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静電容量式と超音波式キック・オープン機能・センシングの比較【日本テキサス・インスツルメンツ】

2017年9月20日

最近、足をかざすだけでトランクが開くキック・オープン機能や駐車支援アプリケーションを見かけるようになってきました。これらの機能を実現するために、車載機器メーカーは静電容量式と超音波式の両方のセンシング方式を使用しています。パッシブ・エントリ/パッシブ・スタート(PEPS)システムの一部として組み込まれるこれらのセンサにより、スライドドアやハッチバック、トランクをハンズフリーで開けられるようになり、利便性が向上します。

自動車の周辺環境の変化を検知する、これらの静電容量式と超音波式センシングにはそれぞれ利点があるので、それらを比較して見ていきましょう。


類似性
まずは類似性について見ていきます。接触せずに対象の有無を認識(非接触型検知)したい場合は、どちらの方式にも利点があります。静電容量式と超音波式は両方とも、隣接する対象を検知するために、発振(振動)波形を利用しています。振動は、静電容量式センシングにとっては隣接する対象物の影響を受ける電磁場の一形態である一方、超音波センシングにとってはエコーを計測するのに必要な対象物に当たって戻ってくる音圧波の一形態です。どちらの方式も、検知される対象物が何らかのエネルギーを発している必要はありません。つまり、センサが信号を認識する際、検知される対象は「パッシブ(受動型)」でも構わないということになります。

キック・オープン機能・アプリケーションは、システムがセンサの周辺環境の小さな変化を見つけようとするその他の非接触測定とは異なり、駐車支援や液面測定の時のように実際の距離を計測する必要もありません。そのため、静電容量式と超音波式の両方式とも、接近する対象物との正確な距離を必ずしも測定することなく、近くの対象物が接近していることがわかります。

反応形式
次に、これら2つのセンシング方式の違いを見ていきましょう。

静電容量式センサの反応は、スカラー量で示されます。静電容量式センサは、一定時間ごとの各サンプルで、計測された静電容量(または可変振動数)を表す単一値を提供します。この単一値は、対象物が単一または複数にかかわらず、検知された全静電容量を示します。図1は、キック動作の間に静電容量式センサで検知された61個のサンプルです。

図1:キック動作中の静電容量式センサの反応例

一方、超音波式センサは通常、時間とエコー振幅の順序対からなるベクトル量で示されます。各対は、トランスデューサと対象物の距離と、対象物の大きさと反射性を表します。そのため、超音波式センサの反応はそれぞれ、各対象物との距離とともに、検知領域内にある1つ以上の対象物に対するものとなっています。計測結果に距離が含まれることで、設計者は特定の範囲に存在する対象物を無視しながら、特定の距離に存在する対象物により多くの注意を払うことができます。図2は、超音波式センサで検知された10の反応ベクトルです

図2:キック動作中の超音波式センサの反応例

センサの設置と感度領域
キック・オープン機能・システムは人間が作動させることから、センシングの設計段階で、センサの感度領域のサイズと形状を考慮しなければなりません。超音波式センサの感度領域は通常、超音波トランスデューサから発する3次元の円すい形をしています。感度領域が短距離のアプリケーションでは、円すい形状ではサイズに制約がありますが、複数のトランスデューサを使用することで、感度領域を拡大することができます。超音波式センサは、単一のセンサを外気にさらすことで初めて超音波エネルギーを効率的に発信し、受信できることから、通常、バンパーカバーに埋め込まれた小さな穴の中など、車のエクステリアに取り付けられます。

一方、静電容量式センサのアンテナは形状を変えることができ、各アンテナ周辺の全方向の容量が感度領域となります。よく見られるのは、感度領域の到達距離を長くするために、円筒形状の感度領域を持つリニア・アンテナを使用するケースです。デフォルト設定では、感度容量に車の車体が含まれますが、地板を追加することで、ライトの点灯やモータの駆動に起因する電場の変化など、車から発せられるほとんどの影響からアンテナを保護することができます。

超音波の盲点
アクティブ・ソナー音を発信する度に、超音波トランスデューサは数サイクルかけて振動を止める必要があります。その間、受信したエコーは全て、現在発信しているアクティブ・ソナー音の振動と間違えられる可能性があります。超音波式センシングには対象を認識するために必要な最短距離がある一方、静電容量式センシングにはそのような弱点がありません。最短距離の問題を回避する一つの解決法として、受信と発信でそれぞれ異なる超音波トランスデューサを使用する方法があります。また、アクティブ・ソナー音を発信した直後に、トランスデューサの振動を能動的に抑制する方法もあります。

対象物合成の影響
静電容量式センシングは、センサと外界の間の静電容量の変化を検知するため、検知される対象物の電気的特性に左右されます。これは、隣接する対象物に対する静電容量アンテナの反応性がアース接続の強さや対象の伝導性の強弱により影響を受けることを意味します。

超音波式センシングは対象物の音波特性に左右され、強力なエコーは対象物の断面積と、対象表面の音響インピーダンスに左右されます。大型の対象物は小型の対象物よりも、明らかにエコーは大きくなり、布や毛皮のような柔らかい対象は硬く表面が滑らかな対象物に比べてエコーは小さくなります。

外的要因の影響
静電容量式も超音波式、どちらのセンシングも、外的要因の干渉から完全に免れることはできません。静電容量式センシングでは、電波妨害(EMI)と、センサ・アンテナ周辺の電気的特性の予期せぬ変化の影響を受けます。例えば、携帯電話、蛍光灯、電気モータは、静電容量の計測に影響を与える可能性のあるEMIを発します。この影響を軽減する方法として、異なる周波数で電気ノイズを無視する狭帯域周波数センシングを使用する手法があります。また、電気的環境における予期せぬ変化には、ゴルフクラブや他の金属体をトランクに置くなどの事象も含まれ、センサにより計測される基準静電容量を変化させる可能性があります。

超音波トランスデューサは特定の共振周波数を持つことから本質的に、その反響において狭帯域です。しかし、エアブレーキによるホワイトノイズといった、広帯域の音響ノイズはトランスデューサの超音波領域に多く含まれることがあり、エコーとして誤認される可能性があります。また、トランスデューサは、外的環境にさらされて初めて機能することから、雨や泥が付着しやすく、センシング・アプリケーションの精度に悪影響を及ぼす可能性があります。図3は、センサに付着した雨と泥の写真です。

図3:静電容量式センサにかかった雨と超音波式センサに付着した泥

まとめ
静電容量式、超音波式のいずれかのセンシングを使用することで、ハンズフリーのキック・オープン機能を車載アプリケーションに実装することができます。それぞれの長所を見比べて、どちらの方式が貴社のニーズを最も満たしているかを見極めてください。

<参考情報>
+車載静電容量式キック・オープン機能リファレンス・デザイン
+車載超音波式キック・オープン機能リファレンス・デザイン
+トランスデューサ付き『PGA460-Q1』超音波センサ・シグナル・コンディショニング評価モジュール
+ 2容量式センサ評価モジュール付き『FDC2214』

※すべての商標および登録商標はそれぞれの所有者に帰属します。
※上記の記事はこちらのBlog記事(2017年9月6日)より翻訳転載されました。

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