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DC/DC降圧コンバータを使用して商用車の先進的安全機能を強化する【日本テキサス・インスツルメンツ】
2020年8月25日
運転手と歩行者の安全は、現在、そしてこれからの車両を設計するエンジニアにとって最重要課題です。それは、自動運転であっても半自動運転であっても同じです。最近の統計によると、交通事故のうち73%以上が、特に商用車の場合に、死角、携帯電話の使用、運転手の疲労や不注意が原因で生じています。また、車線逸脱警告や自動緊急ブレーキといった先進運転支援システム(ADAS)を車に搭載することで、事故の確率を80%以上も減らせることが研究でわかっています。これらのシステムが、運転手がよく起こすミスを効果的に防ぐことができるからです。
多くの国の政府が、ADASやその他の高度な安全機能を商用車に装備することを義務付ける規制を定めています(図1)。例えば、死角検知、アダプティブ・クルーズ・コントロール、車線逸脱警告といった機能です。しかし、車載システムを設計している設計者にとって、これはセンサ(レーダーやカメラ)と高性能プロセッサを増やすという意味になり、結果的に同じ面積のプリント基板により多くの電力を(15W以上)供給する方法を探さなければならなくなります。
図1:道路を走る商用車
これまでは、初段のDC/DC降圧コンバータの電流定格は2Aから3Aで十分でした。しかし、センサやレーダーの数が増えてきたため、4A、5A、あるいはそれ以上の電流定格が実際に必要になってきています。このように定格電流が高くなることで、初段のDC/DC降圧コンバータの電力密度と熱特性に大きな課題が生じます。通常は24Vの入力電圧を必要とする、商用車の内蔵バッテリで使用される場合はなおさらです。そのため、電流能力が非常に高いことから(10A以上)、この種のアプリケーションに降圧型コントローラを使用しようと考えるかもしれません。それでも、このようなコントローラはソリューション・サイズが大きいため(それに加えて外付けのMOSFETが2個必要)、設計が制限されます。外付けダイオードと合わせて非同期降圧コンバータの使用を検討することもあるでしょう。ただし、ダイオードがあるとソリューション・サイズが大きくなり、設計コストが上がり、電磁干渉(EMI)が増加するということを忘れてはいけません。
それに加えて、どの車載向けエレクトロニクス・システムも、コールド・クランク時や負荷ダンプ状態での入力電圧の大きな変動にさらされます。止まっていたエンジンを始動するとき(クランク時)、24Vバッテリ電圧は6Vにまで低下します。車載バッテリが充電中にオルタネータから切り離されると、負荷ダンプが発生し、電力ラインにサージが生じます。半導体過渡抑制器でサージを分流した後、多くの場合、通常の初段降圧コンバータは、公称バッテリ電圧で生じる以上のエネルギーを吸収しなければなりません。つまり、分流後のバッテリからのサージ低下によりシステム全体がダメージを受けないようにするには、広入力電圧の初段降圧コンバータが必要ということです。一般に、半導体過渡抑制器があったとしても、24Vバッテリ・システムでバッテリ電圧は55Vにクランプされます。
高電流への対応に伴う問題に対処するには、3.5VIN~60VIN、5Aの『LM76005-Q1』同期DC/DC降圧コンバータを選ぶと良いでしょう。一般に、24VバッテリADASで、全負荷の状態でドロップアウト電圧が大きいと(24VIN、5VOUT)、同期降圧コンバータ・ソリューションの熱管理が難しくなり(例えばドロップアウト電圧が大きいときに発熱が大きくなる)、そのためDC/DC降圧コンバータの実際の負荷能力が限定されるでしょう。このような熱問題に対処するために、『LM76005-Q1』は、サーマル・パッド(1.8mm×4.5mm)とウェッタブル・フランク付き、4mm×6mm、30ピン、WQFNパッケージで供給されます(図2)。サーマル・パッドが大きく高効率なので、熱特性が最適化されます(図3)。
図2:『LM76005-Q1』の回路図
図3:『LM76005-Q1』の効率(VIN = 24V、VOUT = 5V、IOUT = 5A、FSW = 400kHz)
最新のADASにはより高い電流が求められるため、システム全体のEMIの増加が心配になるかもしれません。そのため、選択したDC/DC降圧コンバータが、ピーク時と平均の両方のEMI制限に対してCISPR(国際無線障害特別委員会)25規格に適合していることが重要です。『LM76005-Q1』は、リンギングなしでスイッチングを高速化するよう最適化されたスイッチング・エッジと、内部グランド・プレーンを備えるため、FCOL(Flip-Chip On-Leadframe)QFNパッケージと組み合わせることでEMIと電磁環境適合性(EMC)エミッションが最小限に抑えられ(図4)、CISPR25 Class 5車載規格への適合が用意になります。
図4:『LM76005-Q1』の放射EMI(VIN = 13.5V、VOUT = 5V、IOUT = 3A、FSW = 400kHz)
ADASにより車の安全性が向上するのは間違いありません。これらのシステムの効果が出ていることから、車載設計に組み込まれるセンサが増えることが予測できます。高い信頼性、高い電流出力能力、改善された熱特性、EMI/EMCエミッションの低減が引き続き重視される中、広入力電圧の降圧コンバータを選択する際の主な注意点と、それらを電力管理回路へとシームレスに統合する方法を理解することが、優れたADAS設計の実現に役立つでしょう。
参考情報:
+技術記事(英語)
“How to meet European Commission ADAS requirements with DC/DC converters.”
“Effects of IC package on EMI performance.”
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※上記の記事はこちらの技術記事(2020年7月27日)より翻訳転載されました。
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