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リチウム電池や永久磁石用材料の開発に向けた放射光ビームラインを新設【日立製作所】

2012年11月1日

㈱日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 : 鈴木厚人/以下、KEK)は、KEKの放射光科学研究施設(フォトンファクトリー)に、元素周期表のリチウム(Li)からカルシウム(Ca)までの幅広い元素について固体中の化学結合状態*1を解析できる軟X線*2ビームラインを共同で設置する契約を締結しました。本ビームラインは、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの磁性をもつ金属についても解析を行うことができるため、次世代の高性能リチウム電池や永久磁石の研究開発に幅広く適用することができます。
また、大学共同利用機関であるKEKは、本ビームライン稼働後は一般の大学・公的研究機関などにも公開し、機能性酸化物*3や次世代デバイス材料などの基礎研究を推進します。新ビームラインは、2014年度中に運用を開始する予定です。

最先端の材料開発では、物質の特性を決める要因となる原子の化学結合状態を解析し、これをコンピュータによる理論シミュレーションと比較しながら、材料の高機能化、高性能化に向けた研究が進められています。現在、原子の化学結合状態を解析する手法として、X線吸収分光法*4やX線を用いた光電子分光法*5が広く利用されていますが、いずれの手法も、対象とする元素に応じて特定のエネルギーを持つX線を利用する必要があるため、これまでフォトンファクトリーなど放射光実験施設では、研究目的に応じてビームラインを設置、運用してきました。

今回、日立とKEKが新設するビームラインは、1本のビームラインで幅広いエネルギー範囲(30~4,000eV)にわたる軟X線を利用し、元素周期表におけるLiからCaまでの元素の化学結合状態の解析を実現します。放射光の発生源に、偏光可変の放射光を発生させることのできる6列型アンジュレータ*6を採用し、水平偏光、及び垂直偏光の高輝度軟X線の利用が可能となります。

これらの高輝度軟X線の利用により、リチウム電池の高性能・長寿命化に影響する電極材料中でのリチウムの化学結合状態の解析や、炭素(C)を含む有機化合物の計測に基づく生体細胞の解析が実現できます。また、本ビームラインは、Fe、Co、Niなど、各種モータで利用される永久磁石の性能の決め手となる材料の解析も行えるため、原子レベルの解析に基づいた材料の高性能化や新材料の開発に寄与することが期待されます。また、広いエネルギー範囲を持つビームラインの利用によって、1回の実験で幅広い元素にわたる物質解析が可能となり、研究の効率化を図ります。


*1  化学結合状態 : 分子や結晶内において、原子同士を結び付けている電子の状態(エネルギー及び運動量)。
*2  軟X線 : 約50~4000 eV(エレクトロンボルト)程度の、エネルギーが低く透過性の低いX線。放射光は、光速に近い速度で直進する電子が、磁石などによって軌道を曲げられたときに発生する光(電磁波)で、マイクロ波からX線までの連続した波長帯の光が含まれている。
*3  機能性酸化物 : マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅などの遷移金属元素を含む酸化物で、超伝導性、磁性などにおいて特異的な性質を示すものを指し、新物質創成材料として期待されている。
*4  X線吸収分光法 : 試料にX線を照射すると、試料に含まれる元素に固有なエネルギーのX線が吸収される。このX線の吸収構造から、対象元素の化学状態や周辺原子との距離を解析する手法。
*5  X線光電子分光法 : 固体表面にX線を照射することによって特定の元素から放出される電子(光電子)の持つエネルギーを測定し、その情報を基に元素の化学状結合態を解析する方法。
*6  6列型アンジュレータ : SとNの磁極を鍵盤のように並べ、上下対にしたものをアンジュレータといい、電子ビームが磁石の間を通ることで左右に振られ、高輝度なX線を発する。アンジュレータを3対並べたものを6列型アンジュレータという。今回新設するビームラインでは、強度の高い軟X線(30~1000eV)を発生させる。また、電子軌道を振る振動方向を上下/左右と変えることによって、水平偏光/垂直偏光のX線となる。

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