最前線コラム

最先端光技術を駆使した 「ひずみ・温度の分布計測」と「色・素材の判別」【富士テクニカルリサーチ】

 近年、レーザー機器をはじめとした光学機器の発達により、光の特性をうまく活かした多くの機器が商用化されています。 高度なアルゴリズムにより多彩な分析ができるようになったことと、ハードウェアスペックの向上によって、多種多様な物理現象をリアルタイムでより詳細に把握できるようになりました。
 本稿では、光ファイバをセンサとして活用し、「ひずみ」と「温度」の分布型計測を可能とした光ファイバセンシングシステム「FBI-Gauge」と、肉眼では難しい「色」と「素材」の違いを検出するハイパースペクトルカメラ「OCI-Analyzer」の概要、計測事例を紹介します。

1.分布型光ファイバセンシングについて

 光ファイバセンシングシステム「FBI-Gauge」は光ファイバそのものをセンサとして活用した「ひずみ」「温度」を計測するシステムです。「ひずみ」や「温度」変化に起因する光ファイバ内の微小な屈折率の変化量と位置を検知することにより、空間分布的な計測を可能としました(図1:機器外観)。

図1 「FBI-Gauge」機器外観

 センサである光ファイバは最長50m の距離を、最小1mm ピッチで計測することができます(表1:ハードウェア仕様)。そのため、ひずみゲージや熱電対のような点計測とは異なり、線計測、面計測といった分布計測を行うことが可能です。この利点を活かし、対象物上に設置した光ファイバに沿って、ひずみや温度の「ピーク位置」や「勾配」を把握することができるようになりました。


表1 「FBI-Gauge」ハードウェア仕様

  

ハードウェアタイプ ODiSl – A ODiSl – B OBR
最大サンプリング 2.5Hz 250Hz 0.3Hz
最大計測点 50,000 3,906 200,000
計測ピッチ 1mm、任意に設定、
実用5mm程度
2.56mm 任意に設定、
実用10mm程度
ファイバ長さ 50m
(にわたって全域を計測)
10m
(にわたって全域を計測)
2km
(にわたって全域を計測)
最大ひずみ 10,000μ Strain 10,000μ Strain 1,250μ Strain
ひずみ繰返し精度 ±2μ Strain ±5μ Strain ±1μ Strain
最大温度 -50~300℃
(通常)
  
-200~800℃
(金コーティング)
-50~300℃
(通常)
  
-200~800℃
(金コーティング)
-175~175℃
温度繰返し精度 ±0.2℃ ±0.4℃ ±0.5℃

 詳細な分布計測ができる一方で、大量のデータを処理することはユーザーの課題です。1 回の計測で50,000 点(長さ50m を1mm ピッチで計測時)の計測データを取得する「FBI-Gauge」では、大規模データに対応した専用のデータ処理ソフトウェアを備えています。下記の3 つの特長的な機能が迅速なデータ処理と可視化を実現しました。
 ① フィルタリング等のデータ処理機能
 ② 3 次元コンター図可視化機能
 ③ 2 次元、3 次元グラフ可視化機能
  
 データ処理機能は大規模なデータを高速にノイズ処理する機能です。 移動平均やローパスといった処理も簡単に行うことができます。
 コンター図可視化機能はあたかも数値計算の結果のようにコンター図として表示することができる機能です。表現を工夫することにより、直観的に「ピーク位置」を把握し、「勾配」を可視化することが可能です。
 グラフ可視化機能は軽快な操作性を持ち合わせたグラフ機能です(図2:3 次元グラフ)。任意の位置で断面グラフを作成したり、ピーク位置同士の値を算出したりと分析を支援する細かい機能が充実しています。


図2 3 次元グラフ

 このように「FBI-Gauge」では、対象物の「ひずみ」や「温度」を分布で計測し、容易に可視化する機能を有し、従来の計測手法とは違った特長を持っています(表2:特長)。


表1 「FBI-Gauge」ハードウェア仕様

  

