最前線コラム

EV/HEV開発向け 最新HILSソリューション【dSPACE】

自動車業界およびエレクトロニクス業界では、環境に対するインパクトを最小にしながらシステム効率、機能を改善するユニークで革新的な製品を効率良く開発することが急務である。自動車においてEV/HEV 開発はエネルギー効率改善の大きな流れであり、システムを効率良く開発するためにモデルを使った開発手法およびHILS 等のツールの活用が業界に浸透してきている。dSPACE Japan ㈱はこの開発に必要なモータ、インバータ、バッテリ等のモデルおよび高速・高機能なハードウェアをElectric Drive ソリューションとして提供している。

HILS とは
HILS(Hardware In the Loop Simulator あるいはSimulation)とは試験対象(例えばモータ制御用ECU)以外の部分を全てハードウェアで仮想的に実現するシミュレータの事である。ハイブリッド車両におけるモータ制御ECU をHILS でテストする場合、HILS の中にモータ、バッテリ、エンジン、トランスミッション、車両、運転者、道路状況等全てのモデルが入っており、それらの挙動が実時間で計算される。

HILS を使う一般的なメリットとして
・制御対象(例えば車)が完成する前に制御用ECU ソフトウェアの検証を行う事ができ、開発期間の短縮が可能である。

・実際の制御対象でテストを行うには危険あるいは経済的損失の可能性が大きい場合に使う事ができ、試作数の低減、
テストに必要なリソースの低減が図れる。

・ハードウェアで仮想試験環境を実現するため自動試験にて24 時間、テストができる。また不具合が起きる条件の
把握とその再現テストが可能。

・自動試験を使い試験検証範囲を広げることができる。ソフトウェアの検証抜けをカバーでき、ソフト品質の向上が図れる。

Electric Drive ソリューション
近年のエネルギー効率アップ要求、艤装自由度の向上要求、快適性向上要求からモータを使った新機能が車両に搭載されてきている。今までとの違いはモータがより高出力になり、従来の単一機能からシステムの1 部を担う機能を持つようになった点である。またモータがより複雑な安全に関わる機能に使われ始めており、システムの安定性、品質に高いレベルが要求されるようになってきている。従来のHILS をモータ応用開発に適応するには幾つかの追加機能が必要である。当社ではモータ応用開発に必要なソフト、ハードをElectric Drive ソリューションとして提供している。
このソリューションに必要な要素および含まれる製品は
● モデル:モデルベース開発手法をモータ応用に適応するためにはモデルが必要である。図1はASMElectric Components
ライブラリの概要である。ライブラリは高速演算(例えばPWM 周期と同期して50 μ sec で演算、モータ、インバータなど)が
必要とされるElectric Component Closed-Loop と従来のHILS 内モデルの標準計算スピード(例えば1m sec、バッテリ、
オルタネータ、電気負荷)で実行されるAutomotive Electrical System で構成される。これらを使い低速の電気回路網に
よるバッテリ電圧のシミュレーションから高速なモータ電流のシミュレーションまで可能となる。

● 高速演算能力:モータの時定数はエンジンより2 桁小さいため、高速に演算する必要がある。
そのための高速演算向けFPGA ボード(DS5202、DS5203)

● 高速I/O ボード:例えばモータドライバへのPWMの信号の周波数が20KHz とすると1 周期50μ sec で有り、
この周期におけるデューティーを計測するためには高速なI/O ボードが必要である。HILS 用I/O ボード
(FPGA ベースのPWM 計測、位置センサーシミュレーション)および電子負荷ボード。

● 高電圧対応:現在市場に出ているハイブリッド車の最大電圧は650V でその電圧に対応できるハード
およびノウハウが必要である。

EV/HEV 対応HILS 構築
HILS インタフェースの選択
HILS を構築する場合、テストされる実物とHILS によりシミュレーションされる部分を分け必要なインタフェースを設定する必要がある。EV システムは図2のように次の4つに分割される。
● Controller:モータ制御ロジックで出力はパワー段へのPWM 信号、入力はモーター位置信号、モータ電流、車輌信号

● Power Stages:3 相ブリッジ回路、出力はモータへのパワー

● Electric Motor:3 相モータ、出力はトルク

● Mechanics:車輌、トルクが入力され走行環境(走行抵抗との関係より加減速が計算される)よりモータ軸の位置がきまる。





この場合にHILS のインタフェースは次のどれかを選択する事ができる。
● 信号レベル:インタフェースは高電圧を扱う必要が無い。
制御ボードとインバータが一体の場合、PWM 信号を取り出す必要がある。

● パワーレベル:高電圧、大電流を扱う必要がある。シミュレータ側には高速にモータ電流を計算するモデルを用意し、
PWM のスイッチングに対応した電流リップルを実現する必要がある。

● メカニカルレベル:モータモデルは必要ではないが、モータ負荷を模擬する装置をモータの出力軸につなぐ必要が有る。
通常は向かい合わせに負荷用のモータを接続する。

図3は信号レベルにてHILS のインタフェースを設定した例である。モータ制御ボードよりPWM の信号を受け、そのDuty を計測し、PWM 周期毎にモータモデルを実行し、平均電流値を計算する。電流値よりモータトルクが計算され、繋がっているパワートレインへの入力となる。車両のモデル(パワートレイン、車両重量、道路環境、等)にてパワートレインの速度が求められ、モータの位置が決まる。その位置に応じてモータ位置信号が生成されモータ制御ボードにフィードバックされる。このインタフェース部にモータ応用に特化したFPGA ベースのI/O ボードDS5202EMH が必要となる。このボードは高速I/O を介してPWM の計測とモーターポジションセンサ(レゾルバあるいはエンコーダ)のシミュレーションを行う。






HILS のインタフェースをパワーレベルとした時はPWM 信号のタイミングにあわせてモータ巻き線の電流を100nsec と非常に高速に計算し、その電流値を電子負荷で高速に実現する。
図4はHEV 用のバッテリHILS の例である。バッテリの各セルの電圧をバッテリマネジメントのECU に提供する高電圧レベルでHILS のインタフェースを構築している。バッテリの各セルの電圧はシミュレータ内のバッテリモデルにてSOC、SOH の状態により計算される。





今後の方向性
モータ応用システムを制御(RCP)あるいは検証(HILS)する場合高速な演算能力、高速なI/O は不可欠で有り、特殊なモータ等を検討する場合は特殊なモータモデルを高速に計算する必要がある。この要望に答えるため、当社ではユーザがSimulink の環境でFPGA のプログラミングができる環境を揃えている(DS5203)。


[dSPACE Japan 株式会社 技術部部長 宮野 隆]

(カーエレクトロニクス最前線2010より転載)