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500Wh/kg級リチウム空気電池を開発

2021年12月15日

  

500Wh/kg級リチウム空気電池を開発
~世界最高レベルのエネルギー密度を実証~

  

概要

1.
国立研究開発法人物質・材料研究機構(以下「NIMS」)は、ソフトバンク株式会社(以下「ソフトバンク」)と共同で、現行のリチウムイオン電池の重量エネルギー密度(Wh/kg)を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池を開発し、室温での充放電反応を実現しました。さらに、世界中で報告されているリチウム空気電池の性能の網羅的な調査により、NIMSが開発したリチウム空気電池は、エネルギー密度ならびに、サイクル数の観点で世界最高レベルであることを示しました。本研究成果は、リチウム空気電池の実用化に向け、大きな一歩となるものです。

2.
リチウム空気電池は、理論重量エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」であり、軽くて容量が大きいことから、ドローンや電気自動車、家庭用蓄電システムまで幅広い分野への応用が期待されています。NIMSは国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の高容量蓄電池の研究開発加速を目的に発足したプロジェクトであるALCA次世代蓄電池(以下「ALCA-SPRING」)の支援のもと基礎研究を進めてきましたが、2018年にソフトバンクと共同で「NIMS-SoftBank先端技術開発センター」を設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPS(High Altitude Platform Station)などに向けて実用化を目指した研究を行ってきました。リチウム空気電池は理論的には非常に高いエネルギー密度を示す一方で、従来のリチウム空気電池の特性評価で一般的に使われてきた電池においては、セパレータや電解液といった電池反応に直接関与しない材料が電池重量の多くの割合を占めているため、実際に高いエネルギー密度のリチウム空気電池を作製・評価した例は限られていました。

3.
研究チームは、これまでのALCA-SPRINGでの研究により、リチウム空気電池の持つ高いポテンシャルを最大限に引き出すことができる独自材料を開発してきました。さらに、研究チームは、NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発した高エネルギー密度リチウム空気電池セル作製技術を、これら材料群に適用することで、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池の室温での充放電反応を世界で初めて※実現しました。

[注]
※NIMS調べ(2021年12月14日現在)

4.
今後は、現在開発中の改良型材料を500Wh/kg級リチウム空気電池に搭載することで、サイクル寿命の大幅増加を図り、NIMS-SoftBank先端技術開発センターでのリチウム空気電池の早期実用化につなげます。

5.
本研究は、主に、ALCA-SPRINGとNIMS-SoftBank先端技術開発センターの研究開発の一環として、松田 翔一主任研究員、小野 愛生NIMSポスドク研究員、山口 祥司特別専門職、魚崎 浩平フェロー(NIMS-SoftBank先端技術開発センター、センター長)らの研究チームによって行われました。

6.
本研究成果は、日本時間2021年12月15日に、Material Horizon誌にオンライン掲載されます。

  

研究の背景

リチウム空気電池※1は、重量エネルギー密度※2が圧倒的に大きいことから、軽量性が重視されるドローンやIoT機器、さらには電気自動車や家庭用蓄電システムなど、幅広い分野への応用が期待されています。リチウム空気電池は、正極活物質として空気中の酸素を用い、負極にはリチウム金属を用いることによって、理論エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」です。NIMSはJSTの支援のもとリチウム空気電池の研究開発を進めてきました。さらに、2018年にソフトバンクと共同で、NIMS-SoftBank先端技術開発センターを設立し、携帯電話基地局やIoT、HAPS※3などに向けたリチウム空気電池の実用を目指した開発研究を行ってきました。リチウム空気電池は理論的には非常に高いエネルギー密度を示す一方で、従来のリチウム空気電池の特性評価で一般的に使われてきた電池においては、セパレータや電解液といった電池反応に直接関与しない材料が電池重量の多くの割合を占めており、実際に高エネルギー密度なリチウム空気電池を作製・評価した例は限られていました。

  

