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SiCを用いた鉄道車両インバータ用 3.3kV小型ハイブリッドモジュールを開発【日立製作所】
2012年3月15日
従来のSiを使用したモジュールと比べ約3分の2のサイズを実現
㈱日立製作所(執行役社長 : 中西 宏明/以下、日立)は、このたび、Si(Silicon : シリコン)にかわる次世代パワーデバイス用材料として注目されるSiC(Silicon Carbide : 炭化ケイ素)を用いて、3.3kV(キロボルト)という高い耐圧を有する、鉄道車両インバータ用小型3.3kV/1200A(アンペア)ハイブリッドモジュールを開発しました。今回開発したハイブリッドモジュールは、3.3kVのSiC-SBD(Schottky Barrier Diode)とSi-IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を組み合わせたものです。日立は、モジュールの小型化を実現するため、デバイス・回路・損失シミュレーションを駆使したSiC-SBD構造の最適化技術と、Si-IGBTのデバイス特性最適化技術を開発し、現在主流のSiモジュールに比べ、モジュールサイズを約3分の2(当社比)に小型化することに成功しました。今回開発した3.3kV小型ハイブリッドモジュールは、1500V架線用といった高電圧向け鉄道車両用インバータの、小型・軽量化、省エネの実現に貢献するものです。
近年、地球温暖化防止の観点から、低炭素社会を実現するための環境対策が世界規模で進められています。鉄道は、環境負荷の少ない輸送システムとして需要が高まっていますが、さらなる省エネルギー化に向けて、車両やインバータの軽量化などに貢献する、小型で環境性に優れた鉄道車両用パワーモジュールが求められています。
SiCは、現在主流のSiと比較して、絶縁破壊電界強度が約10倍高く、高耐圧であることからデバイスの薄型化による導通(オン)時のオン抵抗低減が可能であるため、パワーモジュールの小型化や冷却系の簡素化が期待できる材料として注目されています。現在、鉄道インバータは、国内では1500V架線用といった高電圧向けが多く、高い耐圧を有するパワーモジュールの小型化が重要になっています。これまで日立は、2009年に、ショットキー接合とpn接合を組み合わせたJBS(Junction Barrier Schottky)構造を採用した3kV級SiC-SBDを開発し、これを搭載したパワーモジュールを開発しています。このような背景から日立は、SiCを用いた鉄道車両インバータ向け小型ハイブリッドモジュールを開発しました。開発した技術の特長は以下のとおりです。
(1) SiC-SBD構造最適化技術
パワーモジュールの小型化のためには、限られたチップ面積のSiC-SBDに大電流を流す必要があります。ショットキー接合とpn接合を組み合わせたJBS構造を用いることによって、損失低減と漏れ電流低減の両立が可能となりますが、今回日立は、デバイスシミュレーションによるJBS構造の最適化によってその効果を高め、SiC-SBD単位面積あたりの電流量を増やすことに成功しました。また、SiCは内部電界がSiの約10倍となるため、デバイスシミュレーションにより、素子端部の構造(終端構造)の最適設計を行い、電界を緩和することで、鉄道用途で必要な信頼性を確保しました。
(2) Si-IGBTデバイス特性最適化技術
Si-IGBTに対して、鉄道用回路・損失シミュレーション技術を駆使することで、デバイス特性を最適化しました。このSi-IGBTと今回開発したSiC-SBDを組み合わせることで、小型3.3kV/1200Aハイブリッドモジュールを実現しました。開発したハイブリッドモジュールは、従来Siモジュールと比較し、約3分の2のサイズに小型化しています。また、このハイブリッドモジュールを適用することにより、鉄道で大きな市場である1500V架線対応のインバータにおいて、シンプルな2レベル*の回路構成を適用することが可能になります。
なお、本成果は、2012年3月18日に早稲田大学で開催される「2012年春季 第59回 応用物理学関係連合講演会」、2012年3月21日に広島工業大学で開催される「平成24年電気学会全国大会」にて、発表する予定です。
* 2レベル : IGBTのオン/オフにより、出力電圧を0%、100%の2段階に出力する方式で、インバータを構成するモジュールの数を少なくできる。
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