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高強度短パルスレーザー照射によりセラミックス材料表面の多層多結晶化に成功【浜松ホトニクス】

2015年7月17日

高強度短パルスレーザー照射により
セラミックス材料表面の多層多結晶化に成功
機能性材料開発に期待


光産業創成大学院大学(浜松市西区、学長 加藤義章)、浜松ホトニクス(本社浜松市中区、代表取締役社長晝馬明)らは、セラミック材料のジルコニアに高強度レーザーを照射し、表面から深さ約100マイクロメートル(以下μm、マイクロは100万分の1)の領域に、微細な多結晶粒を多層に形成することに成功しました。本研究成果は、レーザー衝撃圧縮技術を用いたセラミックス系材料の改質技術における新たな発見で、新しい機能性材料の開発につながる可能性があります。
本研究成果は、7月14日(火)付け英国物理学会出版局「Journal of Physics D: Applied Physics(ジャーナル・オブ・フィジックスD:アプライド・フィジックス)」誌電子版に掲載されました。また、9月16日(水)から4日間、関西大学千里山キャンパスで開催される「日本物理学会2015年秋季大会」と、9月20日(日)から6日間、米国ワシントン州シアトルで開催される「The 9th International Conference on Inertial Fusion Sciences and Applications (IFSA 2015)」において、研究成果を発表します。
*レーザー衝撃圧縮技術 : レーザーが持つエネルギーの時間的、空間的集中性を利用して、物質に対して高い圧力を動的に加え、固体から液体や気体に状態を変化(相転移)させる技術。

なお、本研究チームは、光産業創成大学院大学、トヨタ自動車㈱先端材料技術部、浜松ホトニクス㈱大出力レーザー開発部、㈱豊田中央研究所、トヨタテクニカルディベロップメント㈱、公益財団法人レーザー技術総合研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所、ネバダ大学リノ校の8研究機関21名の研究者で構成されています。


<研究成果の概要>
本研究では、ピーク強度1平方センチメートルあたり11.5京ワット(1.15×1017W/cm2)の高強度レーザービームを二つに分割し、厚さ0.5mmの単結晶イットリア安定化ジルコニア(以下s-YSZ)を両側から挟むようにレーザーを1パルス照射しました。
*高強度レーザーの仕様 : エネルギー0.8ジュール、パルス幅110フェムト秒(フェムトは千兆分の1)

その結果、単結晶材料s-YSZ表面のレーザー照射した部分の深さ方向約100μmの領域に、結晶方位と結晶粒の大きさが多層に変化し、数十ナノメートル(ナノは10億分の1、以下nm)から数μmの大きさの多結晶を多層形成しました。セラミックス材料に高密度格子欠陥を形成することが確認されたにより、微細構造制御の可能性を示しました。これは、レーザー衝撃圧縮技術を用いたセラミックス系材料の改質技術における新たな発見です。
セラミックス材料は、あらかじめ材料内部に欠陥(高密度格子欠陥)や微細粒子(準安定高密度構造)を成形することにより、亀裂の伸展を抑制し、靱性と熱特性を高めることで、精密機械加工部品などに用いられています。本研究で形成された結晶の向きがそれぞれ異なる結晶間の空間は、従来方法による高密度格子欠陥(マイクロクラック)と同じ役割を果たし、多結晶化により靱性と熱特性を高める可能性があると考えられます。
本研究成果が実用化されれば、従来のように成形時に事前に処理することなく、成形されたセラミックス部品の任意の必要な部分にレーザー照射するだけで処理が可能になります。これは、セラミックス材料のさらなる産業応用の可能性を示したものといえます。
高強度フェムト秒レーザー衝撃圧縮技術は、高密度格子欠陥や高密度準安定構造を形成する現象が見られることから、今後その機構解析が進むことにより、新しい材料工学の展開につながることが期待されます。
また、本研究では、当研究施設にあるレーザーを最大パワーで照射しているため、今後、さらに高強度短パルスレーザーを開発すれば、さらなる新しい知見が得られる可能性もあります。
さらに、これまでフェムト秒レーザーは非熱加工に有用とされてきましたが、高強度化することで、材料表面で発生するプラズマの熱波による新しいレーザー加工の応用の可能性も出てきました。
*単結晶イットリア安定化ジルコニア : セラミックスの一つで、ジルコニアの酸化物(ZrO2)に酸化イットリウム(Y2O3)を添加し、室温下でのジルコニアの結晶構造を安定化させたもの。

