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世界初 3,000V耐圧 窒化ガリウム縦型ダイオードの試作に成功【日立電線】
2012年9月3日
日立電線㈱(以下、「当社」)は、このたび、法政大学マイクロナノテクノロジー研究センター中村徹研究室(以下、「法政大学」)と㈱日立製作所中央研究所(以下、「日立製作所」)との共同研究により、世界で初めて*1 3,000V以上の高い逆方向耐圧かつ1mΩcm2程度の低い順方向のオン抵抗を持った窒化ガリウム(以下、「GaN」)の縦型ダイオードの試作に成功しましたので、お知らせします。
近年、省エネルギー化を実現する方法の一つとして、パワーデバイスへの関心が高まっております。パワーデバイスは、電力の変換機能や制御機能を持ったダイオードやトランジスタなどの半導体素子で、家電などの民生機器をはじめ、自動車や鉄道車両、発電所など幅広い分野で使用されています。これまでは主にシリコン(以下、「Si」)を使用したパワーデバイスが一般的でしたが、さらなる省エネルギー化の実現に向け、Siの性能限界を超える新材料を使用したパワーデバイスの開発が活発化しております。
こうした中、このたび当社は、法政大学と日立製作所との共同研究により、世界で初めて3,000V以上の高い逆方向耐圧かつ1mΩcm2程度の低い順方向のオン抵抗を持ったGaNの縦型ダイオードの試作に成功しました。
今回試作したダイオードは、当社製の自立GaN基板上にMOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法でGaNのエピタキシャル層を積んだ電極径400~800µm(マイクロメートル)のGaN縦型p-nダイオードです。
試作したダイオードに用いた自立GaN基板は、当社独自に開発したVAS(Void-Assisted Separation)法により転位欠陥密度106cm-2と安定した低欠陥密度を実現しております。また、自立GaN基板に含まれる転位欠陥は、刃状転位と混合転位しか観測されないこと、さらに、転位欠陥が集中するコアと呼ばれる部位を基板全面で含まないことも確認されております。今回、試作したダイオードの耐圧試験により3,000V以上の高い逆方向耐圧が確認されたことから、当社の自立GaN基板内の転位欠陥は、デバイスに著しい特性劣化をもたらすキラー欠陥ではないことが示されました。加えて、この試験結果から当社の自立GaN基板上に成長したエピタキシャル層は、GaNの理想値(3.3~3.8MV/cm)に近い絶縁破壊電界強度を持つことを示しております。
また、このダイオードの順方向におけるオン抵抗は、1mΩcm2程度とダイオードを構成する各層の抵抗成分の合計よりも小さく、電流注入時に抵抗を下げる導電率変調が起きていることが示されました。導電率変調は材料による性能限界を超えてデバイスの特性を高めることができる優れた効果ですが、Siパワーデバイスでは積極的に用いられているものの、キャリア*2 の寿命が短い化合物半導体ではほとんど観測されていませんでした。このダイオードにおいては、p-n接合部で発生した光が再びダイオード内で吸収され、それによってキャリアを増加する導電率変調が起きていることが日立製作所の理論解析で提唱され、今回、ダイオードの発光特性を法政大学において直接評価することで実験的に示唆されました。
これらの結果から、VAS法による自立GaN基板上には、Siや炭化ケイ素(SiC)などの従来材料を大きく超える性能指数を有するパワーデバイスを実現し得ることが示されました。これにより、今後、さらなる高効率なパワーデバイスによる機器や施設の省エネルギー化が期待されます。
今後、当社では、光デバイス用途の自立GaN基板の販売に続き、パワーデバイス用途においても自立GaN基板、およびMOVPE法で成長したGaNのエピタキシャルウェハの拡販に注力することで、化合物半導体事業の拡大を図ってまいります。
なお、これらの研究成果は、9月11日(火)から9月14日(金)まで愛媛大学城北地区、松山大学文教キャンパスにて開催されます「2012年秋季 第73回 応用物理学会学術講演会」において、法政大学より報告(講演番号:12p-F2-15および12p-F2-16)を予定しております。
パワーデバイス用GaN基板の外観
今回試作したダイオードの断面構造イメージ図
*1 自立GaN基板上にGaNのエピタキシャル結晶を成長させたパワーデバイスにおいて、3,000V以上の逆方向耐圧と1mΩcm2程度の順方向のオン抵抗の両立は世界初。2012年7月4日時点。当社調べ。
*2 キャリアとは、電荷を運ぶ粒子のことで、p-nダイオードの場合は電子と正孔が電荷を運んでいる。
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