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リチウムイオン電池を凌駕する革新型蓄電池の基礎技術を構築【NEDO】

2016年3月28日

リチウムイオン電池を凌駕する革新型蓄電池の基礎技術を構築
―RISINGプロジェクトの成果を学会発表―


NEDOのプロジェクトにおいて、京都大学、産業技術総合研究所などの研究グループは、リチウムイオン電池の性能限界を凌駕する新しいコンセプトの蓄電池(リザーバ型蓄電池)の開発に取り組み、従来不活性とされてきた電池系において充放電特性の向上等に成功し、500Wh/kgを見通す革新型蓄電池の基礎技術の構築に向けて大きく前進しました。
本研究グループは、2016年3月29日~31日に大阪で行われる電気化学会第83回大会において、この研究内容を発表します。

1.概要

プラグインハイブリッド自動車(PHEV)や電気自動車(EV)における走行距離を伸ばすため、従来のリチウムイオン電池(LIB)の性能を遥かに凌駕するエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現が待たれています。
LIB(図1)は、イオンを収納する入れ物(ホスト材料)の間でリチウムイオンをやり取りする(インサーション型蓄電池とする)ことで充放電を行うために、繰り返し充放電特性(サイクル特性)に優れるという利点がある一方で、ホスト材料の重量や体積が嵩むために、達成可能なエネルギー密度に限界があります。この入れ物を廃して、金属そのものを電極として利用する新しいコンセプトの蓄電池(リザーバ型蓄電池)(図2)にすればエネルギー密度は大幅に向上しますが、電極材料によってはサイクル特性に大きな問題を抱えることになります。特に、電極反応生成物が電解液に全く溶解せずに活性を示さない場合や、電解液に過剰溶解して散逸する場合は、サイクル特性が期待できず二次電池としては使用が困難でした。
そこで、NEDOのプロジェクト※1において、京都大学、産業技術総合研究所などの研究グループは、電解液に電極の反応種が適度に溶解できる環境づくりに着目し、添加剤(アニオンレセプター)の導入、溶解性の高い電極材料の固定化、電極―電解質界面のナノレベルでの制御等を行った結果、種々の材料においてサイクル特性や充放電特性の向上等に成功しました。
今後は、出力特性、安全性等も含めて車載用蓄電池として要求される性能を更に高め、より早期に実用化に繋げていくことが期待されます。
なお、本研究グループは、2016年3月29日~31日に大阪で行われる電気化学会第83回大会において、この研究内容を発表します。

2.今回の成果

【1】添加剤(アニオンレセプター)の活用によりサイクル特性を大幅に向上
リチウムイオンを多量に挿入脱離できる金属フッ化物電極材料においては、放電で生成するフッ化リチウムが固体であり反応しづらいため、充電性能が低いという問題がありました。そこで、このフッ化リチウムが適度に電解液に溶解するような添加剤(具体的にはフッ素に結びつくアニオンレセプター※2)を加えることにより電極を活性化し、課題であるサイクル特性を大幅に向上させることに成功しました(図3)。

【2】大容量の硫化物電極材料を開発し反応機構を解明
リチウム硫黄電池系においては、従来、放電により正極材料の硫黄が電解液に溶解するため充電を行うことができませんでしたが、硫黄を金属と共有結合した非晶質な金属硫化物として固定化することにより、充放電を行うことが可能になりました。
その反応機構について、大型放射光施設SPring-8※3における高エネルギーX線回折※4を適用して反応機構の解明を図ったところ、充放電で硫黄原子同士の結合が形成/解離することが分かりました(図4)。この非晶質材料の反応機構解析に代表されるように、放射光・中性子といった高度な解析技術を活用することにより、従来困難であった電池内で起こる現象メカニズムの解明にも、大きく貢献しました。

