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磁性材料の材料設計に活用できる新たなシミュレーション技術を開発【富士通】
2013年9月5日
当社は、この度、スーパーコンピュータ「京」(注1 )を用いた大規模磁化反転(注2 )シミュレーション技術を開発し、永久磁石が磁化反転する過程を大規模にシミュレーションすることに世界で初めて成功しました。 磁性材料における磁化反転の過程は従来から研究されてきましたが、ネオジム磁石(注3 )の忠実なモデル化は膨大な計算量を要することから、その過程をシミュレーションで再現することが困難でした。 今回、当社は有限要素法(注4 )の手法とマイクロマグネティックス(注5 )の手法を組み合わせて、従来技術の数分の1である1ナノメートルという微細な領域に分割した複雑形状のネオジム磁石のモデルをつくり、それに伴い発生する膨大な計算を大規模な並列計算技術を用いてスーパーコンピュータで実行する、磁界シミュレーション技術を開発しました。 本技術により、従来のシミュレーターでは扱うことができなかった磁性体の微細な磁区構造(注6 、図1)を解析することができるようになりました。今後、ジスプロシウムなどの重レアアース(注7 )を使用しない強力なネオジム磁石など、新たな磁性材料の研究開発の促進が期待されます。 |
当社は、本技術を用いたネオジム磁石の磁化反転のシミュレーションを、独立行政法人物質・材料研究機構(本部:茨城県つくば市、理事長:潮田 資勝、以下、NIMS)と共同で、「京」を用いて実行(注8 )しました。このシミュレーション結果について、国立大学法人北海道大学(所在地:札幌市、総長:山口 佳三)で開催される第37回 日本磁気学会学術講演会において、9月5日(木曜日)に両者連名で発表しております。
背景
近年、モーターや発電機のような磁性材料を利用した機器の高効率化が省エネルギーへの機運の高まりとともに大きく注目されています。特に、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)のモーターにはジスプロシウムなどの重レアアースを使用したネオジム磁石が採用されていますが、資源問題などの観点から重レアアースを使用しない強力なネオジム磁石の開発が重要となってきています。
そのため、新たな磁性材料の作製に向けた、磁性材料の磁区構造を把握する技術が研究されてきました。
シミュレーションの概要
新たに開発したシミュレーション技術を用いて、ネオジム磁石の磁化反転のシミュレーションを行いました。今回のシミュレーションでは、ネオジム磁石の多結晶モデル(図1)を用い、計算領域を1ナノメートルの微細な領域に分割することで磁壁と呼ばれる磁化の遷移領域の挙動を計算しました(図2)。これまでのシミュレーション技術では困難だった磁壁の移動や磁化反転が進行する様子を解析することが可能になっています。
今後
今後は、文部科学省の「元素戦略プロジェクト」における元素戦略磁性材料研究拠点と連携して、スーパーコンピュータ「京」による超大規模な計算を継続実施し、マイクロマグネティックス手法と第一原理計算(注9 )による材料設計を融合した「マルチスケール磁石シミュレーター」の開発に貢献していきます。
商標について
記載されている商品名などの固有名詞は、各社の商標または登録商標です。
注釈 |
注1 スーパーコンピュータ「京」:
理化学研究所と富士通が共同で開発したスーパーコンピュータです。
注2 磁化反転:
磁場や電流によって磁化の方向が反転することです。
注3 ネオジム磁石:
ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)を主成分とする希土類磁石のひとつ。最も強力な永久磁石。ネオジムは希土類元素として分類されますが、地球上では珍しい元素ではなく、コバルト、ニッケル、銅などの普通金属と同様に存在します。
注4 有限要素法:
数値解析手法のひとつ。構造解析や電磁界解析で広く適用されています。
注5 マイクロマグネティックス:
磁性材料の内部の微細な磁化状態を解析する手法。計算機シミュレーションにおいては磁性材料を数原子程度の領域に分割する必要があるため膨大な計算時間を要します。
注6 磁区構造:
磁性体の中は磁気的なエネルギーを下げるために、磁区と呼ばれる微小な領域に分かれます。磁区と磁区の間には磁壁と呼ばれる遷移領域が形成されます。
注7 重レアアース:
ジスプロシウムなどの資源が希少な希土類元素です。ジスプロシウムは地球上の存在比がネオジムの10%程度であるため、使用量の削減が大きな課題となっています。
注8 「京」を用いて実行:
本シミュレーションは「京」の一般利用課題hp120086(研究代表者:国立大学法人 東京大学 合田義弘)において実行しました。
注9 第一原理計算:
原子レベルにおける物質の特性を量子力学(第一原理)に基づいて計算する手法。
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