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アンモニアから燃料電池自動車用水素燃料を製造【昭和電工】

2016年7月19日

アンモニアから燃料電池自動車注1)用高純度水素を製造する実用可能な技術の開発に世界で初めて成功し、アンモニアを原料とした水素ステーション(アンモニア水素ステーション)の実現に向け大きく踏み出しました。

内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」(管理法人:国立研究開発法人 科学技術振興機構【理事長 濵口 道成】)の委託研究課題「アンモニア水素ステーション基盤技術」において、国立大学法人 広島大学、昭和電工㈱、国立研究開発法人 産業技術総合研究所、㈱豊田自動織機、大陽日酸㈱は共同研究により、アンモニアから燃料電池自動車用高純度水素を製造する技術の開発に成功しました。

アンモニアはNH3で示されるように、多くの水素を含んでおりエネルギーキャリア注2)として期待されています。しかしながら、アンモニア水素ステーション実現のためにブレイクスルーしなければならない大きな技術障壁としては次の3点がありました。 ①高活性高耐久性アンモニア分解触媒 ②残存アンモニア濃度を0.1ppm以下にでき、再生が容易なアンモニア除去材料 ③水素純度99.97%を達成できる精製技術

今回、世界トップレベルのアンモニア分解用ルテニウム系触媒の調製、アンモニア除去材料の作製及び水素精製技術を確立することにより、それらを用いたアンモニア分解装置、残存アンモニア除去装置及び水素精製装置を実証システムの1/10スケールで開発しました。これらの装置を組み合わせることで、世界で初めてアンモニアを原料とした燃料電池自動車用水素燃料製造注3)が可能となりました。現在、当チームでは昭和電工㈱川崎事業所においてシステムの実証を行うべく、プロセスの検討を行っています。 今回の成功は、アンモニアを燃料電池自動車用水素燃料へ利用するための技術の大きな進展であり、将来、アンモニアを利用する燃料電池自動車用水素ステーションの実現が期待され、ひいてはCO₂削減に大きく貢献することになります。

この技術の詳細は、2016年7月20日に日本科学未来館で開催されるSIPエネルギーキャリア公開シンポジウムで発表されます。


<開発の社会的背景>
化石燃料の枯渇に伴うエネルギー問題、大量のエネルギー消費による環境汚染問題を解決するため、燃焼後には水しか出ない水素が、クリーンエネルギー源として期待されています。常温では気体である水素は、その効率的な貯蔵・輸送技術の開発が大きな課題となってきました。常温、10気圧程度の条件で容易に液体となるアンモニア(NH3)1分子は3原子の水素をもつため水素量が多く、水素エネルギーのキャリアとして魅力的な化学物質です。アンモニアは燃料電池自動車用水素源として注目されています。

<研究の経緯>
広島大学 先進機能物質研究センターの小島 由継 教授を研究責任者とするアンモニア水素ステーションチームは、アンモニアから水素燃料を製造するための、アンモニア分解・高純度水素供給システムの開発に取り組んでいます。アンモニア分解・高純度水素供給システムは、図1に示すように、主にアンモニア分解装置、アンモニア除去装置、水素精製装置から構成されます。アンモニアはアンモニア分解装置で分解され、水素、窒素の混合ガスが生成されるものの、微量のアンモニアガスが残存します。この混合ガス中の微量のアンモニアや窒素はアンモニア除去装置と水素精製装置で除去され高純度水素が製造されます。
本研究開発は平成26年度からスタートした内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」の一課題として実施されています。(本研究開発の一部は平成25年度JST戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)の委託研究「エネルギーキャリアとしてのアンモニア高効率利用に関する革新的基盤技術」において行われました。)

