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NEC、カーボンナノチューブを活用した高感度非冷却型赤外線イメージセンサを世界で初めて開発

2023年4月10日

  

NEC、カーボンナノチューブを活用した
高感度非冷却型赤外線イメージセンサを世界で初めて開発

~従来型の非冷却型赤外線イメージセンサに比べて、3倍以上の高感度化を実現~

  

NECは、独自開発した抽出技術による高純度半導体型のカーボンナノチューブ(CNT、注1)を赤外線の検出部に適用した、高感度非冷却型赤外線イメージセンサの開発に世界で初めて成功しました。NECは、2025年に本イメージセンサの実用化を目指して取り組んでいきます。



図1. 高感度赤外線イメージセンサの画像イメージ.

  

赤外線イメージセンサは、赤外線を電気信号に変換して必要な情報を取得する技術で、暗闇の中でも人や物体から放射される赤外線を検知することができます。そのため、夜間における自動車の運転をサポートするナイトビジョン(注2)や、航空機の航行支援システムや防犯カメラなど、安全・安心な社会インフラの実現のため様々な領域で利活用されています。

赤外線イメージセンサには、極低温に冷却して動作する「冷却型」と、常温付近で動作する「非冷却型」があります。冷却型は高感度で応答性に優れる一方、冷却器が必要になるため大型、高価で電力消費が大きく、かつ定期的な冷却器のメンテナンスが必要という課題があります。これに対して非冷却型は、冷却器が不要なために、小型、安価、低消費電力ですが、冷却型に比べて感度や解像度が劣るという課題がありました。

こうした中、NECは単層CNT(図2左)に含まれる、温度に対して抵抗値が敏感に反応するという特性のある半導体型のCNTに注目し、半導体型CNT膜(図2右)を赤外線検出部に適用した高感度の非冷却型赤外線イメージセンサの開発に初めて成功しました。



図2. 単層CNTの電子顕微鏡写真とイメージ図(左)
高純度半導体CNT膜の原子力間顕微鏡像(注3)(右)

NECは、1991年にCNTを世界で初めて発見し、これまでナノテクノロジーを牽引する研究開発を進めてきました。2018年には、合成直後の金属型と半導体型が混在する単層のCNTから、高純度に半導体型のみを抽出する独自技術を開発(注4)しています。この技術で抽出した半導体型CNTによる薄膜が常温付近において抵抗温度係数(TCR)(注5)が大きくなることを発見しました。
新たに開発した赤外線イメージセンサは、これらの実績・ノウハウにより実現したもので、高感度化のために重要な指標である高TCRを実現した独自技術による半導体型CNTを適用しました。これにより、現在主流となっている酸化バナジウムやアモルファスシリコンを用いた非冷却型赤外線イメージセンサに比べて、3倍以上の高感度化を実現しました。
 また、従来の非冷却型赤外線イメージセンサに採用している熱分離構造(注6)とこの構造を実現するためのMEMS素子化技術(注7)、および、印刷トランジスタ(注8)等で長年培ってきたCNTの印刷製造技術を融合することで、新たなデバイス構造を実現(図3左)し、それらをアレイ化した640×480画素の高精細な非冷却型赤外線イメージセンサの動作に成功しました(図3右)。



図3. デバイス構造(断面:単素子)(左)
CNT赤外線アレイ素子(640×480中の4×3の電子顕微鏡写真)(右).

本成果の一部は、国立研究開発法人産業技術総合研究所との共同研究によるものです。また、本成果の一部は、防衛装備庁が実施する安全保障技術研究推進制度JPJ004596の支援を受けたものです。

NECは、今回開発した赤外線イメージセンサをさらに高度化し、社会の様々な分野・領域で貢献できる製品・サービスの実現に向けて研究開発を進めていきます。

  

以上

(注1)1991年にNECの飯島澄男特別主席研究員によって発見された炭素材料。黒鉛と同じく六角形の炭素ネットワークによってできている円筒状の構造体。1層の円筒状構造を単層CNTと呼び、六角形の並び方の違いで、半導体的性質を示したり、金属的性質を示したりする。生成時には、半導体型と金属型が2:1で含まれる。

(注2)暗視スコープ(ナイトビジョン)は、肉眼で確認が不可能な暗闇を映し出す光学機器。 防災と防犯への関心が高まるなか、安心安全な社会を実現する重要な技術として注目されている。

(注3)走査型プローブ顕微鏡の一種であり、試料の表面と探針の原子間にはたらく力を検出して画像を得る顕微鏡。

(注4)非イオン性分散剤を使い単分散した単層CNTを無担体電気泳動により、99%以上の高純度で半導体型を分離できる製造技術。

(注5)抵抗温度係数(TCR)とは、ある温度間における1Kあたりの抵抗値の変化率。

(注6)赤外線検出部は、抵抗変化を計測するために熱が逃げない構造にする必要がある。そのため、コンタクト電極と赤外線検出部(CNT膜)の間を空洞にし、梁配線で繋げることで、熱分離構造を実現している。

(注7)MEMS(Micro Electro Mechanical Systems):半導体加工技術を活用して立体形状や可動域を形成した微細化素子構造のこと。

(注8)トランジスタの構成要素を印刷製造法により形成したもの。従来の半導体プロセスに比べ、低コストかつ低環境負荷を実現できることが特徴。

  

カーボンナノチューブを使った赤外線センサについて
URL:https://jpn.nec.com/rd//technologies/202216/index.html

  

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