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ポルシェのレーシングカーにおけるハイブリッドテクノロジーの仕組み【ポルシェ ジャパン】
2016年7月22日
FIA世界耐久選手権(WEC)LMP1のテクノロジー
ドイツ. ポルシェAG(本社:ドイツ、シュトゥットガルト 社長:Dr.オリバー・ブルーメ)のル・マン・プロトタイプ・クラス1(LMP1)用のポルシェ919ハイブリッドは、来る7月23日に、2016年のドイツにおける唯一の出場機会であるFIA世界耐久選手権第4戦「ニュルブルクリンク6時間レース」に参戦します。シリーズをリードするこのマシンは、タイトル防衛のためにポイント獲得を目指して戦うと同時に、もうひとつの使命も担っています。それは、将来のスポーツカーのための技術開発です。
ポルシェは、919ハイブリッドにより、レーシングスピードでの新たなテクノロジー分野を開発しました。2015年に公開された公道走行可能な完全電動スポーツカー「ミッションE」のために、設計者達はプロトタイプレーサーから800Vテクノロジーを採用しました。ポルシェは、2度のル・マン優勝を果たしたマシンの設計において、とりわけドライブ・コンセプトに関してあらゆる可能性を徹底的に追及しました。その中には、ポルシェが今までに作り上げた最も効率的なエンジンである2リッターV型4気筒ガソリンターボエンジン、そして2種類の異なるエネルギー回生システムがあります。
制動時、フロントアクスルのジェネレーターが車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換します。分岐したエグゾーストシステムの中では、1つのタービンがターボチャージャーを駆動する一方で、もう1つのタービンが余剰エネルギーを電気エネルギーに変換します。全回生量のうち、制動エネルギーが60%を占め、残り40%は排気ガスから得られます。回生された電気エネルギーはリチウムイオンバッテリーに一時的に蓄えられ、要求に応じて電気モーターへ供給されます。「要求に応じて」とは、ドライバーが加速したい時にボタンを押すだけでエネルギーを呼び出せることを意味します。最新のレギュレーション変更に従って、エンジンの最高出力が500PS(368kW)を下回っているのに対し、電気モーターの出力は400PS(294kw)を軽く上回ります。
これら2種類のエネルギー源の使用と相互作用には、高度な制御が必要です。制動時には毎回エネルギーを獲得、すなわち回生されます。ニュルブルクリンクの全長5.148kmのグランプリサーキットでは、これがあらゆるコーナーの手前で毎周17回発生します。回生されるエネルギーの量は、制動の激しさによって、言い換えると、ドライバーがコーナーに達した時の速度とコーナーがどれだけタイトかによって変わります。制動と回生は全てのコーナーのエイペックスまで続き、ドライバーはそこから再び加速します。この瞬間における目標は、できるだけ多くのエネルギーを利用することです。それゆえドライバーは、スロットルペダルを踏み込んで燃料エネルギーを使うと共に、バッテリーから電気エネルギーの「ブースト」も行います。
エンジンがリアアクスルを駆動するのに対し、電気モーターはフロントアクスルを受け持ちます。919は、4WDシステムを用いてトラクションを失うことなくコーナーから勢いよく飛び出します。さらにストレートでは、排気ダクトの中のもう1つのタービンがフル稼働するので、再びエネルギーを回生します。エンジン回転数が安定して高い場合、エグゾーストシステム内の圧力が素早く上昇し、ジェネレーターに直結された2つ目のタービンを回します。しかし、両方のエネルギー源はレギュレーションによって制限されており、ドライバーは1周あたり1.8リッターの燃料と1.3kWh(4.68メガジュール)の電力しか使用することが許されません。ドライバーは、1周が終わる時点でこの量を正確に、過不足なく使い切るように慎重に計算しなくてはなりません。超過すればペナルティーが科せられ、少なければパフォーマンスが低下します。ドライバーは、正確なタイミングで「ブースト」を停止し、スロットルから足を離さなくてはならないのです。
