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自動車表面の風圧分布を瞬時に推定する技術を開発

2022年6月24日

  

自動車表面の風圧分布を瞬時に推定する技術を開発
- 自動運転車の安全性向上と燃費削減に期待 -

  

発表のポイント

・自動車が受ける風圧や風向を瞬時に推定する新しい技術を開発

・感圧塗料による実験と圧縮センシングを組み合わせ、最適化したセンシング位置での数点の圧力情報から
 風向や風圧分布を高精度に推定

・自動運転車において、突風などの外乱に堅牢な制御や空気抵抗を減らす隊列の制御などへの活用に期待

  

概要

自動運転車の技術開発が世界各国で積極的に行われています。安全で安定かつ効率的な自動運転を行うには、自動車が受ける風圧や風向を検知し、それに応じた制御を行うことが重要です。この度、東北大学大学院工学研究科の野々村拓准教授らの研究グループは、自動車などの車体表面の風圧分布と周囲の風向を数点の圧力センサーの情報から推定するための基礎技術およびそのセンサーを設置する場所を最適化する技術を開発しました。

当技術は、周囲の圧力に応じて発光強度が変化する機能性分子センサーを混合した特殊な塗料(感圧塗料注1)を用いて、車体表面の圧力場データを取得し、風圧分布モデルの構築と最適なセンシング位置の選定を事前に行います。そして、実際の運用時にはそれらを用いて、数点の圧力センサーの情報から風圧分布と風向を高精度に推定します。車体に多数の半導体センサーを埋め込む従来の方法とは全く異なる新しい手法で、市販車への実装を容易にできる可能性があります。この技術により、走行中の自動車表面の風圧分布や周囲の風向を瞬時に推定でき、自動運転車の突風に対する安定性の向上や、隊列走行するトラック車列に対して空気抵抗を低減する隊列形態の制御を行うことによる燃費の改善などが期待されます。

本研究成果は、2022年6月22日(米国東部時間)に科学誌「Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics」のオンライン版で公開されました。

  

詳細な説明

走行中の自動車周りには絶えず複雑な風の流れが形成されます。特に、対向車とのすれ違いや追い越し、突風にさらされた場合には非常に激しい風圧変化が起こります。それにより、車体が不安定になり、最悪の場合、横転事故につながる可能性があります。車体表面の風圧および車体周りの風向を瞬時に把握することができれば、安定走行にむけた適切な回復操作が可能ですが、走行中の車体表面上の圧力分布を得る手段は、多数の半導体圧力センサーを車体へ埋込む以外になく、市販車への実装は困難でした。

東北大学大学院工学研究科の野々村拓准教授と井野塲遼馬氏(博士前期課程学生)らのグループは、周囲の圧力に応じて発光強度が変化する機能性分子センサーを混合した特殊な塗料(感圧塗料)による計測実験と、低次元モデル注2/sup>を用いた圧縮センシング注3手法、そしてセンシング位置最適化手法を開発・組み合わせることで、車体表面上の数点に設置した圧力センサーの情報から車体表面全体の風圧分布や風向を高精度に推定する技術を開発しました(図1)。



図1:手法概要:数点の圧力センサーの情報のみから風向および風圧分布を高精度に推定。風圧分布推定においては事前に構築した低次元モデルを用いる。

この技術は、感圧塗料を用いた高度な実験技術と、低次元モデルを応用した独自の圧縮センシング技術、目的に応じたセンシング位置最適化技術の3つが揃うことではじめて実現可能となります。図2に示すように、様々な風向における風圧分布の計測を感圧塗料計測により事前に行い、PODモード分解注4により風向の変化に伴う風圧分布変化の特徴抽出と低次元モデル化を行います。次に、抽出した風圧変化の特徴をもとに風圧分布を効率的に表現する位置を特定し、センシング位置の最適化を行います。実際の運用時には、事前に構築した風圧分布の低次元モデルと最適化したセンシング位置に設置した半導体圧力センサーの情報を用いることで、風圧分布の推定を行います。この独自技術により、平均誤差2.6%という高い精度で風圧分布を推定することを可能にしました。また、車体と周囲の流れの角度推定に有効なセンシング位置での圧力情報を用いることにより、平均誤差3.4%で風向を推定できることもわかりました(図3)。



図2:処理の流れ


図3:結果の一例: センサーペア数2 (センサー数4)で推定した風向と風圧分布

開発した技術により、突風やすれ違いなどにより生じる車体表面上の複雑な風圧分布を瞬時に推定し、その情報を基に想定される空気力に対して適切な運転制御を行うことで、横転などの重大事故を回避できるようになると期待されます。また、自動運転で隊列走行するトラックや乗用車に対して、推定した風圧分布から車体の空気抵抗が小さくなるように隊列の形態を最適化することで、燃費の向上などにつながる可能性があります。

  

付記

本研究は科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR202C)および戦略的創造研究推進事業(CREST:JPMJCR1763、ACT-X:JPMJAX20AD)の支援により行われました。

  

論文情報

タイトル: Optimization of sparse sensor placement for estimation of wind direction and surface pressure distribution using time-averaged pressure-sensitive paint data on automobile model
著者: R. Inoba, K. Uchida, Y. Iwasaki, T. Nagata, Y. Ozawa, Y. Saito, T. Nonomura, K. Asai
掲載誌: Journal of Wind Engineering and Industrial Aerodynamics Volume 227, August 2022, 105043
DOI: 10.1016/j.jweia.2022.105043
URL: https://doi.org/10.1016/j.jweia.2022.105043

  

用語説明

(注1)感圧塗料
周囲の圧力に応じて発光強度が変化する色素(機能性分子センサー)とそれを物体表面に固定するためのポリマーからなる。物体表面に塗装した感圧塗料に色素を励起するための紫外線を照射し、色素が発する蛍光や燐光を画像計測することで圧力の面分布を計測できる。

(注2)低次元モデル
本来複雑な現象をその大まかな特徴に限定して表現するように簡略化したモデル。大勢に影響の小さい詳細な情報を切り捨てる代わりに、計算コストを下げることができる。

(注3)圧縮センシング
観測対象がとある空間では疎である(少ない変数で記述できる)事を利用して、少数の観測から対象を復元する手法。本研究では,PODモード分解により風圧分布を少数の変数で記述できる基底をデータ駆動的に生成し、その空間で風圧分布の推定を行うことで、圧倒的に少ない観測データから風圧分布を高精度に推定する。

(注4)PODモード分解
対象の特徴を効率よく表す基底に分解する手法。本研究では、感圧塗料実験で得られた複雑な圧力分布データから特徴的な構造を抽出し、風圧分布の低次元モデル構築をデータ駆動的に行うために利用する。

  

お問合せ先

< 研究に関すること >
東北大学 大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 准教授 野々村 拓
TEL:022-795-7897
E-mail:nonomura@tohoku.ac.jp

< 報道に関すること >
東北大学工学研究科・工学部 情報広報室
TEL:022-795-5898
E-mail:eng-pr@grp.tohoku.ac.jp

  

  

  

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