ニュース

変速時の駆動力抜けのない変速システムを開発【NEDO】

2013年12月16日

―従来の電気自動車に比べ10%走行距離向上へ―

NEDOの若手研究グラント(産業技術研究助成事業)の一環として、京都大学は、変速時に駆動力抜けのない変速システムを開発しました。

新開発の変速システムは、減速比を滑らかに変化させることができる非円形歯車を採用しており、変速中でも駆動力を伝えることが可能となります。この変速システムを電気自動車に搭載した場合、通常の走行性能の向上に加え、走行時の電力消費量も軽減でき、従来の変速機非搭載の電気自動車と比較して、10%程度の走行距離延長効果1)が期待できます。

本プロジェクトにおいては、同変速システムを実際に実験用車両に搭載。京都大学では、電気自動車EVUT(Electric Vehicle with Uninterrupted Transmission)として、今後様々な実証実験を行います。



1)  電気自動車に変速機を搭載することで、モータの小型化とモータの効率的な活用が可能になることから、電力消費の抑制が期待出来ます。しかし、通常の変速機では変速作業の間はモータからタイヤに駆動力が伝わらず速度が低下し、変速後に余分な加速が必要となり、電力消費抑制効果が低下します。無段変速機CVTを用いれば変速時の駆動力抜けは発生しないものの、伝達効率の悪さがネックとなり、電力消費の改善効果は限定的です。このように十分なメリットが得られないため、電気自動車では一般に変速機は採用されていません。

1. 背景

地球温暖化防止のため、走行時に二酸化炭素を排出しない電気自動車に期待が寄せられています。しかしながら、電気自動車は1回の充電で可能な走行距離が短く、このことが普及の障害となっています。モータは高効率で運転できる回転速度とトルクの領域が限られています。変速機を用いて理想的な変速を行えば、モータを小型化できるとともに、モータの高効率な領域を有効に利用できるようになるため、乗用車の市街地走行を想定した場合、電力消費を約10%低減することができるとのシミュレーション結果が報告されており、それにより、走行距離を伸ばすことが可能となります。

しかしながら、変速機を用いると速度に応じて変速機内の歯車対を切り替える変速作業が必要となります。変速作業中はモータからタイヤに駆動力が伝わらないため、加速をしたい状況にもかかわらず速度が低下するとともに、体が前後に揺すられることから、運転者や搭乗者に不快感やストレスを与えます。また、加速をしたい状況にもかかわらず速度低下を生じるため、運転者は変速後に余分にアクセルペダルを踏み込む必要があり、このことが電力消費の改善効果を低下させます。無段変速機CVTを用いれば変速時の駆動力抜けは生じませんが、CVTは伝達効率が悪いため、電力消費の改善効果は限定的です。このようなデメリットがあるため、現在の電気自動車には一般に変速機が搭載されていません。すなわち、電気自動車では、変速時に駆動力が抜けず、かつ、効率の良い変速機が要求されます。

一方、変速機の駆動力抜けの問題は、一般的な乗用車・トラック・バスなどの従来型エンジン搭載車でも、加速時の燃費の悪化、加速性能の低下、不快感などを生じるため、課題となっています。

2. 成果の特徴

本プロジェクトでは、駆動力抜けの無い新しい変速システムを開発しました。通常の変速機では歯車対の切り替えを行う際に動力源と駆動輪の間のトルク伝達を一度切断する必要があります。本技術では、そのタイミングにおいて、非円形歯車によって駆動力を伝達します。非円形歯車は減速比を滑らかに変化させることができる形状をしており、切り替えを行う2組の歯車対の中間的な状況を作り出し、変速中でも駆動力を伝えることができます。これにより、変速の際に速度が低下することを防ぎます。スムーズに走行するため、変速後に余分な加速が必要なく、またCVTとは異なり歯車によって駆動力を伝達するため、高効率を実現可能です。


(1) 電気自動車に適した変速システムにより走行距離を伸ばし、電気自動車の普及に貢献

非円形歯車の幾何学的特性の解明、本変速システムの設計法の構築、高速回転条件下での変速法の開発などの車両に搭載するために必要となる技術を開発したことにより、本変速システムを実現しました。

