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ENCOUNTER 02/2017「Drive Jam Session」【アウディ ジャパン】

2017年8月31日


“Drive Jam Session”

[Jam Session - 渋滞を求める人々]

ほとんどのドライバーにとって、交通渋滞ほど鬱陶しいものはありません。しかし、ペーター ベーグミラーの下で働くアウディのエンジニアたちは違います。彼らにとって、交通渋滞はむしろ「宝の山」なのです。というのも、現在彼らは、新型Audi A8用の「Audi AIトラフィックジャムパイロット」の開発に取り組んでいるからです。このテクノロジーを完全に信頼できるものにするために、彼らは嬉々として、渋滞の車列のなかで、長い長い時を過ごしているのです。

皆さんも経験してよくご存知でしょう。交通量が次第に増えて、流れが遅くなっていく感覚。点灯するブレーキライトの数が増えてきて、ハザートライトを点滅させるクルマも現れる。そして、ついに流れが完全に止まってしまう。見渡す限りのクルマの列。ほとんどのドライバーが、ため息をつく瞬間ですが、ペーター ベーグミラーは、この瞬間を待ち望んでいました。「ついにちょうどいい感じの渋滞が来た!」と。

彼は、新型Audi A8の「Audi AIトラフィックジャムパイロット」を開発しているのです。このシステムを搭載した新型Audi A8は、60km/h以下の比較的混雑した交通状況下で、高度な自動運転機能を発揮することができます。しかし、ドライバーが単純にボタンを押して、運転操作をクルマに任せ、小説を読んだり、メールを書いたりできるようになるまでに、ベーグミラーと彼のスタッフは、もうしばらくのあいだ交通渋滞のなかで、時間をかけテストを続けなければいけません。こうしたアウトバーンでの骨の折れる実験を通じて、お客様に信頼していただける、高度な自動運転システムを完成させることができるのです。


この日は、週末を控えた6月上旬の暑い金曜日。交通渋滞は南へと伸びています。ベーグミラーはこの日も、ここ最近ずっと続けているように、インゴルシュタット工場の作業場からドライブをスタートさせました。技術開発部門に属するその部屋は、いつも清潔に保たれています。ここでの主役は、トルクレンチではなく、ケーブル類です。室内には合計10台の実験車両が一列に並べられていて、そのうちの何台かは、カモフラージュされた新型Audi A8のプロトタイプです。ほかにも、開発用の実験車が何台か置かれています。すべての車両は丁寧にセッティングされ、ジェット飛行機のそれを思わせる計器類が搭載されています。

エンジニアたちが、ひとりふたりと集まってきました。皆がリラックスして、にこやかな表情を浮かべています。車中で長い時間を一緒に過ごすうちに、エンジニアたちのあいだに強い団結力が生まれているのです。そうこうしているうちに、ベーグミラーが交通状況のチェックを始めました。ベーグミラーは、紺のジーンズに白いシャツを着ていますが、これがエンジニアたちの標準的な服装です。スマートフォンでHEREのアプリを確認すると、アウトバーンA9の幾つかの区間が、濃い赤色の光を放っています。「理想的な状況になっている。すぐに向かおう」。ベーグミラーは嬉しそうな顔でそう言いました。


どうして、このような作業をするのですか?「交通渋滞にはまると時間が無駄になってしまいます」。「我々の目的は、渋滞中の時間を、お客様にとって可能な限り心地良いものに変えることなのです。車内で、もっと時間を有効に使えるようにしなければなりません」。その間に実験室では、システムのプログラミングが進められています。トラフィックジャムパイロットのシステムでは、28の異なるコントロールユニットが互いにネットワークされており、その最適な連携を得ることが、開発上の課題になっています。これは恐ろしく手間のかかる作業で、コンピューターによるシミュレーションが大きな役割を果たしています。しかしながら、不確実性を完全に解消するためには、ロードテストも欠かせません。「様々な交通状況において、他のドライバーがどういう行動をとるのか、実地で確認していくことが重要です」と、ペーター ベーグミラーは説明しています。

