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革新型蓄電池の実用化に向けた共通基盤技術の開発に着手【NEDO】

2016年5月18日

革新型蓄電池の実用化に向けた共通基盤技術の開発に着手
-EVでガソリン車並みの走行距離を目指す-


NEDOは、リチウムイオン電池(LIB)の性能を超える革新型蓄電池の実用化に向けた共通基盤技術の開発に着手します。
本プロジェクトでは、大学・研究機関、企業の連携(集中研方式)により、エネルギー密度や耐久性、安全性などの車載用蓄電池に必要な性能を高いレベルで両立させる研究開発を、容量5Ah級の蓄電池を試作して実施。2030年にガソリン車並みの走行性能を有する普及価格帯の電気自動車(EV)などへの車載化を目指します。


リチウムイオン電池から革新型蓄電池への飛躍


高度解析技術開発と革新型蓄電池開発

1.概要

日本のエネルギー・環境制約への対応と自動車産業の競争力の維持・強化のためには、燃料多様化や省エネルギー、CO₂排出量の削減に繋がる電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド(PHEV)をガソリン車と同等の利便性を持つ製品に高める必要があります。その実現の鍵を握るキーテクノロジーが車載用蓄電池です。LIBの性能限界を超える新しいタイプの高性能で低コストの革新型蓄電池をより早期に開発し、それを搭載したEVやPHEVを世界に先駆けて市場に投入していくことが期待されています。
このような背景のもと、NEDOは「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)」※1(2009年度~2015年度)において、2030年にガソリン車並みの走行性能を有するEV等に搭載されるオリジナリティの高い革新型蓄電池の基礎研究に取り組んできました。その結果、3タイプの革新型蓄電池(亜鉛空気、ナノ界面、硫化物)で、エネルギー密度300Wh/kgを検証し、500Wh/kgの見通しを得ました。
今般、RISINGで得られた成果を2030年の実用化に向けて更に発展させるため、「革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISINGII)」(2016年度~2020年度)において、手戻りなく最短で開発することが可能な世界最高・最先端の解析技術を開発・活用しながら、エネルギー密度のみならず、耐久性や安全性等の車載用蓄電池として必要とされる性能を両立させる革新型蓄電池の共通基盤技術の開発に取り組みます。
具体的には、「研究開発項目〔1〕高度解析技術開発」と「研究開発項目〔2〕革新型蓄電池開発」に取り組みます。「研究開発項目〔1〕高度解析技術開発」においては、SPring-8の放射光X線回折※2、J-PARCの中性子回折※3、NMR※4、精密充放電※5、電子顕微鏡、計算科学※6等の複数の解析技術を相補的に組み合わせて電池内部の様々な現象をより高速で微細に把握し、課題抽出とその解決を図ることにより、高性能化や高耐久化を実現する新規の解析技術を開発します。
「研究開発項目〔2〕革新型蓄電池開発」においては、RISINGで300Wh/kgが検証できた3タイプの電池(亜鉛空気、ナノ界面、硫化物)を対象として、「研究開発項目〔1〕高度解析技術開発」で開発する技術を用いて課題解決を図りながら、エネルギー密度のみならず、耐久性、安全性等についても車載化に課題がないことを、実セル(容量5Ah級)※7を試作して検証します。
いずれの研究開発項目においても、その目標達成に向けた難易度が極めて高いことから、先端的な材料科学や高度な解析技術を有する大学・公的研究機関と車載用蓄電池の開発・実用化で豊富な実績を有する蓄電池メーカー、エンドユーザーとなる自動車メーカー等の連携体制により、学のサイエンスと産のエンジニアリングの知見を融合させることで、技術的なブレークスルーの創出を目指します。

2.事業の内容

【1】事業名
革新型蓄電池実用化促進基盤技術開発(RISINGII)

【2】事業総額
150~180億円(予定)

