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「くさび」の材料を置き換えるだけでモーターのエネルギー変換効率を大きく向上する磁性材料の開発【東芝】
2020年12月4日
「くさび」の材料を置き換えるだけでモーターのエネルギー変換効率を大きく向上する磁性材料の開発
-世界の総消費電力量の約半分を占めるモーターのエネルギーロスを低減、
高い信頼性が求められる鉄道、ロボット等に活用し、脱炭素社会の実現に貢献-
当社は、「くさび」(図1)の材料を置き換えるだけで、モーターのエネルギー変換効率を大幅に向上し、脱炭素社会の実現に貢献する独自の磁性材料を開発しました。モーターの設計を変更することなく最小限のコストで効率を上げることが可能で、特に、中型~大型の誘導モーター(注1)に大きな効果を発揮します。当社は、鉄道用の実機誘導モーターにおいて効率が0.9pt(注2)向上することを確認し、誘導モーターでありながら永久磁石モーターに迫る高効率化が図れることを実証しました(注3)。0.9ptは、例えば世界中の全モーターの効率が同水準向上したとすると、100万kWの発電所10基分の削減効果が得られるほどの向上となります(注4)。また、高い耐熱性を実現し、鉄道車両、自動車、産業用・医療用機器、ロボットなど様々な用途に使用できます。
当社は本技術の詳細を、第44回日本磁気学会学術講演会(12月15日)、第57回日本電子材料技術協会秋期講演大会(12月4日)で発表します(注5)。
民生・産業用のあらゆる分野で使用されているモーターによる電力消費量は、世界の総消費電力量の約半分を占めるといわれています(注6)。脱炭素社会の実現には、電力を動力に変換する際に生じるエネルギーロスを低減し、エネルギー変換効率を向上させることが不可欠です。国内では、産業用モーター(三相誘導電動機)が、省エネ法で規定されている「トップランナー制度(注7)」の対象となっています。「トップランナー制度」は、基準値策定時点で最も高い効率の機器等の値を超えることを目標とすることを製造事業者に義務付けるもので、エネルギー消費性能の向上を図ることが特に必要のある機器が対象とされています。また、世界各国でも、同様の高効率法規制化が実施されています。
モーターのエネルギー変換効率を向上させるためには、「くさび」に磁性の材料を用いることが有効であるとされています。「くさび」は、スロット部に収納されているコイルの脱落を防ぐ役割を担っています。通常は非磁性の材料が用いられますが、磁性の材料(磁性くさび)に変えると磁性くさび側に磁束を誘導し、エネルギー変換効率の向上が可能になります。しかし、従来の磁性くさび材料は、球状の磁性金属粒子で構成されており、不必要な方向にも磁束が漏れてしまうこと(磁束制御性が不十分)や、磁性くさび材料自体の磁気損失が大きいことから、エネルギーの変換効率を十分に高められないという課題がありました。(図1)。また、耐熱性も低いため、高い耐熱性が要求される鉄道用モーター等には用いることができませんでした。磁性くさび材料を用いて効率を向上させるには、磁束制御性の向上、磁気損失の低減、耐熱性の向上が必要です。
本技術の特徴
そこで当社は、極めて優れた磁束制御性を持つ超低損失・高耐熱性の独自の磁性材料を開発しました。本材料は、薄片状の磁性金属粒子から構成され、磁気的な特性が方向によって異なり、かつ、磁気損失が小さい(図2)ことが特徴です。磁性くさびとして用いた場合、特定の方向に磁束を優先的に効率良く導く事ができ(図1)、エネルギーロスを低減し、エネルギー変換効率の大幅な向上を実現しました。また、磁性金属粒子を高耐熱性の結着剤を用いて成型することにより、220℃という高温環境に長時間おいても重量がほぼ減少しないことを確認しました(図3)。高い耐熱性を生かし、鉄道車両、自動車、産業用・医療用機器、ロボットなど様々な用途に使用できます。 本材料は、モーターの設計を変更することなく「くさび」の材料を置き換えるだけで、モーターのエネルギー変換効率を大幅に向上させます。モーターの設計を変更する必要がないため、最小限のコストで効率を上げることが可能です。
今後の展望
当社は、今回開発した磁性材料を用いることで、磁性くさびを搭載した鉄道用高効率モーターの実用化を目指します。
(注1)誘導モーターとは、固定子の回転磁界によって回転子に誘導電流が発生し、その誘導電流の電磁力によって回転するモーターの事であり、システム構成がシンプルになり、安価で保守性に優れる。一方、永久磁石同期モーターは、固定子の回転磁界と回転子の永久磁石との間に働く磁気の吸引力によって回転するモーターの事で、一般に誘導モーターよりも高価であるが、制御性に優れ高効率である。
(注2)ptは、モーター効率の比較時に使用される指標で、モーター効率値の差分を示す。例えば、1pt向上とは、モーター効率X%からX+1%への向上を示す。
(注3)永久磁石同期モーターに挿入し、更なる高効率化を実現する事も可能。
(注4)世界の年間総消費電力量約22兆kWhに対してモーターで消費される電力量の割合が約45%と仮定し、全モーターの平均効率が0.9%向上した場合の試算。
(注5)関連技術は、J. Magn. Magn. Mater. 473 (2019) 416. J. Magn. Magn. Mater. 519 (2021) 167475. に掲載済み。
(注6)一般社団法人日本電機工業会「トップランナーモーター」https://www.jema-net.or.jp/jema/data/2016_TM.PDF
(注7)2015年から単一速度三相かご形誘導モーターを対象にIEC規格でIE3相当の効率が求められています。
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