最前線コラム
CAEをサポートする新しいCAT技術【エー・アンド・デイ】
現在、自動車開発のCIM環境の中で、設計開発部門を担当するCAEに於いては、広く物理モデルが使用されている。しかしながら、使用されるパラメータの多さや、モデル精度の向上が捗々しくないことなど、様々な問題も指摘されている。こうした問題に対し、CATの側より、実験結果から実験モデルを同定することによって、モデル精度の向上、モデル作成の容易さ、そして使い易さを実現するCAT支援ツールを紹介する。
自動車開発におけるエンジニアリングプロセスのスピードアップと効率化に貢献
CIM(Computer Integrated Manufacturing)プロセスのCAEとCAT運用にシームレスにつなぐことで、自動車開発のエンジニアリングプロセスのスピードアップと効率化に貢献する、新しいCAT技術の開発が「MBSim」(Model Based Simulation)というコンセプトのもと進められている。
「MBSim」においては、実車走行データを基に車両挙動を分析し、車両基準パラメータ抽出と車両モデル同定を行い、この車両モデルを各評価試験で共有することで、相乗的にモデルの精度向上を図ることが可能となる。また、試験に使用する実験モデルをライブラリ化することで、柔軟性のあるCAT運用と蓄積される技術を有効に活用することが可能となる。以下では、「MBSim」というコンセプトのもと、実現化された新しいCAT支援ツールを紹介する。
車載統合計測システム
実際の自動車の挙動がどうなっているのか、正しく把握することは意外に難しい課題である。それを高精度に計測し、可視化するのが、30万分の1以上のモーメントを相殺する分担力の合成技術を採用したWFSタイヤホイール6分力センサ、WPSホイール姿勢センサ、ECU情報慣性センサによる車両情報などを計測する機器を搭載し、目的に応じた全開加速試験、高速周回走行試験、車線乗り移り試験、登坂路発進試験、低μ路発信・制動試験などの実車走行データを同期計測するVMS車載統合計測システム(Vehicle Measurement System)である。
リアルロードシュミレータ
車両モデルとVMSによる実走行データとの相関確認、妥当性確認などを行うことができ、それにより調整されたリアルロードシュミレータ台上試験機では、試験車両のECUや部品などを変更して、車両挙動を測定することで変更の効果を評価・判定することができ、車両開発や改良などのプロセスに使用することが可能である。
ローラに加わる駆動や制動力を測定する6分力フォースセンサを直接ローラに組み込み、フリクションロスの影響を受けない力計測を可能にし、カーボンローラの採用と新開発のPM型低慣性ダイナモの組み合わせにより、制御応答の速いシステムを実現。これにより、変速ショックやタイヤスリップの鮮やかな再現も可能となる。
ベンチテストシステム
高速ハードウェアの開発、MATLAB/Simulink®,Stateflow® の徹底活用、操作性向上のツール開発、計測・制御・適合評価を総合的に把握可能なリアルタイムシステムが実現化された。統合されたモデルベースにより、システム構成の柔軟性と扱い易いオペレーションシステム採用のエンジンテストベンチ(シミュレーションベンチ、モデルベース適合ベンチ)および高性能トルクセンサを採用して駆動系トルクの高精度計測を行う駆動系テストベンチ(駆動系シミュレーションベンチ、トランスミッション適合ベンチ)が準備されている。
Parts-HIL ユニット・パーツ評価
MBSim のモデルを使用し、部品単位で実車走行を擬似した評価を可能とするのが、Parts-HILである。エンジンモデル、車両モデルなどの各種モデルにはブラックボックスやグレイボックス扱いのパーツが多く含まれているが、既存の部品試験機と同定された車両モデルを組み合わせることにより実車に組み込まれた状態を再現し、より高度な評価が可能となる。ユニット・パーツの評価にあたっては、4端子モデルの力(Force)パラメータを高精度分力センサで計測し、パーツの同定を行い、モデルの高精度化と多様化が進められている。
その他
上記以外にも、様々なツールが続々と実現化されている。
● 超高速リアルタイムシミュレータ :
最新のCPUテクノロジーを駆使し、複雑なモデル演算、より早いモデルサイクルに対応
● 小型トルクセンサ :
RTS-S 単体精度0.03%、ベンチ設置時 0.05%、1台で大小2つのレンジをカバー
● 熱交換器 :
シミュレーションによる最適化でエンジンの熱環境の高度な制御を実現
[株式会社エー・アンド・デイ]
2011年4月1日発行
テスティングツール最前線2011より転載