<研究の内容>
燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトはパーフルオロスルホン酸系プロトン交換膜注4)などから構成される固体高分子形燃料電池注5)を利用しています。プロトン交換膜などにおいてアンモニア分子はアンモニウムイオンの形で蓄積し、燃料電池の性能が低下する問題があります。燃料電池自動車用水素中のアンモニア濃度は国際規格(ISO14687-2)によると0.1ppm以下と決められています。
産業技術総合研究所 触媒化学融合研究センターでは、汎用のステンレス材料の使用が期待される550℃以下において、アンモニアを化学平衡濃度注6)(理論値)まで分解する世界トップレベルの高性能ルテニウム系触媒(Ru/MgO)を開発しました。550℃において、従来のルテニウム系触媒では残存アンモニア濃度が約70,000ppmであったものが、今回開発したルテニウム系触媒では1,000ppm以下までアンモニアを分解できることを見出しました(図2)。 そして、昭和電工㈱と㈱豊田自動織機では、この触媒を用いたアンモニア分解装置を実証システムの1/10スケールで開発しました(図3)。アンモニアガスを1Nm³/hの流量でアンモニア分解装置に供給し、550℃でアンモニア濃度1,000ppm以下の分解ガス(水素75%、窒素25%)が2Nm³/hの流量で得られることを達成しました。
広島大学 先進機能物質研究センターでは、加熱再生が容易で、0.1ppm以下の濃度までアンモニアを除去できる無機系除去材料を世界に先駆けて見出しました(図4)。従来の硫酸水素アンモニウム(NH4HSO4)系除去材料を用いた場合、体積当たりのアンモニア除去量が少なく、可熱再生が困難であったものが、今回開発した無機系除去材料を利用することにより、除去量を3倍に増加でき、加熱再生も可能になりました。これにより、無機系除去材料は繰り返し利用できることがわかりました。
さらに、昭和電工㈱では、この除去材料を用いた実証システムの1/10スケールのアンモニア除去装置を開発しました。アンモニア分解装置により得られたアンモニア分解ガス(アンモニア1,000ppm以下、水素75%、窒素25%)を2Nm3/hの流量でアンモニア除去装置に供給することにより、アンモニア残存濃度を国際規格である0.1ppm以下まで低減できることを確認しました。また工業的に加熱再生が容易であり、かつ体積あたりのアンモニア除去量が多いため、この除去材料が実用可能レベルにあることを確認しました。今回行った、実証システムの1/10スケールにおけるアンモニア分解反応から残存アンモニア除去までの一気通貫での実証実験の成功は世界初であり、アンモニアを燃料電池自動車用水素燃料へ利用するための技術の大きな進展となりました。
大陽日酸㈱では、窒素等の不純物を除去する水素精製装置を開発しました(図5)。アンモニアを除去した水素、窒素の混合ガスには高濃度の窒素や微量不純物が含まれています。このガスを2Nm3/hの流量で水素精製装置に送り、窒素を1ppm以下まで、その他不純物もppmからppbのオーダーまで同時に一段で除去する技術を確立し、世界で初めてアンモニア由来水素から燃料電池自動車用水素燃料の国際規格をクリアする水素が製造出来る事を明らかにしました。
今回開発した、アンモニア分解装置、アンモニア除去装置と水素精製装置を組み合わせることで、燃料電池自動車用水素燃料製造が可能となります。現在当チームでは、昭和電工㈱川崎事業所において10Nm3/hスケールのシステム実証を行うべく、プロセス検討を行っています。

<今後の予定>
アンモニア分解装置、アンモニア除去装置、水素精製装置を連結させ、10Nm³/hで水素を供給できる実証システムの開発を経て、アンモニア水素ステーションの実現を目指します(図1)。アンモニアからの高純度水素は燃料電池自動車や燃料電池フォークリフトへの利用が期待され、ひいてはCO₂削減に大きく貢献することになります。



用語解説
注1) 燃料電池自動車 : 搭載した固体高分子形燃料電池で燃料(水素)と空気中の酸素から発電し電動機を動かして走行する自動車である。2014年12月にトヨタ自動車㈱から、世界初の量産型燃料電池自動車MIRAIが発売され、2016年3月には本田技研工業㈱から、新型燃料電池自動車CLARITY FUEL CELLが発売された。

注2) エネルギーキャリア : 液体水素やメチルシクロヘキサン、アンモニアなど水素を多く含む物質のことで、エネルギー生産地で合成して、化学的に安定な液体として保存、運搬し、エネルギー消費地で水素を取り出すか直接エネルギーに変換して使用する。

注3) 燃料電池自動車用水素燃料 : 2012年12月に燃料電池自動車用の水素燃料の国際規格(ISO14687-2)が発効されている。この規格によると水素中のアンモニア濃度は0.1ppm以下、窒素濃度は100ppm以下、水素純度は99.97%以上に決められている。

注4) パーフルオロスルホン酸系プロトン交換膜 : スルホン酸基を持つパーフルオロ(全フッ素置換)側鎖とフッ素系主鎖から構成されるプロトン交換膜であり、プロトン交換膜はプロトンのみを通過させる。

注5) 固体高分子形燃料電池 : 電解質に高分子電解質膜を用いているタイプの燃料電池。作動温度が低いことや起動が速いなどといったメリットから、家庭用燃料電池や燃料電池自動車に使われている。

注6) 化学平衡濃度 : 正反応(アンモニア分解)の反応速度と逆反応(アンモニア合成)の反応速度が釣り合っている状態でのアンモニア濃度である。


お問い合わせ先
<研究に関すること>
広島大学 先進機能物質研究センター長・教授
〒739-8530 東広島市鏡山1-3-1
TEL : 082-424-3904 FAX : 082-424-5744
E-mail : kojimay@hiroshima-u.ac.jp

昭和電工㈱ 広報室
〒105-8518 東京都港区芝大門1-13-9
TEL : 03-5470-3235 FAX : 03-3431-6215
E-mail : sdk_prir@showadenko.com

大陽日酸㈱ 国際・経営企画本部 広報・IR部
〒142-8558 東京都品川区小山1-3-26東洋Bldg.
TEL : 03-5788-8015

<JST事業に関すること>
国立研究開発法人 科学技術振興機構 環境エネルギー研究開発推進部
〒102‒0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
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