研究内容と成果

リチウム空気電池は、正極(酸素極)、セパレータ+電解液、負極(金属リチウム)を積層した構造です。放電反応では、負極で金属リチウムが電解液に溶出し、正極で酸素と反応して、過酸化リチウムが析出します。この過酸化リチウムの析出量が蓄電容量となるため、正極のカーボン材料は、高空隙率・高比表面積を有する材料が望ましいと考えられます。また、充電反応では、放電反応とは逆で、正極の過酸化リチウムが分解し酸素を放出、負極では金属リチウムが析出します。この際に、正極・負極双方において、高い可逆性で反応が進行するような電解液材料が求められます。研究チームは、これまでのALCA-SPRINGでの研究により、リチウム空気電池の持つ高いポテンシャルを最大限に引き出すことができる多孔性カーボン電極やレドックスメディエーター※4含有の電解液などの独自材料を開発してきました(図1a)。今回、研究チームは、NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発した、電解液注液技術や電極積層技術に代表される高エネルギー密度リチウム空気電池セル作製技術(図1b)をこれら材料群に適用することで、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム空気電池の室温での充放電反応を世界で初めて実現しました(図1c)。

[注]
※NIMS調べ(2021年12月14日現在)


図1:(a)ALCA-SPRINGでの研究により開発したリチウム空気電池用独自材料、(b)NIMS-SoftBank先端技術開発センターで開発したセル作製技術、(c)500Wh/kg級のリチウム空気電池の室温での充放電反応を本研究で初めて実験的に確認。

さらに、研究チームは、世界中で報告されているリチウム空気電池の性能を網羅的に調査して、定量的かつ客観的に比較しました。リチウム空気電池の研究開発を行っている研究グループは、各々独自の評価セル・評価条件を用いて電池性能を評価しているため、それぞれの評価結果を系統的に把握し、比較することは簡単ではありません。今回、研究チームは、文献に記載されている電極や電解液の種類や重量といった電池情報の細部まで調査し、電池のエネルギー密度を算出することに成功しました。その結果、NIMSとソフトバンクが開発したリチウム空気電池は、エネルギー密度ならびに、サイクル数の観点で世界最高レベルであることが明らかとなりました(図2)。一般的に、エネルギー密度とサイクル数はトレードオフの関係にあるため、図2の右上に点があるほど高性能の電池といえます。


図2:世界中で報告されているリチウム空気電池性能の調査結果

  

今後の展開

本研究は、現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度を大きく上回る500Wh/kg級リチウム電池の室温での充放電反応を初めて実現したものであり、リチウム空気電池の実用化研究開発における大きな一歩となるものです。今後は、本研究で確立した500Wh/kg級リチウム空気電池に、現在開発中の改良材料群を搭載することで、サイクル寿命の大幅増加を図り、NIMS-SoftBank先端技術開発センターでのリチウム空気電池の早期実用化につなげます。

  

掲載論文

題目:Criteria for evaluating lithium-air batteries in academia to correctly predict the practical performance in industry
著者:松田 翔一、小野 愛生、山口 祥司、魚崎 浩平
雑誌:Material Horizon
掲載日時:日本時間2021年12月15日午前2時

  

用語解説

※1 リチウム空気電池
空気中の酸素を正極活物質とし、リチウム金属負極と非水系電解液からなる二次電池。理論エネルギー密度が現行のリチウムイオン電池の数倍に達する「究極の二次電池」として知られます。重量エネルギー密度が圧倒的に大きいことから、軽量性が重視されるドローンやIoT機器、さらには電気自動車や家庭用蓄電など、幅広い分野への応用が期待されます。

※2 重量エネルギー密度
単位重量当たりの電池の容量。Wh/kgの単位で表されます。この値が大きいほど、より多くのエネルギーを電池に蓄えることができます。

※3 HAPS(High Altitude Platform Station)
成層圏に飛行させた航空機などの無人機体を通信基地局のように運用し、広域エリアに通信サービスを提供する次世代通信システムです。山岳部や離島・発展途上国など通信ネットワークが整っていない場所や地域に、安定したインターネット接続環境を構築することが期待されます。

※4 レドックスメディエーター
電解液中に酸化還元種が存在すると、充電反応を媒介する可能性があります。リチウム空気電池の充電反応は過酸化リチウムの電気化学的な酸化反応ですが、レドックスメディエーターの酸化体が存在すると、それが過酸化リチウムを化学的に分解します(レドックスメディエーターは還元される)。このように、自身の酸化還元(レドックス)反応によって他の反応を媒介する化学種をレドックスメディエーターといいます。

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