最前線コラム

SMTのフラッグシップソフトウェア、MASTAを用いたEVのワインノイズ低減への挑戦【SMT JAPAN】

 ディーゼルの排気ガスのスキャンダル、各国の政策としてのEV シフトにより、ドライブトレインでは世界的に EV 化の流れが非常に強くなっている。

 ・EV ではエンジンのノイズがなく、車両全体のノイズが低いため、ギヤ、モーターで発生する
  ノイズが目立ちやすい傾向にある。
 ・技術レベルが向上し、ノイズに対する要求値も上がってきている。
 ・特に中国では自動車関係ではない企業が国策として資金援助を受けその結果、新規参入が
  起こっている。

これらの背景からEV に対してのノイズ対策が注目されている。

 弊社のMASTA を用いた振動解析では従来の起振力やトランスミッションのマウントチューニングへのアプローチだけではなく、システムモデルにおける振動解析により詳細なNVH 特性を確認、検討することが可能である。

図1 EVのギヤボックスハウジング表面の振動測定例

 システムモデルにおける振動解析を可能とするには計算時間を短くし、かつ有効な解を得ることが重要である。 これを実現するためにMASTA では周波数領域で計算を行う。
MASTA では以下の手順でシステムモデルにおけるNVH特性を計算する。①伝達誤差を算出。②ギヤのかみ合いで分割し、入力側と出力側コンプライアンスから動剛性を算出し、ダイナミックメッシュフォースを算出。③これを起振力としてシステムの振動応答を確認する。

 起振力となるダイナミックメッシュフォースはギヤかみ合いの入力側のコンプライアンス、出力側のコンプライアンスが等しいとき、すなわちシステムのコンプライアンスが小さいときに発生する。
しかしながら位相が合っていないときはコンプライアンスが低くてもダイナミックメッシュフォースが高くならないことがある。
 そのため起振力であるダイナミックメッシュフォースを最小化する際にはコンプライアンスの大きさ、位相について細かく把握、理解する必要がある。

図2 入力側、出力側コンプライアンスと固有振動モード

 コンプライアンスを理解する上で重要な要素となるのが、キーとなる固有振動モードの把握である。 図2のように、コンプライアンスが高いところに固有振動モードが現れるため、その固有振動モードを確認するこ とで、システム中のどの部品がコンプライアンス、ひいては起振力の特性に影響しているのか?がわかる。
この例においては緑色の線の出力側で、出力側の固有振動モードとして中間ギヤブランクの固有振動モードが2 つ 出てくる。
これらの固有振動モードの周波数を変えることで運転条件の周波数帯から高いダイナミックメッシュフォースを除去することが可能である。

 弊社で行ったEV のギヤボックスの事例では、ギヤブランクのウェブ厚を変化させたときのNVH 特性への影響を 確認した。
10mm を基準に5mm に薄くしたものと、15mm から30mm まで厚くしたもののNVH 特性を調査した。
ウェブ厚の変更には様々なトレードオフの関係が存在。
ウェブ厚を薄くすると、重量は軽くなるが、剛性が下がり、ギヤのミスアライメントは増加する。その結果として伝達誤差も増加し、ダイナミックメッシュフォースを高くする要因となる。
その一方で、コンプライアンスが高くなることにより、ダイナミックメッシュフォースを低減する可能性が高く なる。
さらにギヤブランク形状が変わることで、伝達関数が変化するため、システムのNVH 特性も変化する。

図3 ウェブ厚違いによるコンプライアンス、ダイナミックメッシュフォースの比較

 ウェブ厚が15mm 以上では固有振動モードは6.1kHz以上の高い周波数域にあり、運転条件範囲外に存在してい る(図3)。 しかし、運転条件範囲内ではウェブ厚の厚いギヤブランクはコンプライアンスが低くなり、高いダイナミックメッ シュフォースをもたらす。
このようにコンプライアンスの特性にギヤブランクが影響する場合、ギヤブランク形状の修正はNVH 特性のチューニングにも用いることができ、ダイナミックメッシュフォースを低減、運転条件の外へピークを除外することも可能である。
ここまではNVH 特性に焦点を当てていたが、ギヤブランク形状の修正はギヤかみ合いミスアライメントを変動させるため、ギヤの強度、耐久性にも注意が必要である(図4)

図4 ウェブ厚違いによるギヤかみ合いミスアライメント

 コンプライアンスは図5 において黒色の破線が入力側、ウェブ厚毎に色分けした出力側を示す。基準の10mmの赤色の線に対し、5 mmの緑色のコンプライアンスは特性が変化し、入力側のコンプライアンスとの交点の位置も5.4kHz 付近へと移動した。
15mm、20mm、30mm も10 mmに対して特性は変化し、交点が4.6kHz 付近へと移動したが、これら3 つの間では大きな変化はない。
次にダイナミックメッシュフォースを確認する。
コンプライアンスと同様で、基準の10mm の赤色の線に対して、5mm の緑色の線は5.4kHz 付近でダイナミックメッシュフォースのピークを持ち、15mm、20mm、30mm は4.6kHz 付近でピークが発生する。このことはピークの周波数を変化させる、コントロールすることが可能といえる。
システムレベルにおいては目標とする周波数領域における音響パワーレベルを低減することができた。ギヤの起振力を把握し、対応を見極めることで、周波数と音響パワーレベルを管理することが可能であることが確認できた。

図5 ウェブ厚違いによる振動応答結果

まとめ

 EV における高いNVH 特性の要求に対して、従来のような起振力に対するアプローチだけでは検討が不十分であり、システムの振動応答での評価がより重要である。
今回示したようにシステム全体での検討を行うことにより、試作、実験を行う前にNVH 特性を改善した仕様を検討することができ、設計プロセスの改善、現在抱えている問題の解決をもたらす。また、トラブルシューティングにより発生する費用、時間の削減が期待される。
この改善手法を用いることで、これまで製造側で高い精度を出して対応していた内容や、防音材、吸音材を使用して対応していた内容についても不要とすることが可能で、製造コストの低減も期待できる。

 SMT は、ギヤ・軸受を活用したシステム全体でのシミュレーション ソリューションの提供、伝達誤差測定ソリューションの提供、コンサルティング、受託解析などを行っております。
本内容、MASTA のお問い合わせがありましたら、下記連絡先までお気軽にお問合せください。

2018年9月1日発行
自動車技術2018年9月号 広告企画
次世代パワートレイン開発を支える最新技術より転載

  


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