【3】期間
2016年度~2020年度

【4】委託先
国立大学法人京都大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立大学法人茨城大学、学校法人神奈川大学、学校法人関西大学、国立大学法人九州大学、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、国立大学法人神戸大学、国立大学法人東京大学、国立大学法人東京工業大学、国立大学法人東京農工大学、国立大学法人東北大学、国立大学法人名古屋工業大学、公立大学法人兵庫県立大学、一般財団法人ファインセラミックスセンター、国立大学法人北海道大学、国立大学法人三重大学、国立研究開発法人理化学研究所、学校法人立命館 立命館大学 総合科学技術研究機構、学校法人早稲田大学、ソニー㈱、トヨタ自動車㈱、㈱豊田中央研究所、日産自動車㈱、パナソニック㈱、日立化成㈱、㈱日立製作所、日立マクセル㈱、㈱本田技術研究所、三菱自動車工業㈱

太字+下線が代表機関

3.今後の予定

実用化の目標時期である2030年までのリードタイムを踏まえると、2020年代前半までに革新型蓄電池の有望な電池タイプ・構成材料を絞り込んでセルの基本仕様を固め、電池モジュール・システムの開発フェーズに移る必要があります。そのため、本事業終了後に企業における実用化開発が可能となるところまで研究フェーズを移行させることを目指します。

【用語解説】
※1 革新型蓄電池先端科学基礎研究事業(RISING)
    京都大学と産業技術総合研究所関西センターを集中研究拠点として、13大学・13企業・4研究機関によるオール
    ジャパン体制で、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して事業を推進。京都大学拠点
    にNEDO職員が常駐し、現場密着型の研究開発マネジメントを実施。RISINGとは、Research and
    Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteriesの略。
※2 放射光X線回折
    物質中の原子がある規則に従って配列した場合、電磁波であるX線を入射すると、それぞれの原子からの散乱波
    が互いに干渉しあい、特定の方向にだけ強い回折波(回折X線)が進行する。この現象をX線回折と呼び、本手法
    を用いることにより物質内の原子の配列を調べることができる。SPring-8では物質に対する透過力の強い高エネ
    ルギーX線を発生することができることから、とくに高エネルギーX線回折と呼ぶ。
※3 中性子回折
    回折の原理はX線回折と同じであり、中性子を用いても物質内の原子の配列を調べることができる。ただし、X線
    は原子内の電子で散乱されるのに対し、中性子は原子核で散乱されることから、構成される原子によって検出感
    度が異なってくる。したがって、同じ物質が同じ原子配列を有していてもX線回折と中性子回折から異なった情報
    を得ることができる。近年ではX線回折と中性子回折の相補利用が盛んに行われている。
※4 NMR(核磁気共鳴分光)
    原子核中の核スピンを観察する方法である。物質の様々な情報を得ることが可能であり、例えばスペクトルの位
    置(化学シフト)からは原子の局所構造や原子同士の配列、緩和時間からは核スピン周りの磁場の揺らぎの大き
    さ等を推定することができる。
※5 精密充放電
    高い精度で電気量を測定することができる計測手法であり、電池内部の反応を電気化学的に予測できる可能性が
    ある。
※6 計算科学
    第一原理計算等を用いて、蓄電池の性能や耐久性を左右する電極-電解液界面付近で起こる変化を予測するもの
    である。既存の実験データを用いずに、量子力学の基本法則に基づく理論のみから物理量を計算することが可能
    である。
※7 実セル(容量5Ah級)
    一対の正極、負極、セパレータ、電解質(電解液)で構成され、充放電が可能な単電池の状態。ただし、端子や
    電子制御装置等は含まれない。試作する実セルの容量と最終・中間目標は、開発する革新型蓄電池タイプの特
    性、実用化課題、試作・評価に使用する研究開発設備と研究開発時の安全性等を勘案した上で別途定める。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO スマートコミュニティ部 TEL : 044-520-5264

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 TEL : 044-520-5151 E-mail : nedo_press@ml.nedo.go.jp








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