ル・マンでは、1周13.629kmの全長に合わせてレギュレーションが変更され、認められる電気エネルギーの量は2.22kWhです。これは8メガジュールに相当し、レギュレーションで規定された中では最も高いエネルギークラスです。ポルシェは、規制値を拡大することに挑んだ初めてのメーカーであり、2015年の時点では唯一の存在でした。2016年には、トヨタも8メガジュールクラスに参戦しています。アウディは6メガジュールを使用しています。WECのレギュレーションは、これらの差をほぼ完全に均衡させています。
ポルシェ919ハイブリッドのコンセプトの選択にあたっては、個々の選択肢が綿密に検討されました。ポルシェがフロントアクスルの制動エネルギーを利用しようとしたのは当然のことでした。なぜなら、この方式はすでにある程度開発され、さらに大きく進歩して、大量のエネルギーを得ることができるからです。2番目のシステムとして、リアアクスルでの制動エネルギー回生と排気ガスの利用が検討され、排気ガスソリューションを有利に導く2つの点を見出しました。まず何より重量、その次が効率です。制動エネルギー回生では、システムは極めて短時間に大量のエネルギーを回生しなければならず、それに対処するには重量が犠牲になります。これに比べて排気ガス回生では、加速時間は制動時間よりもはるかに長いため、回生時間を長くとることができ、システムの軽量化を図ることができます。加えて、919は既にエンジンの駆動システムをリアアクスルに備えているため、リアの出力が増大しすぎると、非効率なホイールスピンがより多く発生することになり、それによってタイヤの摩耗も激しくなります。
919のハイブリッドシステムに関するポルシェの最も勇気ある決断は、800Vを選択したことに違いありません。電圧レベルを決めることは、電動システムにおける根本的決断であり、バッテリーの設計、エレクトロニクスの設計、エンジンの設計、充電技術など他にも影響を及ぼします。ポルシェは、電圧レベルをできる限り高く設定しました。
この高電圧に対応したコンポーネントを見つけることは極めて困難でした。特に、貯蔵媒体としてフライホイールジェネレーター、スーパーキャパシター、またはバッテリーのいずれが適切な貯蔵媒体なのかを検討した結果、ポルシェは、液冷式リチウムイオンバッテリーを選びました。この中には数百個の独立したセルが備わり、それぞれが高さ7cm、直径1.8cmの円筒形の金属カプセルに封入されています。
市販車とレーシングカーのいずれにおいても、出力密度とエネルギー密度のバランスをとらなくてはなりません。セルの出力密度が高くなるほど、より素早くエネルギーを充放電することができます。もうひとつのパラメーターであるエネルギー密度は、貯蔵可能なエネルギーの量を決定します。レースにおいて、セルは譬えて言えば、巨大な開口部を備えていなくてはなりません。なぜなら、ドライバーがブレーキングした瞬間に大量のエネルギーが一気に流入し、ブースト時にはそれが全く同じ速さで出て行かなくてはならないからです。日常的な例で言うと、もしスマートフォンの空になったリチウムイオンバッテリーが919のバッテリーと同じ出力密度を持っていれば、1秒をはるかに下回る時間で完全に再充電されることでしょう。欠点としては、わずかなおしゃべりで再び空になることです。スマートフォンを数日間使えるようにするには、エネルギー密度、すなわちバッテリー容量が最優先されます。
日常で使用する電気自動車では、バッテリー容量は航続距離と言い換えられます。これに関して、当然ながらレーシングカーの要件と公道走行可能な電気自動車の要件は異なります。しかし、ポルシェは919によって今まで想像できなかったハイブリッドマネージメントの領域に踏み込みました。919は、将来のハイブリッドシステムの電圧レベルを試す実験室の役割を果たしました。LMP1プログラムを通じて重要な基礎知識が発見されました。例えば、エネルギー貯蔵(バッテリー)と電気モーターの冷却や、極めて高い電圧の接続技術、バッテリーマネージメント、システムの設計に関することなどです。この経験から、市販車開発のスタッフは、800Vテクノロジーを採用した4ドアコンセプトカー「ミッションE」のための重要な専門知識を得ました。このコンセプトカーを元にした市販車は、2020年末の終わりまでに登場する予定で、電気だけで走る初めてのポルシェとなるでしょう。
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