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AIバスケットボールロボットCUE(キュー)開発記【第2弾】【トヨタ自動車】
2019年6月24日
AIバスケットボールロボットCUE(キュー)開発記【第2弾】
-CUE3、ギネス世界記録™に挑戦-
・CUEは元々、社内の有志が自由時間に開発した、AIを搭載し100%シュートを決めるロボット。現在、2020年までの期間限定で、仕事として開発を継続中。
・詳しくは、第1弾の記事をご覧ください。
CUE3、ギネス世界記録に挑戦!?
新型となるCUE3披露から1ヶ月が経った2019年5月、CUE開発チームは大きなチャンスを掴みかけていた。なんとギネス世界記録からの挑戦のオファーが来たのである。テーマは「人型ロボットによる連続フリースロー回数記録」とのこと。ありそうでない絶妙な挑戦テーマだが、このオファーは開発チームにとって非常に重要な意味を持っていた。
今回はCUEプロジェクトの過去に触れながら、CUEのギネス世界記録挑戦の様子やその舞台裏をお伝えしたい。
そもそもギネス世界記録とは
多くの方がこれまでに一度は耳にしたことがあるかもしれないが、ギネスワールドレコーズ(ギネス世界記録)とは、世界中の様々な世界記録を収集、認定している組織である。毎年約5万件もの挑戦の問い合わせや申請があり、さらにギネスワールドレコーズ自身も、世界一の記録の可能性があるヒト・モノ・コトをリサーチし、問い合わせを行っている。
実は2018年3月、当時自由活動としてCUEを開発していた時にも一度問い合わせが来ていたそうだ。しかし当時は、シュート後次のシュートまで3分ほど準備時間が必要で、決して連続とは言えない状況。また長時間シュートを打ち続けるだけの耐久性にも不安があり、残念ながら記録挑戦が行えなかった。
ギネスワールドレコーズ(ギネス世界記録)
1951年、アイルランドで狩猟を楽しんでいた当時ギネス醸造所の最高経営責任者ヒュー・ビーバー卿の「ヨーロッパで最も速く飛ぶ狩猟鳥はどれか?」という質問をきっかけに、世界記録を集めた本が誕生。毎年刊行される『ギネス世界記録』は100か国以上で販売されており、トヨタでもカローラが「世界で初めて3000万台以上販売された乗用車」として2005年に認定されている。
再びチャンスはやってきた
一度は諦めたギネス世界記録挑戦であったが、不思議なことに1年の時を経て再びそのチャンスが訪れる。
仕事として開発が認められた2018年5月以降、チームは次期CUEの開発に邁進していた。2018年11月28日のアルバルク東京vs京都ハンナリーズ戦では、事前に様々なトラブルがありながらものハーフタイムショーでCUE2(キューツー)を披露し、無事スリーポイントシュートを決めた。
CUEの進化
その5ヵ月後の2019年4月10日アルバルク東京vsサンロッカーズ渋谷戦ではさらに進化したCUE3(キュースリー)を披露した。ところがこの日は試合直前のリハーサル中にメカのトラブルが発生。結局リハーサル中は、CUE3最大の目玉であるセンターラインからの超ロングシュート(約12m)を一本も決められないまま本番を迎えることになった。
「がけっぷち」の状態で迎えた本番。会場中から「Let’s Go, CUE3!」の声援がこだまし、メンバーは祈るような想いでシュート体勢に入るCUE3を見つめていた。会場中の視線を集めたCUE3の超ロングシュートは、きれいな放物線を描いて見事にゴールに吸い込まれた。会場が揺れた。
開発メンバーはガッツポーズ、野見さんは飛びあがりMCの南さんと抱き合い喜びを爆発させた。
この超ロングシュートをBリーグ公式Twitterが発信したところ、瞬く間に拡散され、翌日には海を渡りバスケットボールの本場アメリカまで届いた。米有力スポーツメディアESPN等がSNSで取り上げたことで、全米でも話題となり、その後もしばらくの間盛りあがりを見せた。
こうした一連のニュースを聞きつけて、ギネスワールドレコーズから再び問い合わせが来たのであった。1年間、改善と挑戦を重ねた先の挑戦権獲得であった。早速ギネス世界記録挑戦に向けた特訓が始まった。
シュート合宿
ギネス世界記録挑戦に向けて、大きく2つの調整を行った。まずは、連続シュートの実現に向け、通常だとシュート後のフォロースルーで腕を一度降ろしてしまうところを、シュート後もすぐに次のシュートモーションに移れるよう改善を施した。
次に連続でシュートを打ち続けることによるメカやモーターへの影響を検証すべく、フリースロー連続200本チャレンジを実施。万全の体勢で本番を迎えた。
挑戦の始まり
本番当日、まずはギネス世界記録公式認定員からルール説明を受けた。
