最前線コラム

普及が進むEV・PHEV用充電コネクタの今後【矢崎総業】

読者の皆様の多くは、矢崎総業㈱と聞いたら、何をイメージするであろうか。
当社は、人と車と社会をつなぐ事業として、自動車のワイヤーハーネス、ガス・電気・太陽熱などのエネルギー機器、地球環境に配慮した活動に取り組んできた。
そして今、EV・PHEV用の充電コネクタに力を入れている。

カーメーカから支持されるコネクタ

近年、地球温暖化の原因とされるCO2(二酸化炭素)を排出しないゼロエミッションが社会的に提唱されている。
各カーメーカが車輌からのCO2排出削減に向けて、電気が動力源となるEV・PHEVの普及に積極的に取り組んでおり、また、EV・PHEVを普及させるために、経済産業省と自治体及び民間企業の取り組みにより充電スタンドが増加している。

EV・PHEVに充電する方式は、2種類あるのはご存知であろうか。急速充電(DC充電)と普通充電(AC充電)である。それぞれの特徴を述べると、急速充電は、直流電流を使用して大電流を流し、30分程で80%という短時間での充電ができる。普通充電は、交流電流を使用し、7時間〜14時間で満充電という長時間を必要とするが、家庭用のコンセント(100V or 200V)で充電ができる。※(一般的なEVの場合)
当社は、両方の種類に対応した充電コネクタを販売している。

また、当社は、充電器側のコネクタ(インフラ)だけではなく、車輌側のインレットと呼ばれるコネクタの取扱いも行っている。
当社のコネクタは、インフラとインレットのセットで認証を取得しており、各カーメーカから採用されている。世界で走行しているEV・PHEVの多くには、当社のインレットが使用されている。
国内カーメーカでは、トヨタ自動車㈱の「プリウス・プラグインハイブリッド(PHEV)」、日産自動車㈱の「リーフ」、三菱自動車工業㈱の「i-MiEV」、富士重工業㈱の「プラグインステラ」等のEVに納入実績がある。



様々な規格に対応する技術

当社は、充電コネクタのパイオニアとして、普通充電・急速充電ともに開発当初(90年代)から現在に至るまで製品の先行市場投入で市場のリードを保っている。
そして、1993年に急速充電コネクタの「JEVS G 105」タイプの初期型を限定生産した。2010年9月から米国、欧州向けに販売するため、UL/CEバージョンを出荷している。
また、充電コネクタの特設ホームページを2010年12月にスタートし、(http://charge.yazaki-group.com/)当社の充電コネクタへの取り組みを広く知っていただこうと考えている。
さて、EV・PHEVが普及すると、今後さらなる多種の車輌が登場することが予測される。しかし、充電コネクタの標準規格は、現段階では統一されていない。
日米では、普通充電については、「SAE J1772」仕様が標準化されている。
急速充電については、日本発の規格である「CHAdeMO」プロトコルに準拠した「JEVS G 105」仕様が諸外国に向けて広がりをみせている。
また、欧州では、三相仕様のコネクタの検討が進められており、独自のコネクタの形状がある。
このように、充電コネクタの規格が多様化している中にあって、標準化される規格を見極めた開発は困難ではあるが、カーメーカ、インフラメーカと協力しながら、開発を進めている。
また、電気用品を扱うには各国に対応した認証機関による試験にパスする必要があり、認証を取得するには、厳しい仕様が求められる。
欧米のUL2251を取得するには、「ヴィークルドライブオーバー」という試験があり、2tトラックで踏みつけても、充電ができる機能を確保できる高耐久性の製品であるかを確かめる。そして、充電コネクタの「1万回挿抜」という耐久試験もあり、挿抜後の温度上昇を確認し、耐摩耗性のある製品であるかを確かめる。
当社は、製品の研究と改良をして認証取得に成功した。

一方、当社の中で苦労した点は多部門間でのコミュニケーションである。充電ビジネスは、自動車と家をつなぐ製品であることから、多くの部門と接点が生まれ、会議を行う機会も多くなる。このため、2010年6月にHV事業推進室という組織を新たに作り、自動車部門、生活環境部門の横串機能を担うことでコミュニケーションを円滑に行えるようにした。

利用者のための改善

当社の充電コネクタが接続されている充電設備が、高速道路のSA、駐車施設等でも目にする機会が増えてきた。
そして、実際に充電設備を使用したお客様のご意見を頂き、改善点が見えてきた。その1つは、さらなる「操作性の向上」であった。

具体的に操作性の向上を図るための取り組みの一例を紹介する。
従来のものは、充電コネクタのグリップと嵌合部の角度が60度近く付いていたが、25度に変更・調整した。
人は手で棒状の物体を握ると自然に中心軸を感じることができる。ペットボトルなどは飲み口がボディーの軸上にあるので、飲み口を見なくても口元に自然に運べるのはそのためである。
このことからグリップはある程度真直ぐにするべきと考えた。しかし、本当に真直ぐだと車へ嵌合した際に不自然で邪魔な向きになる。解決策としてグリップ付け根を25度に折るのではなく、嵌合部先端から徐々に曲げグリップ部中央で25度程度になる形状にした。

今後の取り組み

当社が研究開発してきた成果は、本年1月に東京ビッグサイトにて開催した「第2回EV・HEV駆動システム技術展」に新型デザインのコネクタを出展し、明らかになった。
当展示会では、意匠をこらした新デザインにさらなるカラーラインナップを充実させ、大変ご好評を頂き、展示会は成功だったと感じている。
実際、「魅力的である、商品化を望む」といったご意見を多数頂戴し、洗練されたデザイン、カラーの遊び心に高評価を頂いた。
また、今後は、住宅・駐車施設に対して充電設備の設置が進むと予測されるため、プライベート利用の機会が増えると考えられる。そのため、同じ製品でも訴求力に富んだカラーバリエーション、小柄である女性向けの小型コネクタ等の新意匠の製品ラインナップを揃える必要があると考えている。

これらのことから、我々の進む市場に対しては、操作性を向上させ、スタイリッシュにすることで間違いないと確信した。お客様がご利用する自動車にも様々な形状、配色があるとおり、お客様に「選択する楽しさ」を当社は提案する。
人と自動車と環境社会をつなぐという、当社の事業方針に合致した事業が充電コネクタと言える。EV・PHEVの普及のために、当社の一貫した取り組みに期待して頂きたい。

[矢崎総業株式会社 HV事業推進室 染葉智久]


2011年5月1日発行
EV・HEV最前線2011より転載