ニュース
ジスプロシウムフリーネオジム磁石の開発 微細組織の制御で熱間加工磁石を高性能化【物質・材料研究機構】
2014年3月26日
独立行政法人物質・材料研究機構(NIMS)元素戦略磁性材料研究拠点宝野和博フェローらのグループは、希少金属のジスプロシウムを一切使用しないで、ジスプロシウムを4%含む焼結磁石と同等の保磁力と同等以上の最大エネルギー積をもつネオジム磁石を実証しました。
概要
1. NIMS(理事長:潮田 資勝)元素戦略磁性材料研究拠点(拠点長:広沢 哲)宝野和博フェローらのグループは、希少金属のジスプロシウムを一切使用しないで、ジスプロシウムを4%含む焼結磁石と同等の保磁力と同等以上の最大エネルギー積をもつネオジム磁石を実証しました。
2. 近年ハイブリッド自動車用モータの用途でネオジム磁石の使用量が急増していますが、使用中に温度が200°C程度まで上がるため、耐熱性に効果のあるジスプロシウムが8%程度使われています。しかし、ジスプロシウムは原料の産地が限られた地域に偏在することや地政学的資源リスクが高いことから希少金属(レアメタル)に分類されており、その使用量の削減が強く求められています。一方で、耐熱性の指標となる保磁力の向上には磁石を構成する結晶粒の微細化が効果があることが知られており、これによりネオジム磁石の耐熱性を高める研究が進められていました。
3. 本研究では、大同特殊鋼㈱から提供された、従来の焼結磁石の20分の1程度の大きさの結晶からなる熱間加工ネオジム磁石に、低融点のNd70Cu30合金を650°Cで溶かして結晶粒の間に浸透させ連続的なネオジム銅(NdCu)合金層を形成しました。これにより、熱間加工磁石の保磁力を1.40 テスラ(T)から1.97 Tまで高めましたが、この方法では磁石の体積膨張を伴うため磁化が希薄化されて、磁力が下がってしまいます。そこでNdCu拡散浸透時の体積膨張を押さえるという工夫で、室温で1.92 Tもの高保磁力を実現すると同時に、残留磁化の減少を最小限に抑え室温で358 kJ/m3の最大エネルギー積を維持しました。この膨張拘束拡散処理された熱間加工磁石は、従来の焼結磁石と比べて保磁力の温度依存性が低く、その結果、ジスプロシウムを一切用いずに、200°Cの最大エネルギー積で190 kJ/m3という、4%ジスプロシウムを含む焼結磁石よりも優れた値を達成しました。今後は、室温で2.5 T、200°Cで0.8 T程度の保磁力を有するネオジム磁石の開発をめざして、さらに研究を進めていきます。
4. 本研究は、独立行政法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」研究領域(研究総括:玉尾 皓平)における研究課題「ネオジム磁石の高保磁力化」の一環として行われたものです。本成果は、金属系材料の速報誌Scripta Materialia誌のオンライン版に掲載されます。
独立行政法人物質・材料研究機構ホームページはこちら