● 解析結果の概要
サンプル(s-YSZ)には、7.6×1012 Pa(パスカル)のレーザー衝撃波が深さ96μmまで伝搬し、4層構造(第1層:表面から深さ12μm、第2層:深さ12μmから28μm、第3層:深さ28μmから96μm、第4層:96μmから130μm)を有していた。それぞれの結晶粒の大きさは、第1層はおおよそ1μmであったのに対し、第2層は数十ナノメートルに分割していた。第3層では数百nmから数十μmの大きさであり、第4層より深い領域は単結晶を維持していた。
このように微細化された多層構造を有した多結晶化は、高強度レーザーによりサンプルに衝撃波が深さ約100μmまで伝搬したことによって起き、さらにレーザー照射された最表面では高密度のプラズマが生成され、そのプラズマの熱波により第1層は再溶融し、第2層の結晶粒よりも大きい多結晶になったと考えられる。また、これらの多層構造を有した結晶粒の生成メカニズムは、レーザー衝撃波と熱波モデルによって説明することが可能となった。



高強度レーザーを照射したs-YSZ断面のEBSDによる結晶方位観察結果

*EBSD解析 : 電子後方散乱回折法。約60~70°傾斜した試料に電子線を照射すると、試料表面から約50nm以下の領域の各結晶面で回折電子線が作られる。この後方散乱電子回折を解析することで結晶性試料の方位解析の情報を得ることができる。


<研究の背景>
固体材料の衝撃圧縮技術は、航空機や自動車などに用いる材料の高強度化といった材料科学・工学の分野において重要な技術です。現在の主な技術としては、部材にあらかじめ高密度格子欠陥(マイクロクラック、ウイスカー、障害物)ができるように成形することや、相転移粒子や架橋粒子のような微細粒子を混ぜて準安定高密度構造を成形する、成形時にセラミックス内に圧縮応力が残るように処理を行う方法などが用いられています。
一方で近年、高強度短パルスレーザーの開発が進み、将来の産業応用を見据え、物質の表面機能化を目的としたレーザー衝撃圧縮法の研究が行われています。高強度フェムト秒レーザーを固体材料に照射すると、アブレーションによって固体からプラズマに状態が変化(相転移)します。この時の急激な体積膨張の反作用によって同材料表面に衝撃波が発生し材料内部に伝わり、その衝撃波の影響を受けた領域では、特徴ある結晶構造や微細構造が現れることが分かっています。また、フェムト秒レーザーを照射した固体材料には、準安定高密度構造や高密度格子欠陥が形成されることが報告されています。
また、セラミックスは、軽量で耐腐食性や耐摩耗性も優れているからことから、機械特性を利用した摺動・軸受け部品、熱特性を利用した各種機械部品からエレクトロニクス素子、医療分野まで多岐に使用されています。しかしながら、セラミックスはもろく、耐久性が低いため、さまざまな研究機関でその機械的特性向上のための研究が進められています。
本研究チームは、浜松ホトニクスのレーザー核融合研究施設で、レーザー核融合発電に用いる高強度フェムト秒レーザーの開発をはじめ、新材料の研究などを進めてきました。
*アブレーション : 固体材料に強いレーザー光を照射した際、局所的に高温となった表面層が蒸発、侵食によって分解する現象
*相転移 : 水(液相)が氷(固相)になったり水蒸気(気相)になったりするように,温度や圧力などによって異なる相をとることをいう。結晶の場合、立方晶から斜方晶に変化することなどを指す。



この件に関するお問い合わせ先
光産業創成大学院大学
〒431-1202 静岡県浜松市西区呉松町1955番1
携帯電話 090-4080-3501
E-mail : k-unno@hq.hpk.co.jp








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