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産業用チタン合金の低コスト化・生産性向上技術を開発【NEDO】

2012年9月14日

―航空機・自動車、民生品など用途拡大へ―


NEDOの若手研究グラント(※1)の一環として、東北大学は、ニッパツ(日本発条㈱)とともに、産業用チタン合金の低コスト化と生産性向上を可能にする技術(超塑性加工)の開発に成功しました。
従来のチタン合金の成形方法は、高温・低速変形で加工するため、生産性が低く金型の寿命が短いという問題がありましたが、α′プロセッシングと呼ばれる独自開発の加工技術で結晶粒径を適正に制御することにより、低温・高速変形において複雑形状への製品成形が容易になりました。製造コストは従来の半分以下に低減、生産性は10倍以上と大幅に向上する見込みです。
今回の技術開発により、チタン合金が航空機用、自動車用、一般民生品用などへ広範に実用されることが期待されます。

この成果は、9月19日に日本金属学会秋期講演大会(愛媛)で発表します。

(※1) 産業技術研究助成事業(若手研究グラント)

(※2) 超塑性特性とは多結晶材料の変形過程(引張)において変形応力が高いひずみ速度依存性(ひずみ速度感受性指数mが0.3以上)を示し、数百%以上の巨大伸びを示す現象であり、金属素材の複雑形状へのネットシェイプ塑性加工を可能とする。

1. 背景

チタン合金は比強度が高く、耐食性に優れるために、航空機分野、化学プラントなど多様な分野に広く使用されています。その中でも機械的性質のバランスが良いTi-6Al-4V合金が最も多く使用されています。しかしチタン合金には、切削加工や塑性加工が難しい、低熱伝導率による焼き付きが生じやすい、などの問題があります。これらの問題を解決する方法として超塑性現象を利用した加工があり、特に航空機分野において実用されております。更に航空機用においては、現在注目されている炭素繊維との相性の良さからチタン合金の使用率が年々高まっており、今後もその需要は増加することが予測されています。
ところが従来のTi-6Al-4V合金の超塑性成形は、800℃以上の高温、かつ10-4s-1~10-3s-1の低速ひずみ速度下の変形条件で行われるため、生産性が低いという問題を抱えていました。更に、高温での加工のため金型の寿命が短い欠点もありました。そのため、Ti合金の超塑性現象発現の低温化と高速化が強く望まれており、それが可能となれば航空機だけでなく自動車用、化学プラント用、更には一般民生品用へ用途が拡大していきます。
そのためチタン合金の超塑性成形の低温化と高速化が強く望まれており、これを目指した研究開発は多数行われてきました。しかしながら、既存のTi-6Al-4V合金に比べて、信頼性の不足や加工コストが高い等の問題により、実用化に至っていません。そのため、既存のTi-6Al-4V合金で、従来の加工工程を使用でき、コストを抑えた新規な技術の開発が強く望まれて来ました。

2. 成果の特徴

松本洋明助教(東北大学 金属材料研究所)は2008年に、同所の千葉晶彦教授とともに、当時世界的にほとんど注目されなかったチタン合金のα′マルテンサイトに注目した独自のTi合金の組織制御・加工技術“α′プロセッシング”を開発しました。2009年には、α′プロセッシングの加工条件を最適化することで、多量のひずみを要さずとも、粒径0.5μm以下の均質な超微細粒組織を形成させる技術の開発に成功しました。この技術は、既存の加工技術を適用でき、更に加工コストも低減できることから、チタン合金の加工技術において新しい展開を切り拓くものです。また、本技術によりTi合金の多種多様な力学特性の高機能化が実現できることから、チタンのリサイクル技術応用に対しても貢献すると期待されます。

(1) 独自加工技術“α′プロセッシング”によるTi-6Al-4V合金の結晶粒微細化
Ti合金におけるα′マルテンサイト相は準安定相であり、針状の微細組織を示し、内部には多量の欠陥が含まれているのが特徴です。この特徴を利用して、適切な熱間加工条件で加工を施すことにより、従来の(α+β)組織を加工した場合に比べて、均質な微細粒組織が得られます。この組織形成に伴い、従来に比べて高強度化、耐疲労特性など様々な特性が向上することを見出しました。この技術は、様々な塑性加工(圧延加工、鍛造加工、棒材加工、線材加工)に展開可能です。例えば適切な圧延加工条件で、粒径0.5μm以下の均質な超微細粒組織を有するTi-6Al-4V合金板材を製造することに成功しました。

(2) 低温-高速超塑性特性の発現
“α′プロセッシング”により圧延製造したTi-6Al-4V合金は、従来の超塑性加工条件に比べて約250℃低い650℃、従来より10~100倍速い10-2s-1の低温-高速加工条件においても、220%以上の巨大引張伸びを示す超塑性特性が発現しました。従来のTi-6Al-4V合金では、同じ条件では超塑性特性を示さず、100%未満の引張り伸びしか示しません。製品成形コストは、従来のチタン合金の場合の50%に低減する可能性があります。これにより、現在はほぼ航空機用に限定されている用途が拡大し、将来は自動車用、化学プラント用、更には一般民生品用へ広範に実用されることが期待されます。

(3) 波及効果
本成果は、チタン合金の製造コスト低減に貢献するため、既に超塑性加工されている製品全般に展開可能です。例えば、航空機用チタン合金部材、自動車用、化学プラント、エネルギー製造用プラント、一般民生品、スポーツ用品などに展開できます。更に本成果の超塑性加工技術は、基本的にTi-6Al-4V合金以外の他の(α+β)型合金※3にも展開可能であり、製造コストの低減に貢献すると期待されます。(※3例えば、Ti-8Mn、Ti-3Al-2.5V、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-7Al-1Mo、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、Ti-5Al-2Cr-1Fe、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Moなど)

3. 今後の予定

今後は“α′プロセッシング”の適用範囲を拡大させ、産業用チタンの製造コスト低減と生産性向上による用途拡大に貢献します。また、チタンのリサイクル技術応用に対しても貢献して参ります。

4. お問い合わせ先

(本プレスリリースの内容についての問い合わせ先)
国立大学法人東北大学  金属材料研究所  加工プロセス工学研究部門  松本洋明
TEL  022-215-2118、E-mail : matumoto@imr.tohoku.ac.jp

国立大学法人東北大学 金属材料研究所  加工プロセス工学研究部門  千葉晶彦
TEL  022-215-2115、E-mail : a.chiba@imr.tohoku.ac.jp

ニッパツ(日本発条株式会社) 広報グループ
TEL  045-786-7513

(産業技術研究助成事業(若手研究グラント)についての問い合わせ先)
NEDO技術開発推進部  若手研究グラントグループ   本田、品田
TEL  044-520-5174

(その他NEDO事業について一般的な問い合わせ先)
NEDO  広報室   遠藤
TEL  044-520-5151  E-mail : nedo_press@ml.nedo.go.jp



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