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2025.04.30
AI分野の国際会議「ICLR 2025 Workshop Agentic AI」でHondaの研究論文を採択【本田技研工業】
2025年4月17日
AI分野の国際会議「ICLR 2025 Workshop Agentic AI」でHondaの研究論文を採択
~ワイガヤ文化に着想を得た「マルチエージェント型AIシステム」の研究論文を発表~
Hondaの研究論文が、AI分野の国際会議ICLRの公式ワークショップである「ICLR 2025 Workshop Agentic AI」において採択されました。
ICLR(The International Conference on Learning Representations)は、毎年開催される機械学習や深層学習の分野におけるトップレベルの国際会議であり、Hondaは2025年4月24日(木)から28日(月)にシンガポールで開催される同会議にて、今回採択された論文の発表を予定しています。
研究の背景・論文の概要
近年、人工知能(AI)の急速な進展、とりわけ大規模言語モデル(LLM)※1の進化は、自動車開発の手法に大きな変革をもたらしています。特に、複数の専門分野にまたがる知識の統合が求められる自動車開発の現場では、多様な課題に対して適切な回答や示唆を生成できるLLMの活用に、いっそうの期待が寄せられています。
しかし、実際の企業や開発の現場では、さまざまな分野の専門家が集まり、議論や意見交換を重ねて課題解決を進めており、単一のLLMによるAIエージェント※2では多様かつ高度な専門知識の統合や相互理解が難しく、異なる分野を横断した合意形成に限界があることが課題とされてきました。
今回採択された研究論文において、実際の開発現場の議論プロセスを参考に、それぞれの分野の専門性を持つ複数のLLMを使ったエージェントが、議論と協調を経て課題解決を行う「マルチエージェント型AIシステム」を提案しています。この研究の中で、マルチエージェント型AIシステムは、従来の単一のAIエージェントに比べて、背景情報や解決手法に関する内容の生成精度および出力の安定性に優れていることが確認されました。
また、エージェント間の議論スタイルとして「分散型」「中央集約型」「階層型」「共有プール型」の4つを設定し、それぞれの有効性を比較検証しました。その結果、Hondaの企業文化であり、自由で活発な議論を行う「ワイガヤ」※3を参考に設計した「分散型」では、多様な意見が自然に統合される傾向が確認されました。今回の論文の採択にあたっては、こうしたワイガヤの理念をAIに応用した技術手法が高く評価されました。
※1 Large Language Modelsの略で、大量のテキストデータを学習し、自然言語の理解と生成を行う、生成AIの基礎技術モデル
※2 大規模言語モデル(LLM)に繰り返し入出力を行うことにより、与えられたタスクに対して自律的に計画・実行・改善を行うよう設計されたAIソフトウェア
※3 自由闊達な議論を通じて、独創的な考え方や解決方法などを見つけ出すHonda独自の企業文化
エージェント間の4つの議論スタイルとその特徴 |
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①分散型:
エージェント同士が自由に意見交換できる構造を持ち、多様な視点の融合が促進される
②中央集約型:
発言の制御が中心化されており、議論が効率的に進行する一方で、発展的な対話は生まれにくい
③階層型:
情報の流れが階層的に整理され、論点が構造的に整理されやすい
④共有プール型:
全エージェントが共通の会話履歴にアクセスできるため、発言の一貫性や議論の安定性が保たれやすい
今後の取り組みと展望
さまざまなモビリティ開発の現場においては、走行性能や安全性、快適性など多岐にわたる性能要件を満たすために、各分野の専門エンジニアが知見を持ち寄り、互いの考えや要件を議論しながら最適な形をつくり上げていく「すり合わせ型開発」が重要な役割を果たしています。
本研究で提案したマルチエージェント型AIシステムは、こうした開発現場における専門性の異なるエンジニア同士の議論を、AIエージェントによって模擬・支援することを可能にします。各AIエージェントが専門分野に特化した知識を持ち、他の分野と連携しながら合意形成を進めていくこのアプローチは、従来のすり合わせのプロセスを、より効率的かつ高度に進化させる可能性を秘めています。
今後は、実際の開発プロセスへの応用を視野に入れ、より多くの専門分野に対応したAIエージェントの設計や、実業務での適用検証を進め、順次社内展開していく予定です。これにより、より迅速で革新的な開発プロセスの実現が期待されます。
論文名:Dynamic Knowledge Integration in Multi-Agent Systems for Content Inference
主筆者:本田技研工業株式会社 デジタル統括部 先進AI戦略企画課
筆頭著者:山本 篤 責任著者:伊藤 修 共著者:片桐 章彦、小池 湧大
リンク:https://openreview.net/forum?id=5XNYu4rBe4(英文)
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