【3】ナノレベルでの界面制御によりマイナス電荷を持つイオンを移動させる新規電池系を開発
マイナス電荷を持つハロゲン化物イオンの移動に着目して、多電子移動による高容量化が期待できるハロゲン化物蓄電池を提案し、その作動検証にも取り組みました。
塩化物系の場合は、溶解性の低い電解液や、電解質塩の高濃度化により電極反応生成物が電解液に溶解しすぎるという課題の解決を図り、電極-電解質界面で起こるイオンの移動をナノレベルで制御する技術開発に成功しました。この手法は、水溶液系の亜鉛空気電池において、電解液に溶けすぎる亜鉛種の溶解抑制にも活かされており、従来にない高利用率・長寿命化を達成しています。
また、フッ化物系の場合には、イオン伝導性が高い固体電解質を用いた全固体電池※5のモデル薄膜セルを用いて、電極―電解質界面をナノレベルで制御することにより、従来不活性とされてきた材料の活性化に成功し、高い充放電容量が得られることを明らかにしました(図5)。


図1 リチウムイオン電池(インサーション型)の概念図

図2 革新型蓄電池(リザーバ型)の概念図

図3 金属フッ化物電極(FeF3)のサイクル特性に与えるアニオンレセプターの効果検証

図4 硫黄電極(左)と非晶質金属硫化物電極(右)の充放電挙動

図5 フッ化物全固体型薄膜セルの模式図とサイクル特性

3.今後の予定

今回の研究では、従来は使用が困難であると考えられてきた電極系を、溶解度制御といった新しいコンセプトを活かすことにより、LIBを遥かに凌駕するエネルギー密度500Wh/kgを見通す高エネルギー密度の革新型蓄電池の構築が可能であることを示しました。今後、本研究開発成果を活かした電池系が、長期サイクル特性や出力特性・安全性といった車載用蓄電池に求められる諸特性をクリアすることにより、CO2排出量の少ない電気自動車を始めとする次世代自動車の高性能な電源として搭載され、エネルギー・環境問題の解決に貢献することが期待されます。


【用語解説】
※1 共同プロジェクト : 革新型蓄電池先端科学基礎研究(RISING)事業
京都大学及び産業技術総合研究所関西センターを拠点として、13大学・4研究機関・13企業がオールジャパン体制で集結し、現状比5倍のエネルギー密度を有する革新型蓄電池の実現を目指して研究を推進している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)との共同研究事業。RISINGとは、Research and Development Initiative for Scientific Innovation of New Generation Batteriesの略。

※2 アニオンレセプター
溶液中においてマイナス電荷を持つイオン(アニオン、ここでは特にフッ化物イオン)に結びつき、イオンの状態を安定化する物質。

※3 大型放射光施設SPring-8
世界最高性能の放射光を生み出す施設で、兵庫県の播磨科学公園都市にある。理化学研究所が所有し、その運転管理と利用促進は高輝度光科学研究センターが行っている。ほぼ光速で進む電子が磁石などによってその進行方向を変えられると、接線方向に電磁波が発生する。その電磁波を放射光という。SPring-8では、この放射光を用いて、物質科学・地球科学・生命科学・環境科学・産業利用などの幅広い分野の研究開発が加速的に進められている。

※4 高エネルギーX線回折
物質中の原子がある規則に従って配列した場合、電磁波であるX線を入射すると、それぞれの原子からの散乱波が互いに干渉しあい、特定の方向にだけ強い回折波(回折X線)が進行する。この現象をX線回折と呼び、本手法を用いることにより物質内の原子の配列を調べることができる。SPring-8では物質に対する透過力の強い高エネルギーX線を発生することができることから、特に高エネルギーX線回折と呼ぶ。

※5 全固体電池
電解質が固体であり、液体を含まない二次電池。電解質を固体にすることにより、セパレータが不要であること、電解液と正極・負極との反応や電解液自体の熱分解を抑制し安全性を高めることができるほか、一つのケース中に複数の単電池を接続できるために電圧の高いモジュール電池の実現につながることが期待されている。

4.問い合わせ先

(本ニュースリリースの内容についての問い合わせ先)
NEDO スマートコミュニティ部 TEL : 044-520-5264
国立大学法人京都大学 産官学連携本部
TEL : 0774-38-4975 FAX : 0774-38-4993

(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報部 TEL : 044-520-5151 E-mail : nedo_press@ml.nedo.go.jp








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