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未来の電動モーターを守る導電性潤滑剤【ボッシュ】
2014年6月11日
ドイツ連邦教育研究省が助成:
未来の電動モーターを守る導電性潤滑剤
基礎研究者と産業界の研究者が新しいグリースの開発を推進
・持続可能なeモビリティに向けて進展
・すでに有効性を示しているイオン液体
・大きな期待が持てる研究成果
未来の車は現在のモデルと比べて高い電圧が必要になります。そして、新しい導電性潤滑剤は、電動モーターとジェネレーターを損耗から守るのに大きく役立ちます。ドイツの基礎研究者と産業界の研究者が共同でこの問題に取り組み、目的を達成するために必要となる新しい物質を開発しました。
シュトゥットガルト – 将来、ベアリング内部で発生する放電によって引き起こされる表面の損傷から、導電性潤滑剤が電動モーターを守ることになります。共同研究プロジェクトによる研究成果により、ドイツの基礎研究者と産業界の研究者のグループが、未来の持続可能なeモビリティの実現に向けた重要な一歩を踏み出しました。このプロジェクトはドイツ連邦教育研究省から助成を受けています。
この新たな取り組みは、現在のモデルより高い電圧を必要とする未来の車に備えるために発足しました。現在、照明やラジオ、エアコンに渡り、車両エレクトリカル システムすべてに十分な電力を供給するためには、12ボルトの電圧が必要です。しかし、機能の増大に伴い、より多くの電力が必要になるため、この数字は今後数年間で48ボルトに上昇すると見込まれています。電気自動車やハイブリッド車が必要とする電圧レベルはさらに高く、400ボルトに達する可能性もあります。
より強い交流電界
ボッシュに勤務し、“SchmiRmaL” (Switchable intelligent tribological systems with minimal friction losses and maximum lifespan)プロジェクトに参加するゲルト・ドルンヘーファーは「ジェネレーターと電動モーターで電圧レベルが高くなるということは、交流電界が強くなることを意味しています」と、説明しています。
これにより、例えばモーターやジェネレーターのボール ベアリングの内部で放電が起こります。こうした放電が発生すると、火花が散って金属表面の極めて小さな部分が溶け、不規則な軌道面となってしまいます。その結果、ボール ベアリングは騒音を生み出し、その後すぐに不具合も生じるようになります。「私たちは、これを確実に回避できる潤滑剤を開発しました」。コンピューターに表示された計測結果を見ながらこう語るドルンヘーファーは、潤滑技術のチーフ エキスパートとして、シュトゥットガルト近郊のゲーリンゲンにあるボッシュの研究部門に勤務しています。
ドアノブから小さな電気ショックを感じたことのある人は、静電気がどのようなものかがよくわかるはずです。指先がドアノブからわずか数ミリの距離に近づくと、電気の火花がその間で飛び散ります。電圧が高ければ高くなるほど、火花が移動する距離は長くなります。そして、指先とドアノブとの間の距離が十分に近くなるまでは、指先とノブの間にある空気が絶縁体の役割を果たしています。
潤滑剤膜が絶縁体として作用
同じように、電流が電動モーターのシャフトとハウジングの間で発生すると、ベアリング内部の潤滑剤コーティングが絶縁体としての役割を果たします。回転速度が上がると、ボール ベアリング内部の潤滑グリースにより、ボールと軌道面が直接接触しないようになります。これは、濡れた路上で起こるハイドロプレーニングに似た現象だと言えますが、路上とは異なり、この現象はベアリングによる摩擦と表面損耗を最小限に抑えることになるため、ボール ベアリングにとっては非常に望ましい作用です。ただ、この現象により、潤滑剤膜が無傷である場合に、ベアリングがコンデンサーのように帯電してしまう可能性があります。また、電圧がかなり高くなると、絶縁している潤滑グリースに影響を与えることもあります。こうしたエネルギーは、ベアリング表面の微細な部分を短時間で溶かすのに十分なほどの大きさとなっています。そして、これがたびたび起こると、最終的にはベアリングに小さな不具合が生じてしまいます。「私たちは、これを確実に防ぎたいと考えています。時間が経つと、より大きなダメージにつながる可能性があるからです」(ドルンヘーファー)。エンジニアたちは、この現象をエレクトリカル ピッチングと呼びます。こうしたプロセスは軌道面に、道路にできた深い穴のような損傷をもたらしてしまいます。そして、これらの放電によるエネルギーは今後、車両エレクトリカル システムの出力密度と電圧が高くなるにつれて増大していく可能性があります。
