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単層カーボンナノチューブを用いた導電性ゴムを開発【NEDO】

2011年9月7日

−高伝導率、高機械耐久性を実現、フレキシブルデバイスへ道−

NEDOの「低炭素社会を実現する革新的カーボンナノチューブ(CNT)(※1)複合材料開発プロジェクト」の一環として、技術研究組合単層CNT融合新材料研究開発機構(TASC)(※2)は、高伝導率・高機械耐久性を併せ持つゴム材料の開発に成功しました。
スーパーグロース法(※3)によるCNT(SG-CNT)をゴムへ特殊な方法で分散させることで従来のカーボンブラックを用いた導電性ゴムの100倍の導電率(30S/cm)を有しつつ、約5000回の破断耐久試験に耐えうる材料を実現。これまで課題だった導電性と機械耐久性の両立を同時に解決したことにより、レーザープリンターの帯電ロールや静電気除去材だけでなく、その特徴を最大限生かしたフレキシブルデバイス分野への導電性ゴムの実用化に大きな弾みがついたといえます。

※1. 炭素原子のみからなり、直径が0.4~50nm(1ナノメートル : 10億分の1メートル)、長さがおよそ1~数10µmのチューブ状に連なったナノ材料。日本発の高機能材料であり、その化学構造はグラファイト層を丸めてつなぎ合わせたもので表され、層の数が1枚だけのものを単層カーボンナノチューブと呼ぶ。
※2. 住友精密工業株式会社、帝人株式会社、東レ株式会社、日本ゼオン株式会社、日本電気株式会社、独立行政法人産業技術総合研究所の5社1独立法人により2010年に設立した技術研究組合。
※3. 単層カーボンナノチューブの合成手法の一種である化学気相成長法において、水分を極微量添加することにより、その合成効率を大幅に向上させた独立行政法人産業技術総合研究所により開発された手法。

1. 背景

導電性ゴムは母体として絶縁体であるゴム(もしくは樹脂)に導電性を付与するため、従来はカーボンブラックや金属粒子等(フィラー)の添加が広く行われてきました。しかし、十分な導電性を発現するためには多量のフィラーの充填が必要であり、その結果ゴムの特性が失われ、脆化(もろくなること)するという問題が有り、高い導電性と機械耐久性を両立することは困難でした。
ゴム(もしくは樹脂)の性質を保ったまま高い導電性を発現させるためには、フィラーの充填量を低く抑えて導電性を発現させることが必要になります。そのためには、出来るだけ細く、長いフィラーをゴムの中に分散させることが求められていました。CNTはこの要求にもっとも合致した材料といえます。
SG-CNTは直径が約3nm、長さが数100μm以上、さらに純度が99.9%以上というCNTの中でも特に優れた特徴を有しています。この特徴を最大限生かすことにより、既存材料を上回る導電率と機械耐久性を併せ持つ導電性ゴム材料の実現が期待されていました。

2. 今回の成果

従来CNTを樹脂などに複合化するためには、CNTが数本から数10本連なったバンドルといわれる凝集体を超音波処理などにより、CNTを樹脂中に単分散させることが目指されてきました。しかし、この時CNTが長さ方向に切断されるため、CNTの特性が十分に発現されないという問題がありました。
そこで今回、TASCプロジェクト本部 畠賢治副本部長、小橋和史研究員、阿多誠介研究員らはSG-CNTが従来のCNTに比べて長軸方向に長く高純度であるという特徴を最大限に生かし、特殊な方法を用いてSG-CNTの切断を抑えながらバンドルをほぐすことに成功。さらにCNT同士の凝集を抑えながらゴム中に分散させることにより従来に比べて数10倍~数100倍の高い導電性を持つ導電性ゴムを開発しました。(図1)
一般に複合材料が高い導電性を発現する場合、フィラーが緻密に連なっており、このような場合ゴムの持つ柔らかく変形しやすいという特徴は失われます。これは、伸び縮みする母材の中に伸び縮みしないフィラーが張り巡らされていることが原因です。そのため母材とフィラーとの間で剥離がおこり機械耐久性は著しく低下します。しかし長く広がった構造を持つSG-CNTはマジックハンドの様に変形できるという特徴を有しており、ゴム中で母材の変形に合わせてその形を変えることが出来ます。このため、今回開発された導電性ゴムは約5000回繰り返し歪みに耐えるという優れた性能を示しました。(図2)

また、繰り返しひずみを与えながら導電性ゴムの電気伝導性を測定したところ、他社製CNTを用いた場合に比べてSG-CNTを用いた導電性ゴムは格段に電気伝導性の劣化を抑えられていることも分かりました。(図1)
これまで課題であった高い導電性を発現させる際の課題であった耐久性を解決し、さらに変形時に導電性が低下しないという特徴から、今後レーザープリンター用帯電ロールやフレキシブルデバイス(フレキシブル配線)を含む様々な分野においてブレークスルーになることが期待されています。

3. 今後の予定

開発したCNT導電性ゴムに関する技術は今後TASCを通じて各企業等との共同研究などによって実用化に向けて開発を続け、フレキシブルデバイスに限らず、電気を通し、機械耐久性を持つフレキシブルな材料を、様々な分野へ応用展開していく予定です。


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