最前線コラム

【人とくるまのテクノロジー展2014】TIが高精細なADASサラウンドビュー機能のデモを展示【日本テキサス・インスツルメンツ】

 エレクトロニクス技術の適用が急ピッチに進む自動車。その中で、今後大きな市場の伸びが期待されているのがADAS 分野である。さまざまなADASシステムを実現するには、高精度センサ、高解像度カメラなどに加えて、処理性能が高いプロセッサ(システム・オン・チップ)が不可欠になる。従って、半導体メーカーの果たす役割は極めて大きい。
 そこで日本テキサス・インスツルメンツ(TI)は、2014年5月21日〜23日にパシフィコ横浜で開催された「人とくるまのテクノロジー展2014」において、ADASの1つのアプリケーションである「サラウンドビュー」のデモを展示した(図1)。サラウンドビューとは、自動車の周囲をカメラで撮影して、その映像を車載ディスプレイに表示する機能である。この機能を使えば、死角が一切なくなるため、安全性を高められる。さらに、周囲の自動車との間隔も一目瞭然のため、縦列駐車などのサポートが可能になる。
 今回のデモでは、前方と後方、右側、左側の方向を撮影する4台の魚眼カメラを使った。魚眼カメラを使う理由は、1個のカメラで撮影できる範囲を広げるためだ。使用するカメラの台数を減らせる。ただし、魚眼カメラを使えば、映像が歪んでしまう。さらに、4台の魚眼カメラで撮影した映像をつなぎ合わせて、自然に見えるようにする処理が複雑になる。

図1 高精細なサラウンドビュー機能

TIが「人とくるまのテクノロジー展2014」において展示したデモである。4台の魚眼カメラで撮影した映像を処理して、自動車の全周囲の映像を作成してディスプレイに表示するデモを見せた。自動車の真上については、あらかじめ画像を撮影しておき、映像にはめ込むことで表示している。

高精細な「サラウンドビュー」を実現

 こうした処理を実行するのがTIのシステム・オン・チップ(SoC)「TDA2x」である。最大の特長は、高精細な映像に対応していることだ。約1Mピクセル(最大1280×720画素)の映像を処理できる。
 こうした処理が可能な理由は、複数のデジタル演算コアを1チップに集積している点にある。搭載したコアは、TI独自の固定小数点/浮動小数点DSPコア「C66x」、ARM®のCortex™-A15、Cortex-M4、コプロセッサとして機能する「Vision AccelerationPac」などである(図2)
 映像の歪みの補正や、つなぎ合わせといった処理を担うのは、固定小数点/浮動小数点DSPコアである。Cortex-A15コアとCortex-M4コアは、ユーザー・インターフェイスの処理やカメラの制御などを実行する。Vision AccelerationPacはソフトウェアとともに、人物検出や物体検出などのエッジ認識エンジンとして機能する。デモでは、4台の魚眼カメラのほかに、1台のフロントカメラを使い、自動車の前方に置いた人形を認識する様子を見せていた。
 なお、魚眼カメラやフロントカメラで撮影した映像は、TI独自のインターフェイス技術である「FPD-LINK III」に対応したシリアライザとデシリアライザで伝送した。1本のより対線ケーブルを使って、最大1.4Gビット/秒の映像データを伝送可能だ。このため、ケーブルの本数を削減できる、コストや重さを減らせる。
 「TDA2x」は現在サンプル出荷中である。量産は、2015年後半に始める予定だ。

図2 SoCとカメラを結ぶインターフェイス

魚眼カメラとSoC「TDA2x」を結ぶインターフェイスには、「FPD-LINK III」を採用した。
魚眼カメラ側にシリアライザ「DS90UB913AQ」を、SoC側にデシリアライザ「DS90UB914AQ」を置き、撮影した映像を伝送した。

車載機器開発を多面的にサポート

 ADASをはじめ、今後自動車に搭載されるエレクトロニクス機能は増加の一途をたどることは間違いない。こうした車載用電子機器の開発をサポートするために、TIでは半導体ソリューションの提供に加えて、さまざまなサービスを用意している。今回は3つの取り組みを紹介しよう。
 1つは、リファレンス・デザイン(基準設計)の提供である。これを使えば、設計や開発に費やす期間や労力を削減できるようになる。TIでは「TI Designs」リファレンス・ライブラリに、さまざまな用途向けにリファレンス・デザインを多数用意している。例えば、圧縮を必要とせずに車載カメラ・システムのデジタル・ビデオ信号をツイスト・ペア・ケーブル上で伝送するFPD-Link III SerDesソリューションのリファレンス・デザイン「TIDA-00138」や、欧州における車両緊急通報サービスである「eCall」システムに向けたリファレンス・デザイン「AUTO-ECALL-REF」などを提供している。このほかにも、ADASやインフォテインメント機器、ハイブリッド/電気自動車などに向けた数多くのリファレンス・デザインを取り揃えている(図3)

図3 車載向けにさまざまなリファレンス・デザインを提供


 2つめは、車載機器に向けた半導体の無償サンプル配布である。TIのウェブサイト上で簡単な手続きを済ませるだけで、希望する半導体を入手可能だ。このサービスを利用すれば、車載機器の開発を迅速に、しかもスムーズに進めることが可能になる。
 3つめは、車載機器に搭載する電源回路の開発に向けたオンライン設計支援ツール「WEBENCH® Automotive 設計ツール」を用意していることだ。このツールでは、車載グレードに準拠した半導体のみが設計の対象になる。このため、車載機器にすぐに適用できる電源回路やLEDドライバ回路などを簡単に設計できるようになるわけだ(図4)
 最新の車載用エレクトロニクス機能の実現に欠かせない半導体。それだけに半導体メーカーの果たす役割は、今後ますます大きくなっていく。車載用半導体の新製品だけでなく、開発サポート向けサービスの動向にも注視する必要があるだろう。

図4 WEBENCH Automotive設計ツール

  

  

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