ニュース
傾斜積層構造を用いた熱発電チューブを開発【パナソニック】
要旨
パナソニック株式会社は、熱電変換材料と金属を傾斜積層した、新しい構造の熱発電チューブを開発しました。熱エネルギーを電力に直接変換できる熱電変換[1]は、二酸化炭素排出ゼロの発電技術のひとつとして注目されています。今回、熱の流れにくい熱電変換材料と熱の流れやすい金属を傾斜して交互に積層し管状にした単純な構造を考案、お湯を流す配管そのものを熱発電チューブにすることが可能となり、試作した長さ10 cmのチューブで1.3 Wの電力を取り出すことに成功しました。本開発の成果を用いることで、地熱・温泉熱利用[2]などへの展開がより簡便になることが期待できます。
効果
現在、導入が進んでいる太陽光や風力などと比較して天候などに左右されず安定な再生可能エネルギーとして地熱・温泉熱の活用が注目されています。これまで、温泉熱を利用した熱発電の取り組みがありますが、配管の外側に従来のπ型構造の熱電変換素子[3]を貼り付けて配線しているため熱を取り込む際のロスが大きく、信頼性にも課題がありました。本開発により、配管自体で熱発電が可能となり、熱の取り込みロスが少なく、複雑な配線も不要となり、熱発電システムの実現に大きく前進します。
特長
今回の開発は、以下の特長を有しています。
1. 従来のπ型構造の熱電変換素子を使った場合に比べて4倍の発電量を実現1)。
2. 製造方法が簡単で、お湯を流す配管などにそのまま使えるチューブ形状を実現。
1) 同一の熱量を供給(温水90度、冷水10度)して比較。
内容
本開発は、以下の新規技術により実現しました。
1. 熱の流れと垂直な方向に電気が流れるという独自の熱発電原理を考案
2. 熱発電原理に基づき発電電力を最大化する熱流シミュレーション技術を構築
3. 加工が困難な熱電変換材料をあらかじめカップ型にすることで、チューブを開発
従来例
従来のπ型構造の熱電変換素子は、構造が複雑で 熱を熱電変換素子に取り込む際のロスが大きく、複雑な配線が必要となり、スケールアップ、信頼性にも課題がありました。
特許
国内:29件 海外:12件(出願中を含む)
備考
本開発の一部は、2011年6月22日から24日(現地時間)まで、サンタバーバラ(米国)で 開催されるElectronic Materials Conferenceで発表いたします。
内容の詳細説明
1. 熱の流れと垂直な方向に電気が流れるという独自の熱発電原理を考案
熱の流れにくい熱電変換材料と、熱の流れやすい金属を、熱の流れに対して傾斜して積層すると、素子内部で周期的な温度分布ができ、熱の流れと垂直な方向に電気が流れるという現象を独自に見出し、この現象を利用した熱電変換素子を開発しました。
2. 熱発電原理に基づき発電電力を最大化する熱流シミュレーション技術を構築
今回開発した熱発電チューブは、チューブの形状や傾斜構造により、発電特性が大きく変わります。そこで、発電電力を最大化するために、チューブに流す温水・冷水の温度や流量に応じて、発電特性をシミュレーションできる技術を新たに構築しました。
用語の説明
[1]熱電変換
材料の両端に温度差を生じさせ、熱エネルギーを電力に変えること。温度変化をもとに発電する現象は、発見者の名前をとってゼーベック効果と呼ばれます。タービンのような可動部がなく、二酸化炭素等の排出もない発電技術として期待されています。
[2]地熱・温泉熱利用
地熱エネルギーは、再生可能エネルギーの中でも急激な出力変動がないエネルギーとして期待されていますが、温泉との競合もあってあまり開発が進んでいませんでした。そのような中、比較的低温(150℃以下)の温泉熱はすでに多くの温泉施設で使われており、その熱をさらに発電に利用するという「温泉発電」の取り組みが報告されています。泉源からのお湯をわき水などで冷まして適温にするところなどで熱発電を使えば、発電と温泉を両立できるようになります。
[3]π型構造の熱電変換素子
従来の熱電変換素子の基本構造は、2種類(P型、N型)の熱電変換材料を並べて電極で接合した構造となっており、ギリシャ文字のπ(パイ)の形をしているため、「π型構造」と呼ばれています。実際の素子は、この「π型」をいくつも並べて電気的に接続して平板状に作られています。
パナソニック株式会社ホームページはこちら