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材料ひとつで熱電発電が可能に。 ~新しい熱電モジュール開発の鍵~【東京都立大学】
2021年4月14日
材料ひとつで熱電発電が可能に。
~新しい熱電モジュール開発の鍵~
東京都立大学理学研究科物理学専攻の後藤陽介助教、水口佳一准教授らの研究グループは、キャリア極性(p型・n型)が方向により異なる多結晶NaSn2As2を開発した。廃熱を用いた発電を行う熱電モジュールは従来、熱流出による外部回路の破損を防ぐために、p型・n型の材料を交互に並べて組み立てていた。これに対し、本研究で開発した材料を用いれば、材料ひとつで、温度差と発電方向の異なる熱電モジュール構築が可能になるため、小型化・軽量化の容易な新しい型の熱電モジュール開発の鍵となると考えられる。また、単結晶ではなく、大型化・加工が容易な多結晶でこのような特性が発現することを示したことから、今後熱電モジュールの材料の選択肢が飛躍的に広がり、さらなる高性能材料の開発も期待される。
当該研究のポイント
・キャリア極性(p型・n型)が方向により異なる多結晶材料を開発
・大型化・加工が容易な多結晶における特性が発現することを確認
・材料ひとつで熱電発電を行う新しいモジュールへの応用が可能
・さらなる高性能物質の開発へ期待
【論文情報】令和3年4月13日
American Institute of Physics (AIP) 刊行の英文誌「Applied Physics Letters」(オンライン版)に詳細掲載
研究の背景と経緯
熱電変換は、熱と電気を相互変換する技術である。可動部がないために振動や騒音が発生せず、工場の廃熱を用いた発電(1)や、小型軽量な精密機器冷却(2)への利用など広く実用化の研究が進められてきた。従来の熱電変換では、熱流出による外部回路の破損を防ぐために、キャリア極性(3)がp型の材料と、n型の材料を組み合わせてモジュールを組み立てる。すなわち、それぞれの材料の熱電特性を最適化したうえで、機械強度や化学的安定性の異なるp型・n型材料を組み合わせて熱電変換素子を作製する必要があった。これに対し、結晶中のある方向においてはp型であり、別の方向にはn型である、という方向依存性を示す材料を用いた場合、p型・n型の材料を組み合わせることなく、単一の材料による熱電変換が可能になる。さらに、温度差と発電方向が異なるため、熱流出による外部回路の破損を防ぐことができる。しかしながら、このような性質を示す材料は極めて限られており、特に大型化・加工の容易な新しい材料の開発が求められていた。
なお、この研究開発は、(独)日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究)および(独)科学技術振興機構JST-CRESTの助成を受けて行われた。
研究の内容
今回、我々はナトリウム(Na)、スズ(Sn)、ヒ素(As)を成分とした層状化合物NaSn2As2(図1(左))に一軸加圧焼結(4)を行うことで、配向性多結晶を作製し、キャリア極性(p型・n型)が測定方向により異なることを発見した。
図1(右)に示すように、X線回折測定では、加圧に対して平行面においては(110)ピーク強度が大きく、また垂直面においては(003)、(006)などのピーク強度が大きく、配向性を持つ多結晶が作製されたことを示す。
図2に配向性多結晶NaSn2As2のゼーベック係数(5)の温度依存性を示す。加圧に対して平行方向ではゼーベック係数の符号が正であり、正孔が主キャリアであることを示す。反対に、加圧に対して垂直方向には符号が負であり、電子が主キャリアであることがわかった。
【用語解説】
(1)廃熱を用いた発電
現在までにも、ボイジャーなどの宇宙探査機において用いられている。
(2)小型軽量な精密機器冷却
ペルチェ素子は精密機器冷却やワインセラーに用いられている。
(3)キャリア極性
半導体材料は主キャリアが正孔(p型)か電子(n型)かによって2種類に分類される。
(4)一軸加圧焼結
試料を全方向から等しく加圧するのではなく、上下2方向から加圧し、焼結する方法。
(5)ゼーベック係数
温度差あたりに生じる起電力の大きさを示す。符号が正の場合は正孔が、負の場合は電子が主キャリアである
ことを示す。
図1. (左)NaSn2As2の結晶構造、(右)X線回折測定結果。上段が加圧に対して平行面、中段が垂直面の測定。
配向によって明確に強度が増強された回折ピークに矢印を示す。下段は粉末試料の測定結果。
図2. NaSn2As2のゼーベック係数の温度依存性。焼結した方向に対して平行、垂直方向でキャリア極性が異なる。
今後の展開
キャリア極性に方向依存性を示す配向性多結晶NaSn2As2が開発されたことで、構成材料がひとつのみからなる新しい熱電モジュールの開発が期待される。特に、大型化、加工が容易な多結晶であることから、具体的な熱電モジュール構築が検討可能になる。今後、材料の選択肢が飛躍的に広がり、さらなる高性能材料の開発が期待される。
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