図2は、開発した変速システムと従来型の変速機について、テストベンチにおいて動作を確認した実験結果です。これらは入力軸(モータ側)の回転速度を一定に保ちながら変速した場合です。図2の上の図では非円形歯車を使用した変速システムにより、時刻0.03秒付近から0.13秒付近の間に、スムーズに1速から2速に相当する状態まで変化しています。それに対して、下の図は従来型の変速機を模擬したもので、0.03秒付近から0.13秒付近までの間、入力軸(モータ側)と出力軸(駆動輪側)が連動せず、駆動力が伝わらない状況が発生しています。その結果、摩擦抵抗によって徐々に出力軸の回転速度が低下し、2速に切り替えたときに急激な回転速度変化、すなわち変速ショックが見られます。



図3は、開発した変速システムを用いて、出力軸の回転速度が一定となるように制御した場合(上)、および出力軸の回転加速度が一定となるように制御した場合(下)の実験結果です。このように変速作業中に出力軸の回転状態を意のままに制御することはこれまでの変速機では不可能でした。

開発した変速システムを搭載した、市販の1人乗り小型電気自動車(ENAX-S3)をベースにした試作車(図1)によって行った変速実験の結果が図4です。横軸は時間、縦軸は計測された速度であり、灰色で示した従来型変速機を模擬した実験の際には変速中に速度低下しているのに対し、開発した変速システムにおいてはそのような速度低下がなく、意図したとおりの効果が得られることを確認しました。このような変速システムによれば、電気自動車に変速機を搭載するメリットである電力消費低減効果をより向上させることが可能となります。また、変速の際に速度低下がなく、スムーズで快適な走行が可能です。このことは電気自動車の普及につながり、二酸化炭素排出量の低減に貢献します。

また、一般に電気自動車に変速機を用いることで出力可能なトルクや速度を大きくできるため、加速性能を高める効果が得られますが、変速中に駆動力抜けのない本変速システムではより高い加速性能が得られます。さらに、より小型のモータでも高い加速性能を実現することが可能となり、モータの小型化、軽量化につながります。



(2) エンジン搭載車用の多段変速システムの実現

電気自動車は2段の変速で十分と考えられますが、乗用車・トラック・バスなどのエンジンを搭載した自動車では、通常、多段の変速機が使用されます。本研究では多段変速用の非円形歯車を提案し、それを用いた4段変速システムを構築し、変速中に駆動力抜けがない多段変速を実現しました。これによりエンジン搭載車についても、加速時の燃費の向上とともに加速性能の向上が可能となります。また、変速時の速度低下による運転者、搭乗者の不快感の解消につながります。


(3) 出力軸の回転を正確に制御することが可能

従 来の変速機は、変速の際に入力軸から出力軸に回転が伝達されないため、変速の際に出力軸の回転を正確に制御することは困難でした。本変速システムでは図3 に示したように、変速の際にも非円形歯車が回転を正確に伝えるため、出力軸の回転を正確に制御することが可能となります。本研究では、変速中でも狙い通り に出力軸回転速度を制御する理論を構築し、実験により、本変速システムが速度一定での変速、加速度一定での変速などを実現可能であることを確認しました。 スムーズな変速により、精密位置決めなどが要求されるロボットなどの分野でも利用が期待できます。

3. 今後の展開(予定)

今後は、実用化に向けた研究を進めていく予定です。すでに、市販の自動車用変速機で使用されている歯車やクラッチを用いた本変速システムを構築し、変速実験に成功しています。


関連する論文 : Jungchul KANG, Masaharu KOMORI, Shuai ZHANG and Koki SUGIYAMA, Control Method for Output Speed during Velocity Ratio Change under High Rotational Speed Using an Uninterrupted Transmission System, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, No.7 Vol.6, 1281-1297, 2012.
姜晶哲・小森雅晴・竹岡郁・小野寺祐治,常時動力運動伝達可能な多段変速システム,日本機械学会論文集(C編),77巻782号,2011年,pp.3871-3880.

実験風景の動画





独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ホームページはこちら

キーワードをクリックして関連ニュースを検索

#新エネルギー・産業技術総合開発機構
#トランスミッション
#2013年12月16日