最前線コラム
テレモーティブ社の遠隔地データ収集・分析システム【テレモーティブ】
今世紀の初め、ドイツの自動車メーカは各種の電子制御システムを導入した。BMWのi-ドライブなどが代表的なシステムと言える。このような新技術は常に新たな問題を抱えているが、テレモーティブ社のデータロガーを導入する事で問題の早期発見に繋がり、不良率の劇的な減少と品質の改善をしたので、JD Powersから表彰を受けた。
これにより、自動車メーカの経営陣は製品開発の初期段階からテスト機器に投資することで、量産前の品質向上が図れることを理解した。
そして、ドイツの自動車業界では、データロガーの導入が主流となった。テレモーティブ社では、2003年より各種のデータロガーを製品化しており、これには燃料電池車のテスト・プロジェクト向けに開発した製品も含まれる。
信頼性の高いデータ収集を可能にするMDAシステム
電池、ハイブリッド、水素など、各種の駆動システムが開発される中、テレモーティブ社では、新しい領域のシステムを提案した。これは、MDA(Mobile Data Acquisition)と呼ばれるもので、遠隔地にあるテスト車からCANデータを収集し、主サーバに集め、本社などで一括して解析を行おうとするものである。
テレモーティブ社のMDAのテスト車両に搭載する装置は、データ収集とデータ転送が一体化されており、世界中の何処からでも、CANデータはインターネット経由で主サーバに集められる。
このシステムは、テレモーティブ社のデータロガー(blue PiraT)にEthernet/WLAN機能とGPSモジュールを組み合わせた物で、遠隔地に設置したモバイルPCとインターネットで接続された主サーバで構成されている。
データロガーに集められたCANデータは、テレモーティブ社の開発したダウンローダーにより、WLAN又はEthernetにてモバイルPCにダウンロードされる。そしてインターネットで接続された主サーバに送られ、世界中の何処においても、データを参照する事が可能となる。
新たな取り組みにより、携帯電話を使ってのデータ転送も可能となった。これにより、主サーバ側からデータロガーの設定変更等も行なえるようになる。
電池、ハイブリッド、水素など、各種の駆動システムの開発は最優先で進められており、スピードが求められているが、高品質を保って開発のプロセス管理をするには時間が足りない。これを解決する為にMDAシステムでは、高品位で信頼性の高いデータを提供し、設計・評価時間の短縮を図っている。
本社のオフィス等から遠隔地のモバイルサーバにアクセスし、データロガーの設定などを操作できるので、これまでのように、世界各地でテスト業務に携わっている文化風土の異なる作業者の異なる技量や経験に結果が左右されること無く、人的ミスの無い信頼性の高いデータを収集できる。
短期間での解決が求められるECU開発の問題
この遠隔データ収集装置は、下記のような実績もある。
交通信号を認識させるアプリケーションを開発する中で、多くの問題点が指摘された。ベンチテストでは、問題が発生していなかったので、関係者を悩ませた。ところが、テレモーティブ社のblue PiraTデータロガーと、これに接続したカメラを用いてテストしたところ、問題点が明らかになった。
欧州ではトラックの荷台に走行速度の表示をしているが、この表示が交通信号の認識システムではエラーとなる場合があった。そこでblue PiraTを用いて、トラックの映像とECUのデータ検討する事で、問題の解決に貢献した。
今日では、開発段階から量産、整備に至るまで、blue PiraTのようなデータロガーを用いる事が標準となっている。品質管理システムの導入や、問題分析、解析等は素晴らしいものであるが、問題の原因を探る為に多くの時間が費やされている。例えば、あるECUメーカが他社のECUを評価しようとしても、問題は解決しないであろう。しかし、適切なデータを収集すれば、問題点に簡単に到達し、解決が早まる。このようにして、開発全体の工程が効率化されることで、開発工程は早まり、開発コストも削減される。
電池、ハイブリッドなどのE-ビークルを開発する上で、データロガーの導入は欠かせない物となるであろう。特に政府の補助金を得ながらE-ビークルを開発する場合には、開発工程の進捗を提示する必要があるからである。テレモーティブのMDAシステムは、顧客企業に様々なテストシステムを提供してきた豊富な経験がベースとなっている。
10年ほど前から、ドイツの自動車メーカは実験・評価に多額の投資を行い、品質を向上させて来ている。正確なデータ収集のためにデータロガーを導入した事も、大きなステップとなっている。マルチデータロガーのblue PiraTは、データ収集システムのベンチマークとして、多くの企業に貢献している。
実証実験済みで、かつ第2世代に移行中のMDA
テレモーティブでは既に第2世代のMDAを開発中で、これはパワフルなCPU、汎用性の高いOS、モジュール化されたユニットで構成されており、記録媒体もHDD又はSSD及びメモリーカードが用意されているので、カーメーカからサプライヤーまで、数百台から1台までの様々のテスト車両の要求に柔軟に対応できる準備が整っている。
テレモーティブのMDAと同様のシステムを始めから開発するには、かなりの金額と時間が必要となり、投資に見合う信頼性のあるデータを得られるのか疑問である。一方でテレモーティブのMDAは既に実証実験済みで、かつ第2世代に移行中なので、費用対効果は非常に優れており、短期間で信頼性の高いデータが得られる事により、新型車両やナビゲーションシステム、ヘッドユニットなどの開発期間短縮と開発費用の削減に貢献できる。
画像記録の優位性
テレモーティブのMDAに使われているデータロガー(blue PiraT)は、標準で音声と画像の記録が可能だ。この音声と画像はCANデータと同期して記録されるので、走行テスト車両の内部(ナビ画面など)や外部の状況をモニターする事ができる上に、テストドライバーのコメントも記録するので、遠隔地での問題発生時の状況がすみやかに確認でき、GPSデータとの参照により、何時、何処で、何が起きたのかが瞬時に認識可能となり、問題発生前後のCANデータを解析すれば問題解決の糸口が見つかる。
カーナビのエラー発見・解析のプロセスをドラマ化した最新のビデオ映像を見て驚かない設計者は居ないであろう。テレモーティブのhttp://www.telemotive.de/4/en/からproducts→blue-PiraTをクリックして画面左の映像を見る。
[アークテック株式会社 代表取締役 井上龍男(Telemotive 日本オフィス)]
(EV・HEV最前線2011より転載)