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PtドープAuナノクラスターの触媒活性を利用、リチウム硫黄電池の性能が飛躍的に向上【東京理科大学】

2023年10月12日

  

PtドープAuナノクラスターの触媒活性を利用、リチウム硫黄電池の性能が飛躍的に向上
~全固体リチウム硫黄電池の実現に大きな一歩~

  

【研究の要旨とポイント】
・リチウム硫黄(Li-S)電池は、エネルギー密度が高く、低コストで製造できることから、次世代の蓄電池として
 有望視されています。
・Au24Pt(PET)18(PET: フェニルエタンチオレート)ナノクラスターをグラフェン上に担持させたLi-S電池用
 セパレーターと電極の開発に成功しました。
・開発したセパレーターを組み込んだLi-S電池は、電流密度0.2 A/gにおける初期サイクルの比容量が1535.4 mA
 h/g、5 A/gでは887 mA h/gという優れたレート特性を示し、長い電池寿命を持ちました。
・本研究をさらに発展させることで、リチウムイオン電池に代わる全固体Li-S電池の実現につながると期待され
 ます。

  

  

【研究の概要】
東京理科大学理学部第一部応用化学科の根岸雄一教授、同大学研究推進機構総合研究院のSaikat Das助教、蘭州大学(中国)のDeyan He教授、Dequan Liu講師らの共同研究グループは、Au24Pt(PET)18(PET: フェニルエタンチオレート)ナノクラスターをグラフェン上に担持したナノシートを作製し、セパレーターや電極としてリチウム硫黄(Li-S)電池に組み込むことで、Li-S電池の性能を飛躍的に向上させることに成功しました。

硫黄は理論容量が1675 mAh/g という大きな値を示すことが知られています。そのため、硫黄をリチウムイオン電池の活物質として使用すれば、優れた電気容量を示すLi-S電池の実現が可能となります。しかしながら、充放電時にリチウムと硫黄が反応してリチウムポリサルファイド(LiPS)が生成され、電極間を移動することで酸化還元反応が繰り返され、電気容量が急速に低下してしまうことが、実用化に向けた大きな課題となっています。そのため、LiPS の移動を抑制し、効率的に酸化還元を行う手法が模索されてきました。本研究グループは、長年培ってきた金属ナノクラスターに関する知識と経験から、Au24Pt(PET)18ナノクラスターの触媒活性を硫黄還元反応に適用することを着想し、本研究を進めてきました。

本研究では、Au24Pt(PET)18をグラフェン上に均一に分散させたナノシート(Au24Pt(PET)18@G)を作製した後、セパレーターや電極としてLi-S電池に組み込みました。Au24Pt(PET)18@Gセパレーターを用いたLi-S電池では、電流密度0.2 A/gでは初期サイクルで1535.4 mAh/gという可逆的で高い比容量を、5 A/gでは887 mAh/gという優れたレート特性を示すことを明らかにしました。また、5 A/gで1000サイクル後の比容量は558.5 mAh/gで、長寿命で使用可能であることも実証しました。

金属ナノクラスターは、サイズ特異的な性質を示すことから、基礎分野では長年研究が進められてきましたが、実用材料での応用例はまだほとんどありません。本研究をさらに発展させることで、金属ナノクラスターを電極触媒として利用したLi-S電池やエネルギー貯蔵デバイスの開発が期待されます。

本研究成果は、2023年8月25日に国際学術誌「Small」にオンライン掲載されました。

  


図 本研究の概要
(a) Au24Pt(PET)18による触媒活性作用、(b) グラフェン上のAu24Pt(PET)18

  

【研究の背景】
電気自動車を中心とした電池需要の増大に対応するため、リチウムイオン電池をはじめとしたさまざまな電池開発が盛んに行われています。その中でも近年、特に注目されているのが、Li-S電池です。Li-S電池は リチウムイオン電池の3~5倍という非常に高い理論エネルギー密度を有する上、軽量かつ低コストで製造できる可能性を秘めています。また、製造時の温室効果ガス排出量を大幅に削減できるため、次世代のエネルギー貯蔵材料として期待を集めています。しかしながら、LiPSによる放電容量の急速な劣化、極表面におけるリチウムデンドライトの成長など、実用化に向けて多くの課題が残されていました。

一方で、PtドープAuナノクラスターAu24Pt(PET)18は、中心のPt原子とAu12正20面体コアとの間の強い結合により、優れた安定性と触媒活性を示すことが知られています。例えば、ギ酸の二酸化炭素への酸化反応にAu24Ptナノクラスターを電極触媒として使用すると、PtナノクラスターやPt/C触媒と比較して、質量活性が大きく向上したことが報告されています。しかしながら、Au24Ptナノクラスターの触媒作用を硫黄還元反応に適用した例はほとんどありませんでした。

本研究グループは、金属クラスターの合成やそれらの機能性に関する研究を長年行っており、金属クラスターのサイズ特異的な幾何・電子構造や物理化学的性質を明らかにしてきました。そこで本研究では、機能性材料の実用化を目指して、Au24Pt(PET)18ナノクラスターを用いた高エネルギー密度かつ長寿命で使用可能なLi-S電池の開発へと着手しました。

  