こうした潜在的な問題をふまえ、SchmiRmalプロジェクトでは、電圧レベルが高くなっても導電性を維持する物質を用いた新しい潤滑剤の開発に戦略の重点が置かれています。これらの潤滑剤は、絶縁体として機能しません。そのため、電圧レベルは上昇せず、損傷を引き起こす静電気の放電も起こりません。
「これを達成するには、いくつかの方法があります」とドルンヘーファーは説明します。「例えば、金属微粒子をグリースに添加して電流を伝えることは可能ですが、これは潤滑グリースが研磨剤にもなることを意味するため、そうした状況にならないよう気をつけなくてはなりません」。これにより適しているのは、イオン液体です。化学的に言うと、イオン液体は、イオンと呼ばれる電荷を帯びた分子で構成されています。「イオン液体には導電性があることが、潤滑剤にこの物質を加えた最大の理由です」(ドルンヘーファー)。
抵抗を1,000万分の1に低減
数えきれないほどのテストを繰り返した結果、科学者たちは電気抵抗の少ないグリースを見つけ出しました。つまり、ボール ベアリングの内部で望ましい形で電子を伝導し、好ましくない電気フラッシュオーバーを防ぐ潤滑剤を生み出したのです。これの元となった原料は、市販の工業潤滑剤でした。「適切なイオン液体を導電性カーボンと組み合わせて使用することにより、電気抵抗を1,000万分の1に抑えることが可能になりました」(ドルンヘーファー)。この数値は、望ましくない放電を防止するのに十分なレベルとなっています。
新しいグリースは色が黒いことを除けば、従来品とほぼ同じです。現在、ドルンヘーファーはグリースのあらゆる特徴を調べることに特に力を注いでいます。長いライフサイクルを確保するために、ボール ベアリングには耐熱性と低温流動性が必要になります。また、新しい添加剤はグリースの防食性能を損なうものであってはならないほか、新しいグリースが人体や環境に害を及ぼすものであってはなりません。現在、ドイツ連邦教育研究省のプロジェクトの一環として、これらすべての点についてさまざまなテストが実施されています。「これまでのところ、結果は非常に有望です」(ドルンヘーファー)。
この成功には、さまざまな専門分野や事業部に所属する研究者たちが貢献しました。「こうしたソリューションを単独で見つけ出すことはできません。私たち全員が互いに貢献し、学び合ってこそ、こうした結果がもたらされるのです」(ドルンヘーファー)。このプロジェクトは2015年4月まで継続される予定です。「新しい潤滑剤がプロジェクト終了後に産業界で利用される可能性は非常に高いでしょう」
数多くの機械コンポーネントの耐用年数を向上
プロジェクトの研究成果によって恩恵を受けるのは、電動モーター向けのアプリケーションだけではありません。新しい潤滑剤は、ローラー ベアリングやプレーン ベアリング、トランスミッションのコンポーネントなど、大きな歪みが生じる機械部品の寿命を伸ばし、信頼性を高めることができます。さらに、モーターのサイズが同等であれば、性能がいっそう向上し、サイズがより小型になっても性能が保たれます。また、潤滑剤はエネルギー消費量の削減と効率の改善にも大きく寄与します。
プロジェクト参画企業/研究機関
Klüber Lubrication SE & Co. KG(ミュンヘン)は世界有数の革新的な特殊潤滑剤メーカーで、IoLiTec-Ionic Liquids Technologies GmbH(ハイルブロン)はイオン液体を開発しています。ローラー ベアリングの開発と生産を手がける自動車機器サプライヤーのSchaeffler Technologies GmbH & Co. KG(ヘルツォーゲナウラッハ)はプロジェクトにおいて、新しいタイプのオイルがベアリングの寿命をどのように伸ばすかを評価する役割を担っています。Inprotec AG(ハイタースハイム)は摩耗から保護するのに非常に効果的なコーティングを開発し、SCHUNK GmbH & Co. KG(ラウフェン/ネッカー)はプロジェクト全体を通じて、バルブの耐久性を向上させる研究に取り組んでいます。また、フラウンホーファー アルゴリズム科学計算研究所 SCAI(St. アウグスティン)はプロジェクト全体を通じて、コンピューター モデルを用いて新しいイオン液体が環境に与える影響に関する予測を行っているほか、フラウンホーファー材料メカニズム研究所 IWM(フライブルク・イム・ブライスガウ)も主にイオン液体の潤滑効果に重点を置いて研究を進めています。そして、ボッシュはこれらの新しい潤滑剤を使って、実環境下での適合性をテストしています。
