ニュース

耐酸化性と強度を向上させた燃料電池用素材を開発【日立金属】

2011年7月11日

耐酸化性と強度を向上させた燃料電池用素材を開発
~固体酸化物形燃料電池の普及へ貢献~

日立金属株式会社(本社:東京都港区 社長:藤井博行 以下、日立金属)は、耐酸化性と強度を向上させた固体酸化物形燃料電池(以下、SOFC)用素材、金属インターコネクタ材を開発しました。クリーンでエネルギー変換効率が高い燃料電池の普及に、高性能素材の供給で貢献してまいります。

1.  背景

燃料電池は、天然ガス、LPG、灯油などを燃料とし、燃料から得られる水素を空気中の酸素と化学反応させて発電します。燃料電池は、燃料から電力が直接得られる利便性のほかに発電効率が高い特長があります。さらに水素を燃料に用いた場合に排出される物質は、水であり環境への汚染負荷が低い特長も有します。このため、各方面で開発が進められており、今後は、さらに普及が加速することが期待されます。
燃料電池には複数の方式※1があり、特にSOFCは、燃料電池の中でも発電効率が約40~60%と高い上、発電の際に発生する熱も利用できるため、総合的に利用可能なエネルギー量が大きいという特長があります。家庭用分散電源から火力発電との複合発電に至るまで幅広い分野での利用が期待されています。

2.  概要

固体酸化物形燃料電池(SOFC)を構成する重要部品インターコネクタ(セパレータ含む)は、セル同士を電気的に接続する役割を持ちます。(図)
材料に要求される特性として、作動温度(例えば700~850℃)での長時間の耐酸化性、良好な電導性、電解質(ジルコニア系セラミックス)※2に近い熱膨張係数※3があります。しかし、一般的なステンレス鋼(SUS430など)では耐酸化性が不足し、耐酸化性の優れたNi基合金(Alloy600など)※4では熱膨張係数が大きく、耐酸化性の優れたアルミ添加合金では酸化被膜の導電性が不十分などの課題がありました。
日立金属は、これらの要求特性を満たすインターコネクタ材の開発に継続して取り組んでまいりました。2005年には、鉄とクロムを主成分とするフェライト系ステンレス鋼※5ZMG™232L を開発しました。この度、ZMG232Lよりもさらに導電性、耐酸化性および強度を向上させたインターコネクタ材ZMG232J3, ZMG232G10を開発することに成功しました。ZMG232G10は特殊元素の添加により、ZMG232Lに対してSOFCセルの劣化の原因となるクロム蒸発をやや抑制した材料です。また、素材の提供だけでなく、加工製品にも対応することでお客様のニーズに幅広く対応します。

日立金属は、クリーンでエネルギー変換効率が高い燃料電池の普及に、高性能素材の供給で貢献すると共に今後もエネルギーの未来をひらく素材、製品の提供を通して、省エネルギー社会の発展に貢献してまいります。

3.  インターコネクタ材ZMG232J3、ZMG232G10の特長

(1) 作動温度での長時間にわたる良好な耐酸化性
従来材ZMG232Lと比較して良好な耐酸化性を有する合金です。
燃料電池の寿命の向上に貢献します。

(2) 作動温度での高い強度
従来材ZMG232Lに対して、高い高温強度(引張強度、クリープ強度)を有する合金です。
燃料電池としての構造を長時間維持します。

(3) 作動温度での良好な導電性
従来材ZMG232Lと比較して、作動温度での接触抵抗を低減させた合金です。
インターコネクタでの電圧の低下を低減し、発電特性の向上に貢献します。

(4) 電解質YSZ(ジルコニア系セラミックス)に近い熱膨張係数
従来材ZMG232Lと同様に電解質に近い熱膨張係数を有する合金です。
セルとセルとの積層を可能とし、また電力負荷に追従した運転にも対応します。

(5) クロム蒸発を抑制(ZMG232G10)
ZMG232G10は特殊元素の添加により、ZMG232Lと比較してクロム蒸発量をやや抑制した合金 です。クロムがセルに蒸着してセルの性能を低下させる現象を低減します。

4.  サンプル供給開始

2011年7月

5.  売上目標

2015年度5億円/年
2020年度50億円/年

本発表は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究「固体酸化物形燃料電池システム要素技術開発」により得られた成果を含むものです。

ご参考

[用語解説

※1 燃料電池の方式
使用する電解質の種類によりSOFCや固体高分子形(PEFC)など4種類の燃料電池が開発されている。SOFCは最も高い発電効率を有するなどの特長がある。PEFCは、運転温度が低いため起動性が良いなどの特長がある。

※2 電解質(ジルコニア系セラミックス)
外部から加えられた電場によるイオン(帯電した物資)の移動を利用して電力を取り出す固体。

※3 熱膨張係数
温度の上昇によって物体の長さ・体積が膨張する割合を、1K(℃)当たりで示したもの。

※4 Ni基合金(Alloy600など)
ニッケルをベースとする合金。例えばAlloy600はクロムを約16%含有するNi-Cr合金であり、耐食性、耐酸化性、高温強度などが良好である。母相がオーステナイト相であるため、母相がフェライト相であるフェライト系ステンレス鋼より熱膨張係数が大きい。

※5 フェライト系ステンレス鋼
鉄ベースでCrを約12%以上含有するFe-Cr合金で、熱処理により硬化せず磁性を持つ。

[ZMG232J3,ZMG232G10サンプル供給サイズ]

厚み(mm)
——————
幅(mm)
——————
全長(mm)
——————
0.1 300 600
0.3 300 600
0.5 300 600
1.0 300 600
2.0 300 600
3.0 300 600
10.0 300 1000
15.0 300 1000
20.0 300 1000

 

日立金属株式会社ホームページはこちら