エンジニアたちは、複雑極まりないその作業を、例えを用いて説明します。「なかには、人間の第2の本能と思われる行動もありますし、少なくとも、緊急車両が通れるように車線を空ける行動なども考慮しなければなりません。しかし、それをクルマに教えるのは至難の技です」。このことからも、開発には多くの作業が必要になっています。「これまであまり着目されていなかった細かい事柄についても、我々は、なおざりにしていません。ドライバーが渋滞のなかでトラフィックジャムパイロットを稼働させたときには、いかなる間違いも許されないからです」と、ベーグミラーは強調しました。

この日、公道走行テストに参加したのは3台のクルマです。そのうち2台は、カモフラージュが施された新型Audi A8で、残り1台は、新型のテクノロジーを搭載した、見かけは従来型Audi A8の、いわゆる「テクノロジーミュール(技術開発を目的としたテスト車両)」です。ベーグミラーは、2台ある新型のうちの1台を運転。助手席には、同僚のフェリックス ラウテンシュラガーが座っています。ラウテンシュラガーは、ノートパソコンに表示されるデータを注視しながら、自動運転機能を稼働させていきます。彼らは、レンティングから南に向かうアウトバーンA9に乗りましたが、交通の流れはスムーズで、Audi A8は140km/hの速度で走行していきます。これだけの高速でも、ベーグミラーに求められる操作は、両手をステアリングホイールにおいて前方を眺めることだけです。アダプティブクルーズアシスタントのおかげで、他の操作はクルマがすべて代行してくれます。

ほどなくして、カモフラージュフィルムで覆われたプロトタイプを、スマートフォンのビデオで撮影する人が現れるようになりました。ベーグミラーとラウテンシュラガーは、ユーモアでそれに応えます。実際、クルマは、インテリアも完全にカバーされています。テスト作業の内容は、例えば、ステアリングホイールに設置されたセンサーが、ドライバーの手を認識するのに必要とする接触のレベルを測定することです。「ドライバーが運転操作に戻る方法を、規定しておかなければなりません」と、ランテンシュラガーは説明しました。「でも問題は、そのことをどうやってクルマに伝えるかなんです」。ベーグミラーは何度もステアリングホイールを握り直します。ときには優しく、ときには、クルマに急かされるように強く。こうした測定データも、後で非常に役立つのです。

28
トラフィックジャムアシストでは、28の異なるコントロールユニットがネットワークで相互に結ばれています。渋滞のなかでクルマを安全に走行させるためには、レーダー、カメラ、超音波センサーなど、周囲の環境を測定する様々なセンサーが必要となります。そうしたセンサーからのデータはすべて、zFAS(セントラルドライバーアシスタンス コントロールユニット)で演算処理されます。

渋滞にはまると時間が無駄になってしまいます。
我々の目的は、渋滞中の時間を、より有効に時間を過ごせるようにしなければなりません。

ペーター ベーグミラー
ドライバーアシスタンスシステム開発部門

トラフィックジャムパイロットが、公道での使用認可を得るためには、さらに細かい細部の詰めが必要となるでしょう。「このテクノロジーにより、我々は新しい領域に踏み込もうとしています。それだけに、新しい基準や法律が世界規模で施行される必要がありますが、依然、まとめられていないのです」。もうひとつの重要な側面は、国や大陸によって、ドライバーの習慣や行動が、かなり異なることです。「中国では、複数の大都市でドライバーの行動を分析しましたが、その結果、交通渋滞に際して彼らが車線変更をしたりするときの行動は、ヨーロッパのドライバーのそれと、大きく異なることが分かりました。トラフィックジャムパイロットは、そういった地域固有のニーズにも、対応できなければなりません」

