提供が可能となります。
今後は、本開発品の量産プロセスへの適合を目指し、材料・プロセス両面の最適化を進めてまいります。
SiC半導体デバイスは、従来のSi半導体デバイスに比べてエネルギー損失が小さく、高耐熱性であり、約10倍の絶縁破壊耐性を持つなど次世代のパワー半導体として注目されています。既にエアコンやハイブリッドカー、電車、太陽電池用パワーコンディショナーなど一部用途で実用化が始まっており、機器の低消費電力化や小型化に貢献するデバイスとして本格普及が期待されています。
通常、SiC半導体デバイス製造工程においては、SiCウェハ上にマスクを介してアルミ等のイオンを注入し、電気特性を制御するための回路を形成します。このイオン注入は300℃以上の高温下で行われるため、マスク材料には高い耐熱性が要求されます。
現在、マスク材料には高耐熱性に優れる二酸化ケイ素(SiO2)などの無機酸化膜が広く用いられており、フォトレジストを用いてマスクのパターン形成が行われています。しかし、このプロセスでは、無機酸化膜(マスク材料)の真空蒸着、レジスト塗布、フォトリソ加工によるパターン形成、エッチング、レジスト剥離、高温イオン注入、マスク除去といった一連の長く複雑な工程を繰り返す必要があり、高コストであるという課題がありました。
また、トランジスタはダイオードと比較してより微細な回路設計が必要であることから、高温イオン注入マスクにもより微細なパターンが求められています。
これに対して東レは、独自の耐熱性樹脂設計技術と感光性材料設計技術により、450℃以上の高い耐熱性を持ち、一般的なフォトリソ加工により解像度1.5µm以下の微細なパターン形成が可能な感光性耐熱レジストを開発しました。同時に、従来のマスク材料と同様、ウェハへのイオン阻止性能やイオン注入処理後の除去性能も有しています。本開発品は、スピンコーターで塗布できるとともに、直接パターニングによってマスク材料として使用できることから、従来プロセスに比べて40%以上の時間短縮が可能など、イオン注入プロセスの大幅な簡略化を実現するものです。
東レは、本開発品のさらなる性能向上に取り組み、早期に解像度1µm以下、耐熱性500℃以上の達成を目指します。
東レは、2012年から参画している「TPEC」において、独立行政法人産業技術総合研究所(所在地:東京都千代田区、理事長:中鉢 良治)、富士電機㈱(本社:東京都品川区、社長:北澤 通宏)、㈱アルバック(本社:神奈川県茅ヶ崎市、社長:小日向 久治)と共同で、感光性耐熱レジストを高温イオン注入マスク材料として適用した簡略化プロセスによるデバイス製作の実証検証に取り組んでいます。昨年にはSiCダイオードについて実証に成功しましたが、今回、SiCトランジスタについても新たに開発した材料と、フォトリソ加工プロセス、イオン注入プロセス、マスク剥離プロセスの最適化により、従来の無機酸化膜と同等レベルの電気特性を得ることができました。これにより、SiCダイオードとSiCトランジスタによる「フルSiC」パワー半導体モジュールへの対応が可能となります。
今後は、東レの強みである材料開発と、共同研究による実用化に向けた開発を一層強化し、大きな成長が期待される次世代パワーエレクトロニクス用途での量産適用を目指して、材料・プロセスの最適化を加速してまいります。
なお、今回の成果は9月22日に開催される10th European Conference on Silicon Carbide and Related Materials (ECSCRM 2014)で発表予定です。
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