HP:
Klüber Lubrication München SE & Co. KG:
http://bit.ly/1oDNGBd
IoLiTec-Ionic Liquids Technologies GmbH:
http://bit.ly/SaR2jG
Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG:
http://bit.ly/1wdFc8j
inprotec AG:
http://bit.ly/TPrlqg
SCHUNK GmbH & Co. KG:
http://bit.ly/RvYXHG
フラウンホーファー アルゴリズム科学計算研究所:
http://bit.ly/1inexfL
フラウンホーファー材料メカニズム研究所:
http://bit.ly/RvZqtk
報道用画像:
ボッシュの研究室で材料をテストするゲルト・ドルンヘーファー:1-PE-20195、1-PE-20201、1-PE-20202、1-PE-20203
無傷の/損傷した軌道面の顕微鏡による比較:1-RB-20193
インフォグラフィック:ベアリング内の導電性潤滑剤のダイアグラム:1-RB-20194
このプレスリリースは2014年6月11日に Robert Bosch GmbH より発行されました。
原文をご覧ください。
ボッシュ・グループは、グローバル規模で革新のテクノロジーとサービスを提供するリーディング・カンパニーです。 2013年の従業員数は約281,000人、売上高は461億ユーロを計上しています (注: 会計方針の変更のため、今回公表する2013年のデータと昨年発表した2012年データは、限定的な範囲での比較)。事業は自動車機器テクノロジー、産業機器テクノロジー、消費財、エネルギー・建築関連テクノロジーの4事業セクター体制で運営しています。ボッシュ・グループは、ロバート・ボッシュGmbHとその子会社約360社、世界約50カ国にあるドイツ国外の現地法人で構成されており、販売、サービス代理店のネットワークを加えると、世界の約150カ国で事業展開しています。この開発、製造、販売のグローバル・ネットワークが、ボッシュのさらなる成長の基盤です。
ボッシュは2013年に約45億ユーロもの金額を研究開発に投資しました。さらに全世界では5,000件以上の国際特許の基礎特許(第一国出願)を出願しています(1日あたり平均20件の出願数)。私たちは革新的で有益なソリューションを提供し、そのすべての製品とサービスを通して、人々を魅了し、人々の生活の質を向上させることを目的にしています。この方針に基づき、ボッシュは全世界において人と社会に役立つ革新のテクノロジーを提供し続けていきます。それこそが「Invented for life」です。
ボッシュの起源は、1886年に創業者ロバート・ボッシュ(1861~1942)がシュトゥットガルトに設立した「精密機械と電気技術作業場」に遡ります。ロバート・ボッシュGmbHの独自の株主構造は、ボッシュ・グループの財務上の独立性と企業としての自立性を保証するものです。「株主(利益配当)」と「経営(議決権)」が完全に分離した企業形態によって、ボッシュは長期的な視野に立った経営を行い、将来の成長を確保する重要な先行投資を積極的に行うことができるのです。ロバート・ボッシュGmbHの株式の大半は非営利組織である公益法人「ロバート・ボッシュ財団」(持株比率92%、議決権なし)が保有しています。議決権の大部分は株主の事業機能実行機関である共同経営者会「ロバート・ボッシュ工業信託合資会社」が保有しています。残りの株式と議決権は創業家であるボッシュ家とロバート・ボッシュGmbHが保有しています。
さらに詳しい情報は
www.bosch.com ボッシュ・グローバル・ウェブサイト(英文)
www.bosch-press.com ボッシュ・メディア・サービス(英文)
twitter.com/BoschPresse ツイッター
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