最前線コラム

失敗しないモデルベース開発 あなたにあったプラントモデリングツールとは?【サイバネットシステム】

自動車業界を中心に導入が進められている「モデルベース開発」だが、うまく運用するためには技術的にも業務フロー的にもいくつかの越えなければならない壁があると言われている。サイバネットシステム(以下サイバネット)ではモデルベース開発を実践されている企業に様々なサービスを行なっているが、要となるモデルの運用で躓くケースが多い。理由はモデルに対するニーズが複雑であることにつきる。モデルベース開発は“モデルを使うことで共通認識が得られるため、各担当者間でのコミュニケーションが容易になり、意思疎通が図りやすくなる(※1)”ことが利点であるが、意思疎通のためにモデルの可読性は高くという要求がある一方、企業間では中身はブラックボックスにしておきたいといった相反するニーズも高い。またモデルの詳細度についても、解析対象が異なればおのずから要求が異なってくる。こうした複雑なニーズを満たすモデルを作るためにはどのような視点をもってモデリングツールを選れば良いのか、本コラムでは、そのポイントについて述べる。

ポイント1 : 作りやすさ

作りやすいモデリング手法として,GUIを用いたブロックダイヤグラムを用いる場合も多い。ここでの大きな問題点は,ブロックダイヤグラムがデータフロー型と呼ばれるような物理量を持たないモデリング言語である場合,できあがったモデルに対し平衡状態を保証していないことである。これを因果的(causal)なモデリング環境という。モデル作成者は、実際の物理現象の要である平衡状態(作用・反作用)を自身で考え、明示的にモデリングする必要がある。この場合、出来上がったモデルの良し悪しは個人の力量に依存する恐れがあり、またモデルの中身を第三者が理解しにくいといった欠点をもつ。
一方,一般的な物理現象のシミュレーション環境では電気や力,熱といったモデルに対し平衡状態を自動的に満足するようなモデリングが可能となっている。これを,非因果的(acausal)なモデリング環境という。言い換えれば,「物理を理解できるモデル」といっても良い。例えば,電気だと各接点での電流値の合計が0となるようなキルヒホッフの電流則に相当し,機械的には力の釣り合いを自動的に満足させることに対応する。このような非因果のモデリングでは電圧印可のモータモデルと,ロータトルクを与える発電機のモデルの関係が陰的に表現できる。これにより,入出力関係を特に意識することなく平衡状態を実現できる。こうしたモデリング環境であれば個人の力量に依存することなく、直感的なモデリングが可能だ。
なお、サイバネットで扱っているMapleSim は、非因果的モデリング環境であり、GUIを用いたモデリング以外にも、論文や文献の数式を入力するだけでカスタムコンポーネントを作成できるという機能も持っている。数式を入手できればモデルが作れるため、各ツールに既存のコンポーネントが無いような最先端の研究にも適している。

ポイント2 : 可読性

可読性には二つの要素が関連している。それは,モデルそのものの見やすさと,ドキュメントとの一括管理である。構築したモデルの見やすさはモデリング言語の仕様に依存するが,最近のGUIを用いた非因果の物理モデリング環境では実対象との比較が容易なものが多い。しかしGUIによるモデリング環境でも個々のモデルに対しドキュメントの一括管理の重要性は残る。通常コメントなどで対応する場合が多いが,本来モデルの持つ詳細度,支配方程式,前提条件,改版履歴などをモデルの中に持つことは重要である。ときにはモデルの特性を単体でテストした過渡応答特性や周波数応答特性などもモデルの中に持たせることができればさらに可読性が良くなる。最近このようなモデリング技術が実現できる環境もMapleSimなどのツールで整ってきた。

ポイント3 : 再利用性

モデルは再利用できることが望ましい。一度作り,検証が終わったモデルについては資産としてライブラリの形で有効活用したい。自部署だけでなく,会社全体あるいは会社間をまたいだモデル活用の要求もある。このためにはモデル同士を接続する場合の入出力関係の定義が重要となる。それに加えて,システムを構築していく場合,異なる物理量が混在しないように気をつける必要がある。例えば,電源からの出力は電気回路として接続されて,回転運動などの機械的な接続は不可能であるべきである。これは最近の物理シミュレーション環境では満足されているが,さらに今後は,モデルの接続に属性を持たせ,より間違いを減らす考えも必要となってくる。
またモデルの流通には隠蔽化/暗号化が必須条件となる。モデルの中身は技術・ノウハウの固まりであるため、外部に出せない情報を内包している。しかしこれをブラックボックス化することが出来れば、利用者は内部の詳細情報を知ることなくモデルの振る舞いだけを利用できる。

ポイント4 : HILS への適用(精度及び計算速度)

モデルは拡張性に対して柔軟であることが望ましい。ここでいう拡張性とは例えばHILS(Hardware In The Loop Simulation)や,組み込みシステムへの適用を指す。HILS 用モデルは必要な精度を持ち、その半面、実時間でシミュレーションをするために高速でなければならないという制約があり、そのため実際にはモデルの詳細度を落として利用することがよくある。MapleSim は大規模な数式で定義された物理モデルでも、数式処理機能によって自動的に冗長な数式を除去し、数式の意味としては厳密に等価なまま適切な形に変換する。あるエンジンモデルの数式簡単化では、計算精度を保証した上で、2300個の方程式を150個に削減し、計算時間が10分の1になった例もあった。物理モデルをリアルタイムでシミュレーションするための計算量を低減した上で、HILS用モデルの詳細度の向上や、大規模化のために、このMapleSimの数式処理技術を活用したアプローチが非常に有効である。

ここではモデリングツール選びで必要な主な4つのポイントをあげてみた。その他、モデリングツールを選ぶ際にはその元となる言語(Modelicaなど)にも注目したい。サイバネットでは、モデリングツール「MapleSim」を販売・サポートするとともに、モデリングサービスやMATLAB/Simulink との連携サービスなども行なっている。5月末には「MapleSim」ユーザ(日産自動車、マツダなど)の方に導入事例を発表頂くフォーラム(※2)も予定しているので、興味ある方は是非参加頂きたい。ご来場の方のその場でのご相談にも、出来るだけ応じていく予定である。

※1
JMAAB(Japan MATLAB Automotive Advisory Board)用語集

※2
本フォーラム(Maple Techno Forum 2012)は終了しました
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