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低電圧で駆動する高分子アクチュエーターの開発に成功【NEDO/豊田合成/アドバンスト・ソフトマテリアルズ】
2011年10月18日
-新規高分子材料で軽量化・高エネルギー効率を実現-
NEDOの「ナノテク・先端部材実用化研究開発」の一環として、新規高分子材料のスライドリング・マテリアル(SRM)(*1)樹脂を用いたアクチュエーター(*2)の開発に取り組んでいる、豊田合成㈱とアドバンスト・ソフトマテリアルズ㈱(ASM)は、低電圧で駆動する誘電アクチュエーターを開発、この誘電アクチュエーターを組み込んだ義手(プロトタイプ)の駆動に成功しました。
開発した誘電アクチュエーターは、SRM樹脂をフィルム状に形成し、直径12mm、長さ60mmのロール状に巻き取った円筒形で、電圧を印加することで駆動します。ASMが開発したSRM樹脂と豊田合成の誘電アクチュエーター技術を組み合わせることで従来の直動型モーターよりも軽量で静粛性が高く、高エネルギー効率の誘電アクチュエーターを実現しました。
2012年度末までに、材料、構造、製造プロセスの最適化を行い、誘電アクチュエーターの特性が生かせる義手等の福祉・健康機器向け、製造用ロボット向け、サービス分野向けなどの幅広い分野で使われる部材となるよう、出力10N/変位5mmの実現を目指しています。
(*1)2000年に東京大学伊藤耕三教授の発明した、架橋点が自由に動く新規高分子材料。柔軟性や伸縮性に優れ、へたりがほとんどない革新的なエラストマー材料。日米欧中で特許成立済み。
(*2)電気エネルギー等の入力を、機械の動作(たとえば伸縮)等の運動エネルギーに変換する装置のこと。代表的なアクチュエーターとしては電磁モーターや圧電素子がある。
1. 背景
代表的なアクチュエーターとして電磁モーター※1や圧電素子はよく知られていますが、電磁モーターは駆動源の重量に対する出力比が小さく、軽量化に限界があるとともに、磁石に使われる希少金属確保の難しさや有害物質の使用制限などの問題が指摘されています。また圧電素子については変位量が小さいため、小型モーターの代替として利用するには難しい点がありました。これら課題を解決する、まったく新しい原理に基づく高性能アクチュエーターの開発が社会的・産業的に求められています。高分子を用いた誘電アクチュエーターは、従来、軽量・高変位・高エネルギー効率を実現する可能性が最も高いと考えられてきましたが、駆動電圧の高さがこれまで実用化を妨げてきました。
本プロジェクトでは、低電圧で動作する直動型誘電アクチュエーターの実現を目指して、材料開発からアクチュエータ構造の構築、この技術を応用した製品の開発までを実施しています。
2. 今回の成果
豊田合成㈱、ASMは低電圧駆動が可能な誘電アクチュエーターの開発及びこの誘電アクチュエーターを用いたプロトタイプの義手の駆動に成功しました。東京大学で発明されASMで開発されたSRM樹脂と豊田合成固有の誘電アクチュエーター技術を組み合わせることによって、軽量・静粛・高エネルギー効率で直動型の高分子誘電アクチュエーターを実現したもので、駆動電圧を従来技術に比べて大幅に低減できています。これはSRMが柔らかくヒステリシスロス※2のきわめて小さいJ字型の応力伸長特性を示し、高い誘電率をもつことから低電圧でも大きく変形するためです。また、横浜市総合リハビリセンターのアドバイスを元に本アクチュエーターを駆動部分に用いた義手を試作しました。その結果、電磁モーター製の筋電義手※3で課題となっている装着時の重量負担を軽減し、使用時に発生する動作音が静粛化して僅かな動作音で滑らかに物をつかむことができるなど、「人にやさしい」装具が実現できることを確認しました。
3. 今後の予定
今後、さらなる低電圧駆動化と出力向上を目指すとともに、義手適用への優位性について検討を続けていきます。義手としての実用化だけでなく、福祉以外の分野での軽量・静粛・高変位・高エネルギー効率アクチュエーターのニーズにも対応していきます。本発表に関連し、第27回日本義肢装具学会(2011年10月22日~23日;東京ファッションタウンビル)において、誘電アクチュエーターを用いた義手のプロトタイプを展示・実演する予定です。
参考 : 用語解説
※1 電磁モーター : 磁場の力により駆動される最も主流な動力源であり、電気自動車、HV 車にも使用されている。
※2 ヒステリシスロス : ゴムに力を急激に加えたり除いたりすると、変形が遅れて起こる現象。ロスが大きいとアクチュエーターのレスポンス性が損なわれる。
※3 筋電義手 : 機能の一部を回復させることを目的に、実用化された義手。筋電位によりコントロールすることが出来る。
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