ギネス世界記録では、新しい記録挑戦となる場合でも、最低限超えなければいけない数字が設定されている。それが今回の場合は、連続で5本とされていた。
これについてCUE開発チームは、3回まで再挑戦可能で、そのうち一番良い回数が記録になると思い込んでいたが、実際は1度でも5回を超え記録認定されるとその後の再挑戦はできないそうだ。ということは、仮に6本目で失敗すると、「記録5本」という、簡単に越えられそうな記録で認定されてしまう。
また開始後は一切ロボットの調整や、ボールなしのシュートフォーム確認も禁止とのことで、現場に緊張感が走った。
その後も厳しい目でボールの空気圧やゴールからの距離、ゴールの高さがチェックされた。(ちなみにアルバルク選手のダンクによりゴールがほんの2mm傾いていた)
本番前最後のリハーサル。50回ずつでメンバーの役割を交代するため、すべての動作をメンバーで入念に確認する。長期戦となるため、オペレーションミスがある意味一番怖い。
そして緊迫感の中ついに本番が始まった。
1本ごとに手に汗を握る。
絶対に失敗できない。ボール一つ置く作業にも神経を研ぎ澄ませる。
まずは無事5本を突破した。一応ギネス世界記録としてはこれで達成されるわけだが、誰一人気は緩んでいない。記録づくりはこれから始まるのだ。
30本…100本が見えてきた。CUE3が粛々とシュートを決めていく。
事前の練習でもトライした200本を超えた。
ここから先は未体験ゾーンであり、メカの耐久性含め何が起こるかわからない。
500本…800本。緊張のせいか誰もしゃべらない。
沈黙の中、CUE3のシュートがネットを通る音だけが響く。
挑戦開始から3時間18分経過。
まだ挑戦の途中ではあるが、CUE3が大台の1000本を突破した。
初代CUEからの進化を見てきた方々にとっては信じられない光景かもしれない。また一方で「毎回同じところに打つだけなら簡単なのでは」と思われる方もいらっしゃるだろう。
たしかに淡々とシュートを決めるCUE3を見ると、簡単にこなしているようにも見える。しかしつい半年前まで、CUEはシュート後約1分の準備時間が必要で、調整がうまくいかないときは30本打って1本も入らないということがよくあった。それが今では約12秒に1本のペースで正確なシュートを打つのだ。
人型ロボットによるシュートには様々な技術的課題がある。ボールの置き方や指へのかかり方次第でシュートの軌道が変わってしまったり、シュートの反動で毎回立ち位置にズレが生じる、同じようにシュートしようとしてもその時々で電流やパワーが異なる等々。チームメンバーはその課題一つ一つと向き合い改善していくことで、連続で1000本以上シュートを決め続ける技術と耐久性を実現したのである。
素人が一から開発したロボットは、いつの間にか大きな成長を遂げていた。
このペースでいくと日をまたぐ可能性もあるので、今回の挑戦のゴールを東京オリンピック・パラリンピックに想いを繋ぎ、2020本に設定した。ゴールを定めたことでまた一段と気が引き締まる。
ところで、投げ続けるCUE3も大変だが、実はもう一人大変な人がいる。公式認定員だ。公式認定員の方には挑戦を最後まで正確にチェックする義務があり、途中で交代することはおろか、お手洗いや食事も摂れないのだ。お互いに真剣勝負である。
ゴールに近づくにつれプレッシャーが増していった。
2000回を突破。 CUE3も6時間以上投げっぱなしである。あと少しだ。
そして挑戦開始から実に6時間35分、ついに歓喜の瞬間が訪れた。 「ヒューマノイドロボットによる連続して行ったバスケットボールのフリースロー最多数(アシスト有り)2020回」で念願のギネス世界記録に認定された。初めての公式認定証にメンバー全員大興奮の様子だ。
長い長い挑戦が終わった。
後日談だが、今回のようにギネスワールドレコーズ側から問い合わせをし、審査を行うケースの挑戦は、「人の可能性を刺激する」というギネス世界記録の理念に基づき、その挑戦によって世界の人々が勇気づけられたり、時代の進歩を象徴するような挑戦が多いそうだ。
これについて野見さんは「挑戦中の、一企業の中にいながらプロスポーツチームと一緒になって、これまで誰も挑戦したことのないことに取り組む様子、小さな改善を繰り返す『ものづくり』に全力で取り組む様子、大の大人が一つのことに熱中し大喜びする様子を見て、世界中の誰か一人でもバスケットボールやロボット、ものづくりに興味を持ってくれたら嬉しく思います」と話した。
最後に、挑戦の様子を映像で振り返りたい。
CUE開発チームの次の目標は2020年1月のBリーグオールスター出場だ。
CUE3はさらに進化してCUE4となるのか。次の挑戦が今から楽しみだ。
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