最前線コラム

市場調査要求の拡大と計測技術 「不具合の早期発見と対策の実施」【東陽テクニカ】

1980年代後半から自動車は大きな変化を遂げてきた。エアバッグやABSを始めとする様々なインテリジェントパーツが車両に組み込まれ、電子制御技術が用いられるようになった(図1)。電子制御技術にはコンピュータならびに組込ソフトウェアが用いられており、機械的(メカニクス)な技術から電気的(エレクトロニクス)/電気機械的(メカトロニクス)な技術へとシフトしてきた。今後もエレクトロニクスに寄与した自動車の技術革新は継続し、近い将来ステアリングやブレーキ、アクセルなどの機械的構造部品もワイヤリング(通信信号線)による制御(X-BY WIRE)になるだろう。

ソフトウェアの品質向上

電子制御技術の増加に伴い、車両制御が複雑化したため、近年では組込ソフトウェアの品質が大きく取り上げられるようになった。組込ソフトウェアの品質低下は不具合の発生要因となり、市場での不具合は事故につながる危険性がある。そのため、組込ソフトウェアの品質向上に各社が力を入れているが、開発段階で全ての不具合要因を取り除くことは極めて難しい。また、開発期間中に実車両を用いて全ての走行パターンを検査することは実質不可能でもあるため、シミュレーション技術が不可欠になるが、実際には特別な条件が重なった時だけ発生する不具合など、想定外の条件が存在し、これらを事前に検出することは困難と言える。そこで、実際に市場を走行する車両からのデータを大量に回収し、品質保証監査部門を経由して開発部門へとフィードバックすることで、現行車両への対策実施と、新規開発車両への対策組込が必要になる。回収するデータとしては、車両自体のデータ、お客様(車の利用者)からのアンケート結果、サービス・メンテナンス部隊からの報告の3つであり、これらを統合的に解析する必要がある(図2)。

車両から回収するデータ

市場走行車両からデータを回収する際、考慮しなければならないのが、どのようなデータをどうやって回収するかである。前述のように、近年では様々な制御技術が導入されたことにより、それぞれの制御技術が密接に関連するようになった。これにより1つのパラメータは他の複数のパラメータに依存して状態が変化するようになっている。そのため、関連するパラメータ全てを同時に計測しなくては不具合の原因を解析することができない。車両のあらゆるパラメータを測定する方法として有効になるのが、CANバスおよびCANバスを利用した診断プロトコル(KWP2000 on CAN, CCP, XCP on CAN)である。各種コントローラの制御情報をCANバスから取得すると同時にコントローラのRAM情報までも計測することで、車両状態(車速、ブレーキスイッチのON/OFF、操舵角など)や制御状態(コントローラへの制御指令)を把握することができる。そのためにはCANバスおよびCANバスを利用した診断プロトコル(KWP2000 on CAN, CCP, XCP on CAN)を多チャンネルで計測できる計測器を搭載する必要がある。しかし、計測器を全ての市販車に搭載することは不可能であるため、モニター車に限定して搭載する必要がある(図3)。

迅速なデータ回収要求

車両からのデータは素早く回収しなければならない。なぜならば、データを素早く回収することで、解析結果を導くまでの時間が早くなり、現行車両への早期対策が実施できると同時に、新規開発車両への対策フィードバックも早めることができるからである。  ここで、なぜ車両状態(車速、ブレーキスイッチのON/OFF、操舵角など)や制御状態(コントローラへの制御指令)を把握する必要があるかを説明するために、ハインリッヒの法則を例に挙げてみる(図4)。ハイリンッヒの法則とは、「1件の重大事故の背後には,29件の軽微な事故があり、その背景には300件のヒヤリ・ハットがある 」というものだ。自動車の不具合においても、30件の不具合(重大な不具合1件+軽微な不具合29件)は300件のヒヤリ・ハットからくるものであれば、ヒヤリ・ハットの状態(不具合ではないが、車両が想定外の状態になっている)を迅速に検出し、解析することで、不具合を未然に防ぐ確率が上がると考えることができる。

データ回収方法

車両からのデータを素早く回収するためには、モニター車を数百台規模で準備する必要がある。なぜならば、不具合の発生条件がわからない状態では、いつどこでどのような不具合が発生するかもわからないため、複数の地域で同時にモニター車を走らせなければならないからである。また、台数を増やすことで不具合の検出確率を上げることもできるからである。しかし、複数の地域で同時に数百台の車両からデータを素早く回収することは、人手を使っていては実現できない。そこで、インターネット通信を利用することが解決案であると考える。近年の通信技術の大幅な向上により、電話回線を利用したインターネット通信を用いて遠隔でのデータ回収が可能となっている。この通信を利用し、逐次車両からのデータをサーバにアップロードすることで、複数の地域を走行する数百台の車両から素早くデータを回収することが可能になる(図5)。

ここで問題となるのが、インターネットを介して送信するデータ量である。通信技術が向上したとはいえ、大量のデータを一度にサーバにアップロードすることはできない。しかし、計測データを減らすことは不具合検出確率を下げることになるため、避けなければならない。そこで考えられる技術がDSP(Digital Signal Processer = FPGA)を用いたリアルタイム信号処理技術である。計測器にDSPを内蔵し、計測データをリアルタイムに演算することで、送信データ量を大幅に軽減することができると同時に、サーバには1次解析処理結果がアップロードされるため、クライアントPCによるデータ解析時間も軽減することができる(図6)。

今後も制御技術が増加することで、制御がさらに複雑化するため、ここで紹介したように不具合を早期に割り出し、対策を実施しなければならない。

[株式会社東陽テクニカ 営業第2部 草村 航]

(テスティングツール最前線2010より転載)