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乗用車用9速ATを開発 【ゼット・エフ】

2011年6月7日

世界初の9速オートマチック・トランスミッション(エンジン横置き車両に対応)を開発
燃費の大幅な改善: 最大16%向上
アイドリングストップ機能、ハイブリッドシステム、四輪駆動システムにも対応可能

VDI (ドイツ技術者協会)が開催した自動車変速機に関する国際会議 「Transmissions in Vehicles 2011」において、ゼット・エフ・フリードリヒスハーフェン社は、まったく新しい技術的内容を持つ、乗用車用9速オートマチック・トランスミッションを公開しました。この最新鋭のトランスミッションは、エンジンを横置きした車両のためにデザインされたものであり、2種類のモデルにより、280Nm~480Nmまでの入力トルクに対応します。またその構成は、モジュールキット化されていて、変速機としての基本ブロックに各種の補助機構を取り付けることで、様々な要求に対応することができます。これはすなわち、特質の異なる発進デバイス、モーターを組み込んでのハイブリッド動力化、あるいは四輪駆動仕様などを、限られた搭載空間の中で、費用対効果に優れた形で実現できることを意味しています。

新開発の9速オートマチック・トランスミッション(以下、9HP)は、現在広く採用されている、車両のフロント部の横置きエンジンに装着された標準的な6速オートマチック・トランスミッションと比較した時、燃費が最大で16%も向上します。この9HPの燃費効率の良さは、変速比幅(減速比が最大になる変速段と最小になる変速段の相対比: レシオ・スプレッドなどと表記される)が9.84と極めて広いことによるものです。しかもそれぞれに変速段の間の減速比のステップが小さい、いわゆるクロスレシオ化を実現できたのは、まさしく9段のギアを組み込んだ成果に他なりません。クロスレシオであることは、快適な運転を可能にする一方で、燃費効率に最適なエンジン回転を保つことができます。また、変速比幅を広げたことで、巡航時には高いギアを使ってエンジン回転を下げることを可能にします。例えば、時速120km走行時のエンジン回転数が既存の6速トランスミッションでは2,600rpmであるとすれば、新しい9速トランスミッションでは、1,900rpmにまで下げることができます。

革命的なトランスミッション・コンセプト

ゼット・エフは、4つのプラネタリーギアセットと6つのシフトエレメント(変速動作機構)を巧妙に組み合わせることによって、9HPのこれまでにない多段化を実現しました。新しい発想に基づくこのコンポーネント・デザインを、現実の車両に搭載できるものにまとめあげるのが、大きな挑戦だったことはいうまでもありません。とりわけ車両のフロント部に横方向にエンジンと共に横置きされるトランスミッション場合、与えられるスペースは、車体の幅によって厳しく制約されます。そこで9HPの開発にあたって、複数のギアセットを縦方向の軸(車両搭載上は横向き)に沿って単純に並べるのではなく、もっとスマートなレイアウトが考案されました。このコンセプトを補完しているのが、油圧で切り換える嚙合式のメカニカル・クラッチであり、変速機構全体の軸方向の長さを押さえ、また高効率を持つ形で、9速の変速段を実現するのに貢献しています。多板摩擦式のシフトエレメント(クラッチやブレーキ)は、伝達を切り離すために開放した状態でも、摩擦要素を「引きずる」ことで変速機構全体の回転に対する抵抗を生じます。 嚙合式クラッチでは、これらのロスは非常に小さくなります。この点は、9HPの核心となる多段変速コンセプトを実現する上で、非常に重要なものでした。その結果として、複雑な機構により発生しうる機械損失に対して、クロス(接近した)ギアステップによって生み出される高い効率を損なうことなしに実現できたのです。