【研究結果の詳細】
Au24Pt(PET)18のテトラヒドロフラン溶液を乾燥したグラフェン上に滴下することにより、Au24Pt(PET)18のナノシート(Au24Pt(PET)18@G)を調製しました。電子顕微鏡による表面分析を行ったところ、ナノシートは平滑であり、Au24Pt(PET)18はグラフェン表面に均一に分散していることがわかりました。また、Au24Pt(PET)18@GのBET比表面積は41.6m2/g、細孔径は1.8nmで、多数の活性サイトを有するだけでなく、効率的な導電性ネットワークを構築していることが示唆されました。本研究では、このナノシートを負極やセパレーターとしてLi-S電池に組み込み、その挙動を確認しました。

まず、ポリスルフィドに対するAu24Pt(PET)18の酸化還元挙動を明らかにするために、Au24Pt(PET)18@G電極セルのサイクリックボルタンメトリー(CV)を測定しました。その結果、LiPSの酸化還元反応に対応するピークが見られました。正方向のスキャンでは、元素状硫黄S8からLi2S6への還元(-0.028V)とLi2S6からLi2S2/Li2Sへの還元(-0.315V)に対応する2つのピークが、負方向のスキャンでは、Li2S/Li2S2からLi2S6への酸化(0.032V)、さらにS8への酸化(0.319V)に対応するピークが確認されました。一方で、グラフェン電極セルのCV測定では酸化還元ピークが見られず、電流値も低いことがわかりました。そのため、Au24Pt(PET)18をグラフェン表面に分散させたことで触媒活性が向上し、LiPSの酸化還元反応が顕著に現れたことが示唆されました。

次に、Au24Pt(PET)18@Gセパレーターの性能を評価するために、Li対称セルを作製しました。市販のセパレーターをAu24Pt(PET)18@Gで修飾すると、約10mVの安定した電位で700時間以上短絡することなく、連続的に使用できるようになることがわかりました。これは、Au24Pt(PET)18の均一分散により電子が均一に伝導されるため、リチウムデンドライトの生成が抑制され、サイクル寿命が長くなると考えられます。

さらに、Li-S電池のコイン型ハーフセルを用い、Au24Pt(PET)18@G/PPセパレーターの電気化学特性の評価を行いました。Au24Pt(PET)18@Gで修飾したセパレーターを用いたセルでは、他のセパレーターに比べて、より顕著なピーク、より強い電流強度、より低い分極電位が観測され、酸化還元反応が促進されていることがわかりました。正方向のスキャンでは、S8からLi2S6への還元(2.27V)、Li2S6→Li2S4→Li2S2/Li2Sのさらなる還元(2.27V)に対応する2つの還元波が確認されました。負方向のスキャンでは、Li2S/Li2S2からLiPSと元素状硫黄S8への酸化(2.36V)に対応するまとまったピークが確認されました。

Au24Pt(PET)18@G/PPセパレーターを組み合わせたセルでは、0.2A/gの電流密度において、初期の比容量は1535.4mAh/g、300サイクル後は1315.8mAh/gで、85.7%という高い容量保持率を示しました。この値は、修飾されたGセパレーター(711mAh/g、56.6%)やPPセパレーター(355mAh/g、38.0%)よりも優れており、Au24Pt(PET)18@G層がサイクル寿命の向上に寄与していることが示唆されました。また、1A/gで500サイクル使用した後でも792.2mAh/gという高い可逆比容量を示し、1サイクルあたりの容量低下率は0.058%とごくわずかでした。さらに高い電流密度である5A/gでも、この電池は1000サイクルにわたって558.5mAh/gの比容量を維持し、1サイクルあたりの容量低下率は0.041%とごくわずかで、クーロン効率は100%に近いことがわかりました。

最後に、LEDパネルにAu24Pt(PET)18@G修飾セパレーターを組み込んだ2つのLi-S電池を接続し、点灯持続時間を調べました。市販のリチウムイオン電池では3時間で消灯したのに対し、今回開発したLi-S電池では7時間も連続して点灯させることができました。

本研究を主導した根岸教授は「金属クラスターについては、過去15年の間に合成技術が飛躍的に進展し、特異な物性発現が数多く見出されてきました。金属クラスターの研究開発は、基礎的な段階を越え、機能性材料の応用、実用化が期待できるステージまで到達したと感じています。本研究は、金属クラスターを持続可能エネルギー貯蔵システムに最適な電極触媒として応用するための重要な一歩になり得ると考えています」と、研究の意義を語っています。

※本研究は、中国国家自然科学基金(No. 11674138, 11504147)、中国甘粛省科学技術プログラム(No. 22YF7GA009)、日本学術振興会の科研費(JP22K19012, JP22H04562, JP23H00289)、矢崎科学技術振興記念財団、小笠原敏晶記念財団の助成を受けて実施されました。

  

【論文情報】
雑誌名:Small
論文タイトル:Metal Nanoclusters as a Superior Polysulfides Immobilizer toward Highly Stable Lithium–Sulfur Batteries
著者:Kai Sun, Yujun Fu, Taishu Sekine, Haruna Mabuchi, Sakiat Hossain, Qiang Zhang, Dequan Liu, Saikat Das, Deyan He, and Yuichi Negishi
DOI:10.1002/smll.202304210
URL:https://doi.org/10.1002/smll.202304210

  

  

  

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