毎日運転している自動車ユーザーには妙に聞こえるかもしれませんが、「恰好の」交通渋滞を見つけるのは、想像以上に難しいのです。「我々は非常に実践的なアプローチを採用しています。単純にGoogle MapsもしくはHEREを見て、状況を確認することにしているのです」と、ペーター ベーグミラーは語っています。そのため、彼らは、朝もしくは夕方には、ミュンヘンに向けてドライブするようにしています。しかし、そこではあまり成果が得られません。ベーグミラーによれば、「模範となるような交通渋滞」はシュツットガルトの周囲、及びドイツ最大の工業地帯であるルール地方で発生します。


一般のドライバーであれば、最後の5分間は、ビデオを見て過ごすことができたでしょう。
ペーター ベーグミラー
ドライバーアシスタンスシステム開発部門

しかしながら、週末を控えたこの日は、ミュンヘンへの移動だけで十分でした。渋滞が始まったのはガーシング北からです。クルマの流れが緩やかになって、渋滞が近づいていることが伺えます。アダプティブクルーズコントロールの働きにより、Audi A8はスムーズに完全停止まで導かれました。ペーター ベーグミラーが、センターコンソールに設置されたトラフィックジャムパイロットのボタンを押します。すると、アウディバーチャルコクピットのなかにあった丸形のタコメーターとスピードメーターが姿を消し、代わりにクルマ自体の画像が中央に現れました。これは意図して抽象的なものになっており、ガードレールや障害物といった、重要なポイントだけが表現されるようになっています。

ベーグミラーはようやく、もっとも試したいと思っていたことを、実行できるようになりました。彼はステアリングホイールから両手を離し、シートバックを傾け、車内で可能な別の活動を始めることにしたのです。TVでニュースが放映されていました。Audi A8はそのまま、自動的に、ストップ&ゴーが続くノロノロ運転に対応していきます。あたかも見えない運転手がステアリングホイールを握っているかのように。「一般のドライバーであれば、最後の5分間は、ビデオを観賞して過ごすこともできたでしょう」と、ベーグミラーは誇らしげな表情で語っています。

開発者にとって、実りある1日になりました。しかし、それでも彼らは、この気の遠くなるような作業を続けます。
「トラフィックジャムパイロットほど複雑なネットワークを必要とする機能はほかにありません」と、ベーグミラーは開発作業の難しさを強調しました。それでも、2年半の時間をかけて、ここまで到達することができたのです。ベーグミラーとスタッフは、今後さらに多くの時間を、渋滞のなかで過ごすことになるでしょう。「すべてのハードワークが成果に結びついていくのは楽しいことです」と、Audi A8でインゴルシュタットに戻りながら、ベーグミラーは語りました。帰りのアウトバーンは空いていて、渋滞の影はどこにも見られませんでした。

トラフィックジャムパイロット機能の信頼性を高めるカギは、非常に複雑なテクノロジーを連携させることです。

車内では、28の異なるコントロールユニットがネットワークで相互に結ばれています。渋滞のなかでクルマを安全に走行させるためには、レーダー、レーザー、カメラ、超音波など、周囲の環境を測定する様々なセンサーが必要となります。そうしたセンサーによるすべての測定値は、zFAS(セントラルドライバー アシスタンス コントロールユニット)で演算処理されます。

アウディは、これらの異なるテクノロジーを使用して冗長性を確保し、安全な自動運転を実現しています。

新型Audi A8において、トラフィックジャムパイロットは、とりわけブレーキシステムと連携して作動します。さらに、新型Audi A8は、ドライバーが運転可能な状態にあるかどうかを検知するセンサーと、ステアリングホイールを握っているかどうかを判断できるセンサーを備えています。

このシステムは、トラフィックジャムパイロットによる自動運転と、ドライバーによる手動運転を非常にスムーズに切り替えることが可能です。もし何らかのエラーが発生しても、安全性は保たれます。

※本資料は、Audi ENCOUNTER 02/2017 「Drive Jam Session」の翻訳版です
 原本URL:https://audi-encounter.com/en/staupilot








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