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塗布プロセス装置内部の“流れ”を解析する技術を開発【大日本印刷】

2011年8月24日

高速かつ高精度なシミュレーションにより装置・製品開発のリードタイム短縮が可能に

大日本印刷株式会社(本社 : 東京 社長 : 北島義俊 資本金 : 1,144億円 以下 : DNP)は、フィルムやガラスなどの基材上に液状の材料を塗布する「塗布プロセス」において、液状の材料が装置内部でどのような動きをするのか、その流動現象を高速かつ高精度にシミュレーションする技術を開発しました。本技術により、塗布装置や塗布装置を使用した製品の開発期間が、半分以下に短縮可能となります。

開発の背景

塗布プロセスは、フィルムやガラスなどの基材に液状の材料を塗布し、精密な薄膜を形成する手法で、真空蒸着で、基材に材料を定着させるなどの手法に比べ低コスト化が可能です。このため、液晶カラーフィルター光学フィルムといった電子部品や光学部材の製造手段として広く用いられていますが、昨今これらの製品の薄型化・高機能化にともない、塗布した材料のより高度な膜厚精度が求められるようになりました。膜厚精度を高めるためには、その大きな決定要因の一つで、塗布装置内での液体材料の流れ方である流動現象を的確に把握する必要があります。

これまで流動現象を予測するには、計算方法が複雑で算出までに時間を要する3次元数値解析手法である有限要素法(FEM : Finite Element Method)などを用いることが一般的でした。しかし、その解析結果は精度が十分ではなく、塗布装置を使用した実験を繰り返し行うことで精度を高めていく必要があり、その都度塗布装置に取り付ける金型を製作するため、塗布装置や製品の開発コストが増え、期間も長期化するという課題がありました。

DNPはこの課題の解決に向けて、数値流体力学(CFD : Computational Fluid Dynamics)理論を用いた独自の高速演算手法を開発するとともに、解析の精度や安定性を高めるための先端解析手法を導入し、複雑な流動現象を高速かつ高精度に解析する手法を開発しました。これにより、流動現象のシミュレーションにかかる計算時間を短縮するとともに、実験回数を減らすことができるため、装置や製品の開発期間を従来の半分以下に短縮することが可能となります。

新技術の概要

1. 高速化手法の開発
以下の手法により、計算の高速化を実現しました。

a) 3次元流動方程式の1次元化  :
流動の主流方向に垂直な面上で積分することで、流動の厚みと流量を変数とする1次元方程式での計算を可能としました。

b) 混合数値演算法の導入  :
計算速度に優れた「緩和法」と、収束速度に優れた「直接法」の利点を取り入れた独自の演算スキームを開発しました。


2. 高精度化手法の導入
以下の手法により、解析精度を高めることに成功しました。

a) 外乱応答解析法の採用  :
塗布装置の形状や稼働時の運動における誤差を考慮した流動現象のシミュレーションを行う手法を導入しました。寸法や回転速度など塗布装置に必要な精度を、装置実験を行うことなく見極めることが可能となります。

b) 高精度離散化手法の採用  :
流動の移流方程式を差分化して解く際に生じる不安定さを回避するために、離散化手法である「Kawamura-Kuwaharaスキーム」を導入しました。これにより、近似精度を高めながら数値拡散をする事で精度と安定性を両立させました。

今後の取り組み

今回開発した技術を応用し、DNPが製造する包装フィルムや光学フィルム、液晶カラーフィルターなどの薄膜形成のプロセスにこの解析技術を導入し、品質向上とスピーディーな新製品開発に取り組み、業績拡大につなげていきます。

なお、この研究成果について単行本を今秋出版する予定です。

タイトル
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コーティングと数値解析
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著者
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津田 武明(DNP技術開発センター)
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発行者
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加工技術研究会
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出版日
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2011年11月予定
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価格
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未定
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