性能の向上と低燃費の実現

9HPではトルクコンバーターを標準の発進デバイスとして採用しています。なぜなら、とくにアメリカとアジア市場のユーザーが、このデバイスの特徴でもある動き出しの瞬間のスムーズさと扱いやすさになじんでいるからです。ここでも、油圧による伝達機構ゆえの機械的損失を最小限に抑えるために、多段階に働く回転方向のダンパー・システムが組み込まれています。今まで以上に低速域から、しかも俊敏に、トルクコンバーター・ロックアップを働かせるためのメカニズムです。こうしてエンジンと変速機構を直結することは、燃費の向上はもちろん、快適性にも、そしてもちろんドライビング・ダイナミクスにも良い影響をもたらします。またクルマを操る感覚をよりダイレクトなものにするため、ゼット・エフでは、トランスミッションの反応や変速に要する時間が人間には感知できないほど短いものになるよう、様々な制御コンポーネントをデザインしています。

柔軟性にすぐれた変速とその制御

9HPでは、いくつかの変速段を飛ばして最適な変速段に直接シフトする「飛びシフト」を可能にしています。これによりこの9HPを導入する自動車メーカーのみならずエンドユーザーまでもトランスミッション制御に影響を及ぼすことができます。例えば、シフトポイント(エンジンの回転速度や負荷に応じた変速点)や変速特性(変速の速さや駆動のつながり方など)を快適で燃費効率を重視した走りから、極めてスポーティな走りまでを作り出すことができるのです。そうした高度な柔軟性を持つトランスミッション制御の開発においては、ゼット・エフが誇るソフトウェア開発分野での専門知識を大いに活用しています。変速のプロセスをコントロールのATSYSは、全てのクラッチのコントロールや状況適応機能、トランスミッション保護機能のすべてを織り込んだものであり、ASISはドライビング・ストラテジー、すなわち走る状況や走らせ方、そして車両コンセプトに応じてどう変速するか決める役割を担います。そしてギアの選択と変速は、ドライバーが気付かないほど瞬時に実行されるのです。

その一方でゼット・エフの技術陣は、9HPではコスト効率と搭載スペースを最適化することを考えた結果、完全内蔵型メカトロニクスモジュール、すなわちすべてのセンサーやアクチュエーター、電子制御ユニット(EGS)を一体化するレイアウトを採用しませんでした。その代わりに自社でEGSを開発、生産することにしたのです。現在では小型化が進んでいる油圧制御ユニット(HSG)とは独立したモジュールとして、トランスミッションハウジングの上部に取り付けられています。このEGSの計算能力は必要であれば、さらに30%向上させることが可能です。それによって、9HPには将来、今以上に複雑で統合的な機能を織り込んだソフトウェアを組み込むことができます。もちろんこうしたEGSのハードウェアのレイアウトは、搭載される車両やそのメーカーの様々な要求内容に問題なく適合できるように設計されています。

柔軟性に富んだ構造キット

この最新鋭の9速オートマチック・トランスミッションは可能な限り多くの車種に搭載できるようにするため、「組み合わせキット」型ともいえる構成を採用しています。たとえば、四輪駆動システム用には変速機の出力部から後輪側への駆動を分岐するトランスファケースを追加することができます。これに合わせてゼット・エフは、後輪側への駆動を切り離すことができる新しい四輪駆動システム(AWD Disconnect)を開発しました。必要な状況においてのみ後輪側に駆動を伝えることで、常時駆動の四輪駆動システムに比べ5%の燃費向上を実現しています。また、新型9速ATはアイドリングストップ機能にも対応しており、エンジンを止めて停車している状態から再発進する際の作動に必要な油圧を発生させるためのオイルポンプの追加装備も必要ありません。それと同時に、再発進の際に閉じる(締結する)必要がある摩擦要素(ブレーキ)が1つだけであるため、ドライバーがアクセルペダルを踏み込むのに瞬時に反応して駆動に入ることができます。さらにこのトランスミッションは、ハイブリッド化にも簡単に対応できます。最も基本的なパラレル・ハイブリッドシステムを構築する場合、トルクコンバーターを電気モーターに置き換えるだけです。さらにもう一点、この9HPは、オープン・ソフトウェアやインターフェイスの構成を含む強力な電子制御装置によって、様々な車両コンセプトと、そこで求められる走りの資質を実現する柔軟さも備えています。こうした多様性と、そして組み合わせキット型の機械的構成が持つレイアウト面の柔軟性によって、9HPは、自動車メーカーが新しい車種を生み出す際にきわめて使いやすく、開発の効率を高める基幹技術要素となることでしょう。

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