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世界で初めてロケットエンジン全体の高精度流体解析の実施に成功【JAXA】

2011年6月29日

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、次期ロケットエンジンに向けた「LE-Xエンジン技術実証」において、世界で初めてロケットエンジン全体の高精度流体解析の実施に成功いたしました。
新規ロケットエンジン開発においてはエンジン性能の高精度の予測と信頼性確保が最重要課題の一つであり、これらの開発技術を獲得するためにLE-Xエンジン技術実証を進めています。本解析はその一環としてLE-Xエンジン(図1)の数値流体解析(※1)によりエンジン全体の高精度コンピュータシミュレーションを実施し、数年後に予定されているエンジン試験に先立ってエンジン性能確認を実施致しました。

※1 数値流体解析:流体の方程式をコンピュータ上で計算することで詳細な流れの様子をシミュレーションする手法

ロケットエンジンでは高性能を発揮するために推進剤に極低温の液体酸素(-183℃)と液体水素(-253℃)を用います。これらはポンプで昇圧した後、液体酸素については図1の青い配管に従い燃焼器に流入し、液体水素については赤い配管に従って、そのほとんどは燃焼器に流入して推力となりますが、一部は燃焼器周りを冷却してからポンプを駆動するガスとして使用されます。エンジン内部では、水素は液体、超臨界状態(※2)、気体の3つの異なる状態で存在することから、既存の解析技術でエンジン全体の解析を実施することは極めて困難です。このため、従来は個々の部品単位での解析を実施することで性能評価を実施していました。しかし、JAXA情報・計算工学センターでは統合解析に必要な解析技術について研究開発を進め、これらの技術を統合することで、今回、エンジン全体の作動状況をJAXAスーパーコンピュータ「JSS」(※3)上で再現することに世界で初めて成功しました。

※2 超臨界状態:液体と気体の区別がつかなくなる状態。温度、圧力が極めて高い場合に超臨界状態となる
※3 約3000台のコンピュータが並列に動作する大規模計算機(https://www.jss.jaxa.jp/

図2にはエンジン全体の温度分布を示しますが、エンジン周囲の冷却通路で温度が上昇し、適切に冷却が出来ていることがわかります。また、図3には万一ポンプ部品が破断した際の危険領域分布を示します。このように、エンジンにトラブルが発生した場合の危険領域の予測を効果的に評価することも可能です。

このように、今回開発した解析技術は、信頼性の向上にも大きく貢献するとともに、燃焼試験で実証するには極めて危険なトラブル発生時の挙動予測評価などにも適用可能であり、今後のロケットエンジンの研究開発において燃焼試験に代わるもう一つの試験方法として期待されます。

本件の詳細は、以下の欧州、米国を代表する航空宇宙学会で発表する予定です。

4th European Conference for Aerospace Sciences
http://eucass.ru/cs/index.php/eu/2011

47th AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference & Exhibit
http://www.aiaa.org/


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