最前線コラム

インテリジェントなLEDヘッドライト実現へ: TIのLEDマトリクス・マネージャIC【日本テキサス・インスツルメンツ】

 LEDが自動車のヘッドライトに採用されたのは2007年のことだ。
 従来のハロゲン電球やHID(High Intensity Discharge)電球に比較した際のLEDヘッドライトのメリットは大きく2つある。1つは、消費電力を減らせるため、バッテリ(車載電池)の負荷を軽減できることである。もう1つは、小型化できることだ。デザインの柔軟性が大幅に高められる。
 こうした2つの大きなメリットが高く評価され、高級車から採用が始まり、着実に勢力を拡大している。

新たな方向性が登場

 こうした市場環境の中で、新しい1つの方向性が登場した。それは「マトリクスLEDヘッドライト」と呼ばれる技術である。
 一般的なLEDヘッドライトでは、遠方を照らすハイビームと、近場を照らすロービームを切り替える機能を備えている。しかし、これ以上のインテリジェントなライティングは実現できない。これを変革させるのがマトリクスLEDヘッドライト技術である。
 具体例を挙げて紹介しよう。例えば、前方から対向車が近づいてきたとする。ハイビームのままだと、対向車の運転手は非常にまぶしい。運転に支障を来すかもしれない。そこで、センサ技術を使って対向車の有無を判別し、近づいてきた場合は対向車の運転手を照らすLEDの輝度を低下させる。それ以外のLEDは、それまで通りの輝度で照らす。こうすることで、走行に必要な十分な明るさを確保すると同時に、対向車の運転手の安全も確保できるわけだ。

専用の制御ICを投入

 今後、マトリクスLEDヘッドライト技術はさまざまな自動車に適用され、市場規模は拡大して行くだろう。

 こうした新市場に向けて、テキサス・インスツルメンツ(TI)は専用制御IC『TPS92661-Q1(図1)を発表、LEDマトリクス・マネージャと呼んでいる。1個のICで最大12個のLED素子を直列に接続したLEDモジュールを制御できる。最大駆動電力は3W。複数のICを並列に接続して使用することも可能だ。並列に接続できるICは最大8個である。従って、最大で96個のLED素子を制御できることになる(図2)

図1
TIの『TPS92661-Q1』LEDマトリクス・マネージャIC

  

  

  

  

  

  

  

  

図2 『TPS92661-Q1』LEDマトリクス・マネージャのデモ


『TPS92661-Q1』LEDマトリクス・マネージャIC を使えば、96個のLED素子を駆動できる。

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

 『TPS92661-Q1』を使って構成したマトリクスLEDヘッドライトのシステム図が図3である。LEDマトリクス・マネージャのほか、ホスト・マイコンや、LEDモジュールに電力を供給する電源回路などから構成される。LEDマトリクス・マネージャは、LED素子のオン/オフ制御のほか、10ビット分解能のPWM信号や位相信号を使って輝度を制御することも可能だ。こうしたPWM信号や位相信号は、8チャネルのシリアル通信インターフェイス(UART)を介してAEC-Q100車載規格準拠『C2000™』Piccolo™などのホスト・マイコンから送られてくる。

  

図3 マトリクスLEDヘッドライトのシステム構成


『TPS92661-Q1』マトリクス・マネージャICのほか、ホスト・マイコンや電源回路
(定電流源)などで構成する。

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

 LEDマトリクス・マネージャには、LEDドライバ機能は搭載していない。このため、LED素子に電力を供給する電源回路が必要になる。入力電圧は、車載バッテリの出力である12Vである。これを昇圧型DC/DCコンバータを使って、50Vと高い電圧に変換する。その後、降圧型DC/DCコンバータを使って定電流の電力に変換してLEDモジュールに供給する。なお、降圧型DC/DCコンバータは、使用するLEDモジュールの個数(チャネル)だけ必要になる。

高い信頼性を実現

 LEDマトリクス・マネージャには、重要な機能がもう1つ搭載されている。それは、直列に接続した12個のLED素子に対応した12個のバイパス・スイッチである。一般に、直列に接続したLED素子のうち、1個でもオープン(開放)の状態で故障すると、LEDモジュール全体が点灯しなくなる。この事態を回避する役割を果たすのがバイパス・スイッチである。オープンの状態で故障したLED素子を検出すると、そのLED素子に対応したバイパス回路をオンにする。こうして電流経路を確保することで、残る11個のLED素子を点灯できるようにする。
 LED素子の故障情報は、UARTを介してホスト・マイコンに通知される。この情報を受け取ったホスト・マイコンは、定電流源である降圧型DC/DCコンバータに対して出力電流を増やすように指示を出す。こうして、11個のLED素子でも12個と同じ輝度が得られるように制御する。ただし、故障したLED素子が増えれば増えるほど、緊急措置での対応が難しくなる。その場合は、ホスト・マイコンからアラート信号を出力し、自動車のユーザーに修理を促すといった対応が可能だ。
 今回紹介したインテリジェントなLEDヘッドライトは、まだ市場に登場したばかりだ。しかし採用すれば、機能性や安全性などの点で大きなメリットが得られる。今後、市場の急拡大が期待される。

  

[関連リンク]
●LEDマトリクス・マネージャIC『TPS92661-Q1』について
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