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QCLの合波技術で波長8.6μm、出力2Wを実現 樹脂材料の微細加工を可能にする高出力QCLモジュールを開発【浜松ホトニクス】
2021年2月25日
QCLの合波技術で波長8.6μm、出力2Wを実現
樹脂材料の微細加工を可能にする高出力QCLモジュールを開発
当社は、新たな放熱設計技術により開発した量子カスケードレーザ(以下QCL : Quantum Cascade Laser ※1)と独自の合波技術により、波長8.6マイクロメートル(以下μm、μは100万分の1)、平均出力2Wの高出力QCLモジュールを開発しました。二つのQCLからの中赤外光を効率よく重ね合わせ出力を高めることで、フッ素系樹脂のポリテトラフルオロエチレン(以下PTFE)など 、高周波デバイス用基板や輸送機器向け樹脂材料の微細加工が可能になります。また、医療やヘルスケアなどの分野への応用も期待されます。
本開発品は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」プロジェクトにより開発しました。また、本開発品は6月30日(水)から7月2日(金)までの3日間、パシフィコ横浜(横浜市西区)で開催される国内最大級の光技術展示会「OPIE’21」のNEDOブース内に出展する予定です。
※1QCL:発光層に量子構造を用いることで、中赤外から遠赤外の波長領域において高い出力を
得ることができる半導体レーザ光源
◇波長8.6μm、平均出力2Wの高出力QCLモジュール
・独自の合波技術により、二つのQCLからの中赤外光を効率よく重ね合わせた高出力
QCLモジュールの開発に成功
・出力を従来製品の約100倍となる2Wまで向上
◇搭載するQCLの波長を8.6μm、6.1μm、4.6μmから選択可能
◇実用を見据えたファイバアウトユニットを同時に開発
・QCLモジュールからの中赤外光を加工部まで導光
◇中赤外光を吸収しやすい樹脂材料の微細加工が可能に
<開発の背景>
現在、通信機器の高速、大容量化に伴い、高周波デバイス用基板において信号が劣化しづらいPTFEなどの樹脂材料の利用が進んでいます。また、輸送機器の軽量化に向け車体や部品の樹脂化が進められており、PTFEをはじめとする樹脂材料を精密に加工できるレーザ加工技術の実用化への期待が高まっています。このような中、樹脂材料の加工に適した中赤外光を出力する加工用レーザは波長10.6μmの炭酸ガスレーザに限られており、吸収しやすい波長が異なる樹脂材料の微細加工に対応するため、従来とは異なる波長の中赤外光を出力する加工用レーザが求められています。
当社は、ガス分析などの環境計測分野に向け、波長4μmから10μmの中赤外光を数十mWで出力するQCLを開発、製造、販売していますが、加工用途ではより高い出力が必要となります。QCLは、発光層を積層した構造となっており、その段数を増やすことで出力を高めることができますが、一方で駆動電圧が高くなり発熱量が増加します。このため、出力効率が低下し素子寿命も短くなることから、QCLの高出力化には課題がありました。
<開発品の概要>
本開発品は、波長8.6μm、平均出力2Wと、中赤外光を吸収しやすいPTFEなどの樹脂材料の微細加工に適した高出力QCLモジュールです。
当社は今回、熱伝導率が高い金の厚膜をQCLの表面に形成し高精度に研磨するとともに、独自の組み立て技術によりヒートシンクと密着させることでQCLの放熱性を高めました。これにより、発光層の段数を従来の3倍まで増加させながらも熱の影響を抑え、QCLの出力を1W以上としました。また、独自の光学設計技術による光学部品を用いるとともに独自の合波技術により、二つのQCLが出力する偏光(※2)の角度が異なる中赤外光を効率よく重ね合わせることで、波長8.6μm、平均出力2Wの高出力QCLモジュールの開発に成功しました。本開発品は、二つのQCLを載せ替えることで、加工対象の樹脂材料に応じて波長6.1μm、4.6μmの中赤外光も出力することができます。さらに、同時に開発したファイバアウトユニットを併用することで、QCLモジュールからの中赤外光を加工部に照射しやすくなり、使い勝手を高めることができます。
※2 偏光:進む方向に対し波の振動する方向が規則的に揃っている光
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本開発品の仕組み
本開発品により、高周波デバイス用基板や輸送機器向けの材料として利用が進められており難加工材料として知られる、PTFEをはじめとする樹脂材料の微細加工が可能になります。また、照射する生体分子が吸収しやすい特定の波長の中赤外光を利用することで照射部周辺の熱損傷を抑えることができるため、医療やヘルスケアなどの分野への応用も期待されます。
今後、大学や公的研究機関、加工関連企業などと連携し実証実験を重ね、本開発品の高性能化と製品化を進めるとともに、当社のレーザ事業の基盤の一つである加工用レーザの要素技術を拡充していきます。
<プロジェクトについて>
将来のものづくり現場において、人工知能の活用などにより生産効率の向上が進むと考えられます。このような中、デジタル制御がしやすいレーザ加工の重要性が増していますが、切断や溶接、接合などのレーザ加工技術は、加工精度や消費電力などに課題があります。紫外や可視、赤外光によるレーザ加工技術の利用は進んでいますが、中赤外光の応用は限られているため、本プロジェクトでは、加工原理の解明などを進めることで中赤外光による高精度、高効率の加工技術を確立することを目指しています。
新開発のQCL(左)とファイバアウトユニット(右)の外観
●主な仕様
報道関係者には、写真をデータで提供しますので、広報室 までお申し付けください。
浜松ホトニクス株式会社 レーザ事業推進部製造部 秋草直大
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