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“印刷で”配線・接合“銅ナノペースト”:貴金属代替へ【三井金属鉱業】

2019年1月30日

“印刷で”配線・接合“銅ナノペースト”:貴金属代替へ
~プリンテッドエレクトロニクスと次世代パワーデバイス接合は銅の時代へ~

【発表のポイント】
  ・開発した銅ナノ粒子は、140 °C程度から銅ナノ粒子の焼結が開始され、
   これまでにない低温焼結特性を示すことが確認できた。
  ・あらたに開発した合成プロセス(水溶性銅錯体室温還元法)は、水中、 大気下、
   室温という極めて低環境負荷の条件において、低温焼結性を有 する銅ナノ粒子の調製が可能である。
  ・開発した銅ナノ粒子から調製した銅ナノペースト※1は、プリンテッドエ レクトロニクス※2による
   回路形成や次世代パワーデバイス※3 の接合材 料として用いられている銀ペーストに置き換わる
   材料となることが期 待できる。

【概要】
 東北大学 多元物質科学研究所(所長 村松淳司)の 蟹江澄志 准教授らと三井 金属鉱業株式会社(東京都 代表取締役社長 西田計治)の上郡山洋一博士らの共 同研究により、低温焼結性を有する銅ナノ粒子を水中、大気下、室温という、極 めて低環境負荷の条件において合成するプロセスをあらたに開発しました。
 得られた銅ナノ粒子表面には、耐酸化性を持つ有機物が吸着しており、この有 機物成分が低温(140 °C 程度)で分解することで、銅ナノ粒子の焼結が開始さ れることを解明しました。
 今回開発した銅ナノ粒子をペースト化することで、180 °C 程度の低温焼成(N2 雰囲気下の無加圧焼成)で PEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムや PI(ポ リイミド)フィルム上に銅粒子間が焼結した良好な厚膜銅配線形成(膜厚:14 μm)が可能です。これにより、プリンテッドエレクトロニクスによる IoT セン サーの回路形成材料などとして銀ペーストやハンダ代替が期待できます。
 また、模擬接合構造(銅基板間を銅ペーストで接合する)を用いた金属間接合 材料※4としての評価では、200 °C 程度の低温焼成(N2雰囲気下の無加圧焼成) で高いシェア強度(>30 MPa)を示すことを確認しており、次世代パワーデバ イス(SiC や GaN)の接合材料として実用化が期待できます。

 なお、本成果は、1月29日(火)付で、nature.com が管理するオープンア クセス電子ジャーナル誌の「Scientific Reports」誌に掲載される予定です (DOI: 10.1038/s41598-018-38422-5)。

【詳細な説明】
 プリンテッドエレクトロニクスと既存の IC 製造技術を組み合わせたフレキ シブル・ハイブリッド・エレクトロニクスの回路形成材料及び次世代パワーデ バイス(SiC や GaN)の接合材料として銀ナノ粒子を利用した低温焼結型銀ナ ノペーストの研究開発が活発に行われています。
 一方で、銀は高価な金属であり、安価な銅ナノ粒子を利用する研究開発も近 年盛んになりつつあります。しかしながら既往の銅ナノ粒子調製法は、生成す る銅ナノ粒子の凝集抑制及び酸化防止のために高分子類を使用しているため、 銅粒子表面に高温で分解する有機物が残存し、これが低温焼結を阻害してしま います。
 東北大学および三井金属鉱業株式会社の共同研究では、水中、大気下、室温 という極めて低環境負荷な条件において水溶性銅錯体を還元処理することで、 低温焼結性を有する銅ナノ粒子を合成することに成功しました。
 得られた銅ナノ粒子を加熱焼成した結果、有機成分が低温(140 °C 程度)で 分解することで銅ナノ粒子の焼結が開始されることを解明しました(図 1)。

図 1. 焼結特性比較概略図
(a):既往の合成法で得た銅ナノ粒子、(b):水溶性銅錯体で得た銅ナノ粒子

開発した銅ナノ粒子から調製した銅ナノペーストは、低温で 30 分間焼成(N2 雰囲気下の常圧焼成)すると、良好な焼結状態が得られます(図 2)。

図 2. 開発した銅ナノペーストを N2雰囲気下で常圧焼成した後の焼結状態図

(a):焼成前、(b):180 °C×30 min.焼成後の焼結状態、 (c):200 °C×30 min.焼成後の焼結状態

この銅ナノペーストは PEN フィルムや PI フィルム上への配線形成材料(図 3)及びパワーデバイスの接合材料として期待できることを見出しました。

図 3. 開発した銅ナノペーストをフィルム上へスクリーン印刷した後、
200 °C×30 min.焼成(窒 素雰囲気下の常圧焼成)して得られた配線状態図
(a):PEN フィルム上への配線形成、(b):PI 上への配線形成

【論文情報】
タイトル:Ambient Aqueous-Phase Synthesis of Copper Nanoparticles and Nanopastes with Low-Temperature Sintering and Ultra-High Bonding Abilities
著者:Yoichi Kamikoriyama, Hiroshi Imamura, Atsushi Muramatsu, and Kiyoshi Kanie
掲載誌:Scientific Reports DOI: 10.1038/s41598-018-38422-5

【用語説明】
※1.銅ナノペースト:
有機溶媒中にナノサイズ(100 nm 以下)の銅粒子を主成分に、他に接着成分や 無機物を分散させた粘性の高い流動体です。食パンに塗るジャムやクリームの 様な粘性を有します。

※2.プリンテッドエレクトロニクス:
電子デバイスの回路配線や絶縁膜等を印刷技術によって作製する技術です。必 要な箇所に必要な量だけ金属粒子又は金属酸化物粒子を含むペースト(インク) を印刷し、加熱や紫外線等で硬化させ導体・絶縁体等を形成するため、環境に優 しい製造技術と認識されています。

※3.次世代パワーデバイス(パワー半導体):
パワー半導体は、交流を直流に変換したり電圧を昇圧・降圧したりし電力を制御 するデバイスです。現在は半導体のシリコン(Si)が使われていますが、次世代 パワーデバイスではシリコンカーバイト(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を使用 することで、電力損失を大幅に削減することができると期待されています。

※4.金属間接合材料:
電子部品を基板上の配線や電極に接合する材料です。接合材料としてハンダが 一般的に使用されています。

【問い合わせ先】
(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 准教授
電話: 022-217-5165
E-mail: kanie@ tohoku.ac.jp (報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail: press.tagen@grp.tohoku.ac.jp
三井金属鉱業株式会社
経営企画本部 広報部
電話:03-5437-8028
E-mail:PR@mitsui-kinzoku.com



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