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AIバスケットボールロボットCUE(キュー)開発記【トヨタ自動車】

2019年3月29日

AIバスケットボールロボットCUE(キュー)開発記
-素人が一から新しいことに挑戦する社内チャレンジ-

・CUEは元々、社内の有志が自由時間に開発した「AIを搭載し100%シュートを決めるロボット」
 (CUEとは「きっかけ」という意味)
・2019年4月10日のBリーグ アルバルク東京vsサンロッカーズ渋谷戦で新型となる
 CUE3(キュースリー)を披露する予定

世界初!?ロボットバスケットボール選手
「トヨタが開発したバスケットボールロボットが、プロバスケットボールチーム アルバルク東京(以降、アルバルク)に選手登録されているらしい」。そんな噂を耳にして、すぐさまアルバルクのHPを覗いてみた。確かにいる。他の選手とは明らかに違う風貌をしているのですぐに目に留まった。名前はCUE2。愛知県豊田市出身とある。

アルバルク東京のHPより抜粋(2019年2月時点)

プロバスケットボールリーグの歴史において、ロボットが選手登録されたのは今回が初めてとのこと。しかしCUEとは何者なのか。2というからにはCUE1がいたのだろうか。よくよく調べてみると、初代のCUEらしき映像をYouTube上に見つけた。閲覧数…32万回!?トヨタの新型車両の紹介映像よりも閲覧数が多いではないか。

 

 

いずれにしてもバスケットボールロボットをトヨタが開発しているというのは確からしい。しかしなぜ今トヨタが?「自動車業界は100年に一度の大変革の時代」と言われる中、そんな余裕は決してないはずだ。そう思われる方も多いだろう。トヨタはバスケットボールロボットの開発にどのような意義を見出しているのか。体当たりでお伝えしたい。

社内有志団体の企画から誕生した!?
現在未来創生センターAIアスリートロボット開発グループで開発されているCUEだが、もとはトヨタ最古の歴史を持つ社内有志団体「トヨタ技術会」(以降、ト技会)のイベント企画の一つとして生まれたそうだ。企画のテーマは「全くの素人が一から人工知能の開発に挑む」というもの。人工知能とは、人間のように知的な判断や作業を行う人工的なシステムのことだが、人間と同じく学習が必要となる。早速人工知能への学習に取り組むも、いったい何をどれだけ学習させればよいのか見当もつかない企画メンバーたち。学習量について議論が煮詰まった時、メンバーの一人が口にした有名バスケ漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」の主人公・桜木花道のセリフ「(シュート練習)2万で足りるのか?」という言葉をきっかけに、「人工知能でゴールまでの距離を自分で計算し、100%シュートを決めるロボットが開発できたらすごくないか!?」というアイデアが生まれた。CUEの開発が始まった瞬間である。

トヨタ技術会とは
トヨタ技術会(通称 : ト技会)は、1947年に発足したトヨタ自動車最古の社内有志団体で、一昨年創立70周年を迎えた。活動の目的は、会員の技術・技能の向上、および親睦を深め、様々な事業の技術分野の発展に寄与すること。現在の会員数約3万人。

想定外の反響

ロボット開発の経験もない、人工知能なんてもってのほかの素人メンバーが一から勉強し、試行錯誤を繰り返して開発した初代CUEは、ト技会の一般公開イベントで披露され、期間中全10本のシュートパフォーマンスのうち9本決めたそうだ。(ちなみに外した1本は、役員が見学に来た際にCUEが緊張して外したとの噂だ)。ここで企画としては終了するはずであったが、なんとその後アルバルク東京から声をかけられ、2018年3月28日、アルバルクの試合のハーフタイムショーでパフォーマンスを披露することに。そこからの想定外の反響は、先ほどのYouTube映像が示すとおりである。

アルバルク東京とは
日本の男子プロバスケットボールリーグであるBリーグのチーム。馬場雄大選手や竹内譲次選手、田中大貴選手など日本代表クラスの選手を擁し、2017-18シーズン優勝の経験もある強豪チーム。ちなみに事務所は、トヨタの東京本社の12階にある。

そして仕事へ

こうした反響を受け、社内からも「面白いからもう少しやってみたら?」という声があり、期限2年間という条件付きで、仕事として次期CUEの開発を継続することが決まったそうだ。仕事としてやるからには、責任を持って仕事の目的を定め、実行しなければならない。開発チームリーダーの野見知弘さんはCUEプロジェクトの目的をこう説明する。

「ト技会の活動時は、素人が一から新しいことに挑戦する姿を見せることで、『あいつらにできるならおれたちもやるぞ』、『おれたちはもっとやるぞ』という風に社内に刺激を与え、社内の働き方改革を推進するきっかけ(=CUE)になれれば、と思っていました。

