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AR HUDの設計の課題:太陽光負荷の理解と管理【日本テキサス・インスツルメンツ】
2018年6月14日
拡張現実(AR)ヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)は、自動車産業において、注目すべきトピックのひとつです。この技術は、自動車メーカーやティア1サプライヤが積極的にARフロントガラスHUDを開発するところまで進んでいます。
実用的なARディスプレイは、最低でも10度の広い視野(FOV)と7.5メートル以上の仮想イメージ距離(VID)が求められます。FOVはディスプレイの大きさを角度で表し、VIDはイメージが投影される距離を示します。車載HUDでは、VIDはイメージが道路上のどれぐらい先に表示されるかを示します。
デジタル情報を現実世界の上にオーバーレイするAR技術を活用し、ドライバーの状況認識を向上させ、また、FOVがより広く、仮想イメージ距離がより長くなるほど、運転体験は改善します。
図1:ARディスプレイの事例
ARディスプレイの設計における2つの大きな課題は、「輝度」と「太陽光負荷」です。ARディスプレイは、可能な限り広く明るくする必要があるため、イメージャーから多くの光が必要になります。また、イメージを道路上の可能な限り遠くに投影する必要があります。今日のHUDは、7度から8度以下のFOVで、2~2.5メートルのイメージを道路上に投影できます。これらのイメージは自動車のボンネット上に浮くように見えます。AR HUDでは、このイメージをさらに投影させ、実際にイメージを拡大し、ドライバーの視界と相互作用させることができます。
より長い仮想イメージ距離をサポートするために、25から30倍の倍率でシステムを設計することは珍しいことではありませんが、HUD投影機パネルのとても小さな領域に太陽光負荷(太陽のエネルギー)を集束させるという不運な副作用が生じ、熱的課題をもたらします。この高い拡大倍率では、投影機パネルがHUD光学系の焦点により近づくため、ユニット・エリアあたりの太陽エネルギーの集中度が図2のように高まるためです。
注意すべきは、周辺温度ではなく、(AR HUDのグレアトラップが拡大することで)システムにより多くの光が入り、それが太陽エネルギーの集束と組み合わさることで、熱的課題が生じるという点です。
図2:拡散スクリーンまたはTFT(薄膜トランジスタ)パネル上に太陽光負荷を拡大させるHUD光学系
DLP®テクノロジ独自の中間拡散スクリーン・アーキテクチャにより、太陽光の増幅に起因する熱負荷に耐えうるHUDを設計することができます。図3に示されるように、DLPテクノロジを使用したHUDは、イメージを拡散スクリーンに投影し、その後HUD光学系がそのイメージをフロントガラスに拡大投影し、その反射をドライバーが認識することになります。TFT HUDでは、TFTパネルが拡散スクリーンとそれをサポートする電子機器を置き換える形で、HUD光学系に装着されています。
図3:DLPテクノジに基づいたHUDアーキテクチャの事例
拡散スクリーンの利点についてよりよく理解するために、拡散スクリーンと従来のTFTパネル(図4)を比較した物理的性質について見てみましょう。前者に備わる2つの主な利点は、より高い動作温度の運用であり、より重要なことは、太陽から入射する可視スペクトルの多くを単に吸収しない点にあります。スペクトルの赤外線(IR)と紫外線(UV)の部分は、容易にフィルタできます。
図4:TFT vs. ディフューザ
入射する太陽光負荷は、TFTパネルの場合と同様に、HUD光学系のディフューザ(拡散器)に集束されますが、ディフューザの場合、透過光が実際に拡散するため、HUD光学系の増幅効果が排除され、熱的課題を大幅に簡素化し、対処可能にします。TFTパネルの場合、太陽エネルギーは吸収され、パネルの動作温度を容易に最大定格以上に上昇させることができます。この太陽光負荷の優位性と、より優れた輝度、コントラスト、色域により、自動車メーカーやティア1サプライヤは次世代のAR HUDを設計し、市場投入が可能になるのです。
参考情報
・ TI DLP車載用チップセット『DLP3030-Q1』の概要 および評価モジュール
・ 『DLP3030Q1EVM』
・ ビデオ「DLPテクノロジによるHUDチップセット概要(英語)
※DLPはTexas Instrumentsの登録商標です。その他すべての商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらのBlog記事(2018年2月13日)より翻訳転載されました。
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