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傘(ヘッド)まで中空のエンジンバルブが日産の「GT-R」に採用される 高い冷却効率で自動車の燃費向上に貢献【三菱重工業】
2012年8月2日
三菱重工業は、傘(ヘッド)部分まで中空になったエンジンバルブ※1「傘中空バルブ」を、日産自動車株式会社向けに出荷。軽いだけでなく冷却効率が高くノッキング※2防止による大幅な燃費向上が見込める点が評価され、同社の高級スポーツ車「NISSAN GT-R」12年モデルに採用されたもの。鍛造による独自の中空一体加工技術で同種の中空バルブに比べ製造コストを抑制できる点を強みに、自動車向けを中心とする幅広い受注を開拓していく。
傘中空バルブは、円柱状の金属材料から、プレス機械を用いて空洞を作り出す鍛造孔開工法で製造される。傘部に溶接による継ぎ足し部分がないため、高い強度を確保できる。従来のようにドリルや放電加工による穴あけ工程が不要になり、機械加工工程などの短縮も実現。低コスト・短納期化が可能になった。この技術は、戦前から航空機用エンジンバルブ製造技術として保有していた独自のノウハウを磨き上げたもの。
中空部分に金属ナトリウムを封入することで、熱伝導率が増大し冷却効率が高まる。重量は中実バルブ※3に比べ約15%減少。エンジン駆動時のバルブ温度を約600℃と従来より100~200℃低下できることから、燃費向上に向け混合気の圧縮比を高めても、過度の温度上昇を防ぐことができるため、出力低下につながるノッキングを防ぐことができる。更には、高価な高耐熱性材料を使わずに、コストダウンにつなげることも可能。
「NISSAN GT-R」の12年モデル(昨年11月発売)には、傘中空バルブが1台当たり12本搭載されている。同モデルは、11年モデルと比較して最高出力が14kW向上しており、傘中空バルブが出力向上に寄与している。
地球温暖化防止に向け、日米欧の自動車産業界を中心にライフサイクル全体でCO2排出が少ない自動車の開発・市場投入が活発化している。各社はコンパクト・ターボエンジンやハイブリッド車などを含む高効率エンジンの開発にも力を注いでおり、燃費効率を徹底的に高めるための技術やノウハウに強い関心を払っている。
当社は傘中空バルブを、自動車向けをはじめ各種エンジンの高効率化に大きく寄与する差別化製品と位置づけ、顧客ニーズにきめ細かく応える多様な製品展開と提案型営業に力を注ぎ、受注拡大につなげていく。
※1 エンジンバルブ(弁)は、4サイクル(吸気-圧縮-燃焼-排気の各工程が明確に分かれている)エンジンのシリンダーヘッドに搭載され、吸気工程では燃焼室にガソリンと空気の混合ガスを吸入し排気工程では燃焼済みのガスを排出するため弁が開く。1,000℃にもなる燃焼ガスにさらされても変形や摩耗が起きない耐久性が求められる。また、高速回転するエンジンに追従するための軽量性も重要。
※2 ノッキングは、ピストンエンジンが金属的な音や振動を発する現象で原因は様々。ガソリンエンジンのシリンダー内で未燃焼の混合気が圧縮され、限界を超える高温・高圧状態となって自己着火してしまい、出力・燃焼効率の低下を招く場合(スパークノック)には、傘中空バルブによる防止が有効。
※3 「中実バルブ」はバルブ内部に空洞がないもの。「中空バルブ」はバルブの軸部にのみ空洞があるもの。これに対し「傘中空バルブ」は、バルブの軸部に加え、傘(ヘッド)部も空洞にしたもの(以下図参照)。
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