最前線コラム

実車での機構内部現象を計測可能にするテレメータ技術【マツイ】

自動車の各機構(エンジン、トルコン、ミッション、ドライブシャフト、プロペラシャフト)の内部に作用しているトルク、熱、その他の物理現象を実車状態(実走行可能)で計測する事を実現した。

常時外部給電可能な誘導式テレメータ

機構内部での計測を可能にするためには回転部に取り付ける計測部+送信部をバッテリーレスで運転する必要がある。常時外部よりの給電を可能にするメカニズムを右図及び下図により説明する。右図は同方式をトルク計に使用した例である。ダイアフラム部に貼り付けた歪ゲージに信号アンプより印加し、返ってくるアナログ信号をデジタル化し外部に送信する。下図のブロック図に示す通り、レシーバで生成された高周波(13.56MHz)をピックアップより発信させることにより磁場が形成され、磁場内に存在するコイル(ロータアンテナ)に電気が生じ、その電気で内部回路が機能し、増幅されたデジタル信号を磁場の上に載せて送信するシステムを実現している。これによりコンパクトなアンテナを信号アンプと共に組込み、ピストン、ミッション内部に組み込んで連続運転を可能にする。


最新のテレメータ技術

最新のPCM方式(バイナリのデジタル信号)により、右図に示す通り、信号増幅のリニアリティ及び温度ドリフトが、従来のFM方式より大幅に改善されている。信号アンプに使用する電子部品の選定及び同方式の採用により、自動車の機構内での高温下でも信頼性の高い、且つ高精度の計測を可能にしている。耐高温の信号アンプの製品化及び耐油対策技術により、機構内部への組込みを可能にした。給電、送信を実行する高周波の電波に13.56MHz(Suicaに使用している周波数)を使用している為、自動車等の駆動部に使用されるインバータのキャリア周波数帯(10-15KHz)と大きく隔離されている為、これらのノイズの影響は受けず、コストパフォーマンスの高いチップの使用を可能にし且つ、多チャンネルでも高い周波数特性を可能にしている。

コンパクト・多様な信号アンプ

自動車の機構は、極めてコンパクト化されており、取付けのスペースは極めて限られている。その様な限られたスペースに信号アンプ(信号の増幅機能+送信機能内蔵)及びピックアップとロータアンテナを組込むためには、出来る限りコンパクトな信号アンプが必要である。下図は信号アンプのコンパクト性を示している。一例ではφ6×30mmの穴に挿入が可能な物も製作しており加えて、各種の周波数特性(10Hz、1KHz、10KHz、40KHz)、1 数10チャンネル、-40〜150℃(一部180℃)の広範囲の温度対応タイプ、各種センサ(歪、熱電対、圧力センサ、変位センサ)対応等広範囲な計測に対応可能としている。
コンパクト性も取付けの場所により異なる。軸等に取り付ける場合上図に示すフレキシブル基板状(55×10mm、厚み3mm弱)が圧倒的なコンパクト性を発揮する。これらの信号アンプと組合わせるために、フェライトの箔を使用したアンテナ材料も製品化しており、軸に直接貼り付けて使用する事により、軸の外径に約3mmの厚みの中でテレメータを取付ける事を可能にしている。

豊富な実施例に基く適用技術

メーカManner社によるドイツ自動車メーカ・部品メーカ各社での実施例に加え、日本での主要自動車会社を中心に500件に近い納入例を有している。計測部位に関してはエンジン内部のピストンの測温、歪(コンロッドを含む)、ドライブプレート・フライホイールでのトルク・温度計測、トルコン内タービンブレードでのトルク計測、ミッション軸、CVT軸、オイルポンプ、でのトルク計測、クラッチでの測温、ドライブ・プロペラシャフトでのトルク計測等、パワートレインの各部位での各種計測の実施例を有している。加えて、HVのモータ内での歪、温度計測の実施例も豊富で、モータ駆動のインバータノイズ下でノイズトラブル無で計測を実施している。
又、右図に示すようなトルコン内部でのトルク計測例では、給電を司るピックアップ(固定部)とタービンブレード上に取り付けるテレメータ部品との間に、二重のテレメータを構築して、給電と信号の受信を可能にしている。下図はトルコンケースに施工したアンテナ、タービンブレード上に施工した信号アンプ(フレキシブル基板)及びアンテナ、ブレードに歪ゲージを示している。このように一部部品をお客さまに追加加工をお願いするほかは歪ゲージ、テレメータ部品の取付け、テストピースでのトルク較正までの施工を請け負っている。

[株式会社マツイ 後藤幸治]



2012年4月1日発行
テスティングツール最前線2012より転載