分布計測を行うことにより「ピーク位置」や「勾配」を確認可能。
センサ部分に電気を使わないため、電磁波環境や火気厳禁環境でも使用可能。
光ファイバはφ155μm と細く、柔らかいため自由なレイアウトで設置可能。
1ch で多点計測が可能なためセンサコストの大幅削減と設置作業の簡易化が可能。

2.ラジエータ表面の温度分布

 「FBI-gauge」による分布計測の具体例として、走行テスト時のラジエータの温度計測事例を紹介します。通常、ラジエータの温度計測は1、2 点の場合が多く、ピークの位置を捉えられているか確認できません。実際はラジエータ内部にも温度ムラがあり、熱だまりの位置の把握や冷却効率検討のために温度分布を計測しました(図3:ラジエータ表面の温度分布)。分布で計測することにより、ピークの位置が時間によって変化する場合でもしっかりと捉えることができます。

3.ハイパースペクトルカメラについて

 ハイパースペクトルカメラ「OCI-Analyzer」は、可視光から近赤外線の幅広い領域を細かい波長域毎に区分けし、それぞれの波長域における反射光強度(反射スペクトル)を取得することができるカメラです。従来、衛星画像用など大型の機器が中心だったのですが、「OCI-Analyzer」は小型で軽量(190g)、持ち運びが容易です(図4:機器外観)。


図4 「OCI-Analyzer」機器外観

 一般的なCCD カメラは、可視光をカラーフィルター等で、赤・緑・青に分光し、それぞれの光強度を取得することで、画像を得ています。これに対しハイパースペクトルカメラは、回折格子等で分光し、非常に狭い波長域毎に光強度を取得することができるため、 肉眼では識別困難な僅かな色の違いを判別することができます。
 また、可視光領域だけではなく、近赤外線(750nm – 1700nm近傍)領域の光も取得することができるため、材質に起因する赤外 線の吸収を分析することで、対象物の材質を知ることが可能です(表3:特長)。


表3 「OCI-Analyzer」の特長

  

可視光から短波赤外領域(SWIR)までの広い波長領域を撮影可能。
波長ごとの時間ずれのない撮影が可能(スナップショット方式)
大幅な小型化と軽量化(190g)を実現。
対象物の反射・吸収スペクトルを取得し、物性や状態変化を捉えることで、異物 混入・劣化を可視化。

4.液体識別と検出

 人の目に見える可視光領域では透明な液体も、その多くが近赤外領域では吸収波長帯を持ちます。さらに、吸収の顕著な波長帯やその強さは液体の種類により異なるため、吸収スペクトルを分析することにより、液体の種類を同定することが可能です。 これを利用し、ハイパースペクトルカメラでは、液体の検出・識別をすることができ、さらに吸収の度合いから液の厚さ(奥行寸法)を定量的に計測することもできます(図5:液体の識別)。


  
図5 液体の識別

5.塗装色の判別

 自動車分野で従来、官能評価によって行われている塗装検査等に対し有効なツールとして本機を用いることができます。例えば、一見同じように見える塗装色でも、各波長の反射率をハイパースペクトルカメラで捉え、反射スペクトルをデジタル値化することで、その違いを定量的に評価することが可能です(図6:赤色塗装の反射スペクトル)。


図6 赤色塗装の反射スペクトル

6.おわりに

 高機能な光学機器も次々に小型・軽量化され、ラボの中でのみ使用されていた機器が、現場で持ち運び可能となる等、その進化は留まることがありません。現場で使えるスピード感や従来とは異なる対象・用途といった気づきは必ずやユーザーの一助になると信じています。今後も弊社の計測技術を駆使して、製造業が抱える多様な問題の解決につなげられるよう尽力いたします。


株式会社富士テクニカルリサーチ
技術本部 P&M 部
ソリューション開発部 要素技術開発室 小石 章太郎
TEL 045-650-6650 ㈹  URL http://www.ftr.co.jp
2017年4月1日発行
テスティングツール最前線2017より転載