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硬度と靭性のトレードオフを克服した革新的な高炭素鋼 「TOUGHFITTM」を商品化
2023年3月30日
硬度と靭性のトレードオフを克服した革新的な高炭素鋼
「TOUGHFITTM」を商品化
~部品の熱処理変革・高機能化でカーボンニュートラルに貢献~
山陽特殊製鋼株式会社(社長 宮本勝弘、本社 兵庫県姫路市)は、カーボンニュートラル社会に貢献できる高炭素鋼
「TOUGHFITTM」(タフィット)を商品化しました。
「TOUGHFITTM」は、合金成分と熱処理条件の最適化によって高炭素鋼の弱点とされていた“硬い一方で脆くなる”という
トレードオフを克服し、高硬度と高靭性を併せ持つことに成功した革新的な高炭素鋼です。
自動車や建設機械、産業機械の耐摩耗部品や動力伝達部品の素材として「TOUGHFITTM」を適用することで、硬化熱処理
の簡素化や部品の小型軽量化を通じた CO2 排出の削減に寄与します。
当社は今後、「TOUGHFITTM」の多様な分野への展開を図り、カーボンニュートラルを目指す需要家の皆様からのニーズに
お応えしてまいります。
■特性のトレードオフを克服する革新テクノロジー
概ね 0.6%以上の炭素を含む高炭素鋼は、焼入焼戻しといった硬化熱処理
により 700HV 以上の表面硬さを得て優れた耐摩耗性や疲労強度を発揮し、
各種耐摩耗部品やギヤ・シャフトに代表される動力伝達部品に適用されて
います。一方、硬度と靭性はトレードオフの関係にあり、硬度(強度・耐摩
耗性)を高めることによって靭性(耐割れ性、耐衝撃性)が低下し、“硬い一
方で脆くなる”ことが高炭素鋼の大きな弱点となっていました。
当社、コマツ、ならびに国立大学法人 大阪大学(注:現在は本テーマを
国立大学法人 名古屋工業大学が引き継ぎ研究中)で構成する産学連携チー
ムは、高炭素鋼を素材とする高硬度部品が、鋼中の結晶粒界に沿う割れ(粒
界破壊)を生じ易いことに着目し、その解消を目指す研究を進めてきました。
その成果として、高炭素鋼の弱点であった結晶粒界を強化し、さらに結晶
粒内の組織状態を適正化する合金成分と熱処理条件を見出したことによっ
て、硬度と靭性のトレードオフを克服した高炭素鋼「TOUGHFITTM」の商品化
に至りました。同鋼は焼入焼戻しによる 700HV の高い硬度状態において、
従来の同等硬さの鋼材に比べて約 10 倍以上の靭性値を示します。(図 1)
■建設機械用耐摩耗部品への適用による市場実績
本鋼開発に関わる産学連携の共同研究者であるコマツ殿は、様々な試
験・検証を経て、高い耐摩耗性と靭性が要求されるトンネル掘削機のカッ
タリング用材料(図 2)として「TOUGHFITTM」を実用化しました。以降、
「TOUGHFITTM」はその優れた性能を発揮し、良好な使用実績が積み重ねられ
ています。
■カーボンニュートラルへの貢献に向けた今後の期待
・部品の熱処理変革:浸炭レス化による CO2 排出削減
自動車や建設機械、産業機械に使用される軸受・ギヤ・シャフトをはじ
めとする動力伝達部品では、突発的な衝撃に対する耐衝撃性を確保しつつ、
部品寿命を左右する耐摩耗性や疲労寿命を向上させるために、部品の表面
のみを高硬度状態とするガス浸炭を伴う焼入れ熱処理が多用されます。し
かしながら、ガス浸炭熱処理は浸炭ガスと部品表面との平衡反応によって
炭素を侵入させる際に多量の CO2 が排出されるため、カーボンニュートラ
ルの観点から、その排出を抑えた代替硬化熱処理の適用が望まれています。
「TOUGHFITTM」は、浸炭処理を伴わない焼入れ熱処理(ずぶ焼入れ)により、
靭性を損なうことなく硬度を高められるため、その適用によって部品製造
工程における CO2 排出の削減に寄与します。
・部品の高機能化:小型・軽量化による CO2 排出削減
高硬度と高靭性を兼ね備えた「TOUGHFITTM」を適用することで、各種動力伝達部品の疲労寿命向上に繋がることから、
部品の小型・軽量化設計による燃費向上を通じた CO2 排出削減でカーボンニュートラルの実現に貢献します。
当社は、カーボンニュートラルの着実な実現が強く望まれる社会的ニーズにお応えする有力なソリューションとして、 「TOUGHFITTM」の展開を進めて参ります。
以上
≪お問い合わせ先≫ 山陽特殊製鋼株式会社 総務部広報グループ (TEL:079-235-6002)
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