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夜間や悪天候でも車両と人を分離し検出できるミリ波レーダー技術を開発【パナソニック】
2012年4月27日
次世代の交通安全システム実現のカギとなる歩行者検出を実現
夜間や悪天候でも車両と人を分離し検出できるミリ波レーダー技術を開発
要旨
パナソニック㈱は、数十メートルの範囲にある人や車などの複数の物体を高精度に検出するミリ波レーダー技術を開発しました。屋外での使用に対応し、夜間、降雪や逆光といった環境でも物体を検出することが可能です。この技術を交差点の監視センサーに応用することにより、車の陰に隠れた人や自転車の検出を可能とし、次世代の交通安全システムの実現を加速します。
効果
交差点における死亡事故は全体の約半数を占めており、車対車だけでなく、車と歩行者や自転車の衝突を防止する方策が求められています。本技術を交通監視センサーに適用することで、夜間や悪天候時であっても運転者が視認困難な位置にある歩行者や自転車を分離して検出することができます。これにより、歩行者横断の見落としや自転車の巻き込み事故への注意を喚起することで、交通事故の減少や運転者の判断負荷の軽減が期待されます。
特長
本開発のレーダー技術は以下の特長を有しています。
1.主要交差点をカバーする40m範囲の監視に対応し、従来困難であった、車のようなレーダー反射の強い物体と、人のようなレーダー反射が微弱な物体の同時検出を実現。
2.複数の車両や歩行者を分離して検出することを可能とする、50cm以下の距離分解能と5°の角度分解能の高精度な検出性能を実現。
3.可視光あるいは赤外線カメラや、レーザー光では検出確度が大幅に劣化する悪天候下(雨、雪、霧)や夜間といった環境下においても安定した検出が可能。
内容
本技術開発は以下の新規要素技術により実現しました。
(1) パルスレーダー方式[1]に独自の符号変調を施すことで感度性能を高め、検出距離の拡大と反射率の小さい物体の検出を可能とした符号化パルス変調技術
(2) 送信ビームフォーミング[2]と受信アダプティブアレイアンテナ[3]による到来角推定法を連動した構成で、小型アンテナによる高角度分解能を実現した送受信アダプティブアンテナ技術
従来例
ミリ波レーダーとして、前方の車との測距を行う車載レーダーの実用例がありますが、反射の微弱な人を高分解能で検出することはできませんでした。また通常交差点に設置されるカメラによる検出では、肉眼情報と同じであり夜間等の環境下での検出に限界がありました。
備考
● 本研究開発は、総務省平成23年度(2011年度)「79GHz帯レーダーシステムの高度化に関する研究開発」の成果の一環です。
● 本成果は、79GHz帯レーダーとして実験局免許を取得し、2012年5月7日から9日に横浜にて開催されるVehicular Technology Conference 2012 (主催IEEE) にて展示を行います。
特許
国内 18件、海外 6件(出願中含む)
お問い合わせ先
コーポレートR&D戦略室 広報担当
E-mail : crdpress@ml.jp.panasonic.com
内容の詳細説明
(1) 符号化パルス変調技術 :
パルスレーダー方式では、自己相関特性[4]の良いディジタル符号列を用いてパルスを変調することで、パルス幅より小さい時間差で到来時間を区別でき、距離分解能を向上することができます。今回、このパルス変調に従来の相補符号[5]を拡張した独自の符号化技術を適用した新たな変調方式を開発しました。これにより、レーダー受信処理において、対象物からの反射パルスの検出信号と雑音成分のレベル比を40dB以上確保し、反射率が車両比で1万分の1と微弱である人体の検出が可能となります。また、車両の近傍に人がいる場合、従来は人からの反射波が車両からの強い反射波に埋もれて検出が困難でしたが、この高感度化によって車両と人を同時に検出できるようになりました。
(2) 送受信アダプティブアンテナ技術 :
広範囲にある対象物の位置を特定するには、センサー位置からの距離に加えて方位の検出が必要となります。従来、レーダーのビームを水平方向に走査し、反射波を検出した時の走査角によって方位を求める方法がありますが、高い角度分解能を得るには細いビームを形成する必要があり、アンテナが大型となるという課題がありました。今回、送信時のビーム形成によって検出範囲を限定し範囲外からの反射波到来を防止する制御と、アレイアンテナからの複数の受信信号にディジタル演算処理を施して到来角を推定する処理を連動させた方式を開発し、送信ビーム角の約半分となる5度の角度分解能をもった検出を実現しました。これにより、小型アンテナの電子走査によって、広い視野角範囲において車両と比較して小さい物体である歩行者や二輪車を分離して検出できるようになりました。
用語の説明
[1] パルスレーダー方式
対象物にパルス波を放射し、反射して戻ってくるまでの時間を計測することで測距を行う方式。電波は光速で進むため、計測したパルスの片道時間と光速の乗算によって距離が算出される。
[2] 送信ビームフォーミング
レーダー波の電波を特定の方向のみに集中させて放射するようにして、送信電波の届く距離を延ばすようにしたもの。同じ位相だと強め合い,逆の位相だと打ち消し合う電波の性質を利用して、複数のアンテナから放射する電波の位相と送信電力を調整することで実現される。
[3] 受信アダプティブアレイアンテナ
複数のアンテナによって受信した信号の位相と振幅を調整する重み付け処理によって、電波受信の指向性を制御するもの。対象物からの反射波の方向に指向性が最大となるように制御することによって、不要な方向からの干渉波による妨害を抑圧する効果が得られる。
[4] 自己相関特性
2つの信号がどれだけ類似しているかを示す特性。レーダーでは、受信信号に対して送信パルス信号との自己相関特性を評価することで、対象物から反射したパルス信号の到来時間を計測する。
[5] 相補符号
無線LANなどでも利用されている自己相関特性に優れたディジタル符号の一種で、2つの符号列を並べて比較した場合に一致するものとしないものが同数となる性質をもつ。
プレスリリースの内容は発表時のものです。
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