仕事として取り組む機会を頂いたからには、『素人にしてはすごい』ではなく、『文句なしにすごい』ものを超短期間で開発し、トヨタはまだまだやれるぞ、という姿を見せていきたいです。そしてワクワクドキドキするものづくりで日本を明るく元気にしたいと思っています」。

ちなみに本プロジェクトは、上司決裁もなく、基本的に全ての業務がメンバーの裁量で行われている。また、できるだけ仲介費用を抑えるため、部品の調達もメンバーが直接おこなう。2年間という期限を定め、裁量と責任を与え、メンバー全員が自分のやるべきことを自分で考えながら開発を進めていくという挑戦が、果たしてどのような結果を生むのか。トヨタの狙いはそこにあるのかもしれない。CUE開発チームが背負う期待、そしてプレッシャーは非常に大きい。

ここで、2018年5月より本格始動したCUE開発チームの挑戦の日々を映像で紹介したい。

 

 

CUE開発チーム紹介映像

CUEからCUE2へ
CUEがデビューしてからCUE2のお披露目までの期間はおよそ半年。6ヶ月という期間で、CUEの時は足元にあった台座がなくなり、すっきりとした二足自立となった。それだけではない。これまではフリースローエリアからのシュートだったが、CUE2はスリーポイントエリアの外に立っている。

野見さんいわく「シュート距離が伸びるほど、小さな動きの誤差が大きな影響になる。1°でもシュートモーションがずれると、スリーポイントは入らない」そうだ。

CUEの進化

2018年11月24日の本番、CUE2は見事にスリーポイントシュートを2本連続で沈めてみせた(その後、気分を良くしさらに遠くからのシュートにも挑戦したが、これは残念ながらリングに嫌われた)。台座をなくすためにモーターを小型化し体内に収めつつ、より遠くにボールを飛ばすため出力は上げなければならない、という技術的な難しさを乗り越えた先のパフォーマンスであった。

トラブルを乗り越えて
こうしてみると、CUEの開発は特に大きな失敗もなく順調に進んでいるように見えるが、実はまったくそんなことはない。CUE2のパフォーマンスの際は、本番一週間前までスリーポイントシュートはおろかフリースローも決まらず、9人しかいない開発チームはギリギリの調整を迫られていた。トヨタでは、外に製品を公開する際は常に100%の完成度を目指し、非常に厳しいチェックを行っている。それはクルマなど、人の命を預かるものとしては当然のこと。しかし、CUEの活動は、これまでとは異なるやり方で、未完成の状態でもいいから出してみる、失敗や挫折も含めて学び、前に進んでいくことにチャレンジしている。課題に直面することも多いが、そうした時各所から助けてくれる仲間が集まるのがCUE開発チームの不思議な魅力だ。

アルバルクのスタッフの方々は、本番一週間前から、選手の練習用コートを半面貸してくださり、CUEの本番を想定した練習をサポートしてくれた。それだけでなく、ロボットや機材の搬入・搬出まで手伝ってくれた。またアレックス・カーク選手は、CUEのシュートフォームをシミュレーションする際のお手本にもなってくれた。野見さんは「アルバルクの方々には本当に感謝の気持ちでいっぱい。必ず何らかの形でバスケ界に恩返しをしたい」と意気込む。

社内では、パートナーロボットを開発する他のロボットチームが、技術的な課題で悩むCUE開発チームに快くアドバイスをくれた。また、主な開発場所である愛知県豊田市の広瀬工場では、技能員の方々が、電気基板の製作や全長600mにもなる配線製作、CUEの外装となる樹脂の製作に至るまで、持てる技能を惜しみなく投入してくれた。こうした数々のサポートに支えられ、CUE開発チームは危機を乗り越えてきた。

パートナーロボットとは
トヨタでは、2004年頃より「人の活動をサポートし、人と共生する」というコンセプトのもと、パートナーロボットの開発に取り組んでいる。生活支援ロボットやヒューマノイドロボットから、下肢障害からの早期回復を支援するリハビリロボットなど様々な分野で、すべての人の“MOVE(移動)”をサポートしている。

 

 

そしてCUE3へ
2019年4月10日、CUE2登場から約5カ月の月日を経て、アルバルク東京vsサンロッカーズ渋谷戦のハーフタイムショーで新たにCUE3が披露される。次はどのように私たちを驚かせてくれるのか、ワクワクしながら待ちたいと思う。ぜひここまで読んでくださった皆さんにも、会場に足を運んでいただき、CUE3、CUE開発チーム、そしてアルバルク東京の選手の皆さんに熱い声援を送っていただきたい。

2020年のBリーグオールスターへの出場、そしてさらにその先を見据え、CUE開発チームの挑戦は続く。

広瀬工場にて。CUE開発チームと技能員の皆さん








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